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僕らが走り回った三時間、運営に結婚式を頼めば終わりではない。
何より、いろんなことがあった。
三時間走り回って疲れた僕とロゼは、ようやく自分の家に戻ってきた。
結婚式のやることは様々だ。
それはリアルでもゲーム内でも変わらないだろう。
まあ、規模が小さいだけにネットの方がやりやすい。
招待状の作成と、衣装合わせ。
指輪は運営から用意されていた。
僕の衣装を買うのに、ロゼといってかなり苦労したが。
そんな僕らは、準備を終えて結婚式の支度を始めていた。
急な結婚だけど、メールで呼びかけたら意外とくるものだ。
「お兄ちゃん、これでいいでしょ」
そして、僕は真っ白なタキシードを着ていた。
ちゃんとした衣装を着ると、緊張感が増すな。
シュバルツから買ったドレスを着たロゼが、僕のタキシードの襟を正す。
「ロゼも可愛いな」
「ありがと」ロゼは僕に言われて照れていた。
シュバルツから買ったピンク色のドレスを着ていた。
髪も綺麗に飾られて、ロゼが本当にかわいかった。
「でも、それだけ?」
「ああ、すごく似合っている」
「むーっ、結構時間……かからなかったけど。あたしの夢なのよ」
「そっか」僕が言うと、ロゼがそっぽ向いた。
そんな僕は、単純にロゼに質問をした。
「これって、本当はいいのか?」
「何がだよ?」
「結婚式をまさかやるとは」
「ねえ、お兄ちゃんはあたしとじゃ……イヤ?」
「ロゼ……どうだろうな。本当は兄妹じゃあ結婚できないし」
「そうよね」
なんだかロゼは照れていた。
僕もロゼが照れると照れてしまう。
「お兄ちゃんは、あたしのことが好き?」
「あくまでこれはロゼのため、アバター・インターフェイスの呪いを解くためだ」
「でも、結婚式は夢なのっ!女の子の憧れなんだから」
ロゼの瞳が輝いて見えた。でもそんな僕が、ロゼをじっと見ていた。
「誰のだ?」
「あたしに決まっているじゃないっ!」
ドレスを着たロゼは胸を張っていた。
髪をなびかせて、部屋の窓から外を見ていた。
「もうすぐ迎えくるんでしょ」
「そうだな、運営の方で来るみたいだ。
なんいうか、リアルの結婚ってどうなんだろう?」
「少なくともあたしの家族は……幸せだったわ」
「ロゼ……記憶が戻った?」
「ちょっとね、ママが言っていたの。だけど……裏切った」
ロゼの言葉に、僕は思う節があった。
父は二回結婚し、離婚している。そこに僕はついて行くしかなかった。
幼くて力がなかったから。
あの時、もっと大きければ僕は守れたのかもしれない。
今ここにいるロゼも、祐里奈のことも。
「そう考えると僕も同罪……だよな」
僕の父はロゼの母を裏切った。一応僕の母親でもあるが。
そんな僕は母を知らない、ロゼは僕の父を見たが話すことができない。
「結婚って家族ができるんだよな」
「一人が二人になって……」
「三人になって四人になって」
「離婚」
「ロゼっ」いたずらっぽく言うロゼを突っ込んだ。
ロゼが緊張をほぐすためにあえて言ったのだろうか。
「そんな家族でも……あたしはずっと夢を持っている」
「夢?」
「お兄ちゃんが失っても、あたしが持っているもの」
その言葉を聞いて、僕は胸が痛くなった。
ロゼは今でも輝いている、僕なんかよりもずっとまえを向いていた。
ロゼは強いんだ。いや真壁 真衣は、僕が思っているよりよっぽど強いのかもしれない。
「だからあたしは……」
「そろそろ、はじめましょうか」
そう言いながら出てきたのが、エリゴスだった。
エリゴスは、どこからどう見ても神父に見えた。
神父のエリゴスは、手に二つの指輪をもっていた。




