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結婚式は、エリゴスの前で順調に行われた。
橋を背に行う結婚式は、みんなに見られながら続いていく。
エリアの式場は、ずっと晴天だ。雨も降らないし、夜にもならない。
ここの時間は特別なのだろう。
一応これは、ロゼを助けることだ。
エリゴスは聖書を持ちながら、僕とロゼを見ていた。
「汝、ブラウはロゼを生涯愛することを誓いますか?」
「ち、誓います」ちょっと緊張して声がたどたどしい。
周りの参列者からは失笑のような笑いが聞こえてきた。
ロゼは、恥ずかしいのか顔を赤らめた。
「もう、お兄ちゃんたら」
「ではロゼ、汝はブラウを生涯愛することを誓いますか?」
「誓いますっ」ロゼはきっぱりと言い放った。
「よろしい、では指輪を」
そう言いながら、僕とロゼは指輪を取り出した。
さっきエリゴスからもらった指輪だ。
「これはやる必要ないんじゃないのか?」
「いいのよ、雰囲気なんだから」僕の小声に、ロゼが返した。
僕はロゼの左手を優しく握った。
もちろんアバターだが、ロゼは僕の手を感じていただろう。
そのままロゼの薬指に、指輪をはめた。
ロゼも同じように僕の薬指に指輪をはめた。
「では、キスを……」
エリゴスが、僕とロゼにキスを求めてきた。
「いよいよだ」小さく僕はパソコン画面で呼吸した。
「うん」ロゼも僕も一気に緊張が走る。
結婚式の全ては、キスが目的だ。
「お兄ちゃん」顔が赤いロゼが不意に言ってきた。
「どうした?」
「あのね、キスしたら話したいことがあるの」
「話したいことって?」
「それを話したら、キスできなくなるかもだから……ね」
ロゼが可愛く笑ってみせた。ロゼの感情はアバターでも豊かだ。
そして、僕のパソコン画面にはキスのモーションが見えた。
このモーションは結婚式でしかできないモーションだ。
「キスモーションが出た」
「彼女の魂にキスをできるのは君だけだ。
血のつながっている君にしかできない」
目の前のエリゴスが小さな声で言ってきた、僕は息を呑んだ。
いつの間にかロゼが目をつぶっていた。
女はこういう時は覚悟を決めるのが早い。
早くして欲しい、そんな空気を出してきたロゼ。
「うん」
彼女の顔に、小声で言った。
僕は大きく深呼吸をして、ロゼの唇に顔を近づけた。
ロゼの顔が大きくなる、だけど急にロゼが消えた。
「消えた?」
「そう、消したの」
そこにはゴモリがいきなり現れた。
ゴモリの隣には、力なくうなだれたロゼだ。
それと同時に、エリゴスが険しい顔に変わっていた。




