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~~バイエル公国・小黒鷲旅団家~~
ゲーム内の僕の部屋は、広い。
リアルとは大違いで、ベッドや本棚もあった。
こうして見ると、リアルよりもゲームの世界の方がよほど豊かだ。
なにせ僕はこの世界だと、宝くじの特等を当てた幸運の持ち主ということだから。
僕がゲームに入り、ブラウになった。
ゲームに入るとロゼは姿を現す。しかし、その顔は浮かなかった。
「さて、ロゼ……」
「うん」
「というわけで結婚式の申し込みをしてきた」
「本当にするのね」
僕が話すと、ロゼは恥じらった顔を見せた。
さっきから顔がずっと赤い。
「キスモーションだけなら、結婚式開かなくてもいいと思うわけだが」
「そういうシュチュレーションでしかできない仕様なのよ、仕方ないでしょ」
「仕方ないって……」僕が突っ込むけど、ロゼはそっぽを向く。
「あの男を信じるの、あの女も?」
「わからない、だけど……」
「だけど?」
「ロゼ……真衣が戻らないのは嫌だ」
「あたしだって……いやよ」
ロゼは照れてしまった、僕も柄にもない事を言って視線を逸らす。
「でも人前でキスをするのは僕よりも、あたしがずっと恥ずかしいのよ。
アバター・インターフェイスは、アバターを実際に感じるの」
「わかっているさ、優しくする」
「うん、分かればいいの」ロゼは顔がずっと赤い。
僕のアバターの顔は、モーションとして照れるのはあるけどアバターが赤くなるのはない。
「でも、ゴモリのクエストはいいの?」
「今のところ配信はないようだ。それに……」
「それに?」
「結婚式の後、僕は仙台に行くことにした」
「場所はわかるの?お金は?」
「前回で病院が出てきた、その前は中学校だ。この二つは大きなヒントだ。
公共機関だけに、場所の絞り込むはある程度できるし何より……」
「佐藤先生……エリゴスに聞けるのね」
ロゼの言葉に僕は頷いた。佐藤先生はエリゴスだった。
エリゴスはロゼの保護に動く。あの話の後、保護する役目を僕は志願した。
佐藤先生は、それを了承してくれた。
「眠り姫が起きたとき、誰もそばにいないと寂しいだろ」
「うん」ロゼが照れているようだ。
どうやらキスをするので興奮しているようだ。
僕の顔を見るなり、顔が真っ赤になった。
「ロゼはキスが初めてか?」
「な、な、何言っているの?初めてなわけないじゃないっ!」
わかりやすいリアクションだ、初めてだ。
「一応キスって言っても、僕のアバターとするわけだから」
「あたしには感覚があるのよっ。だいたい兄妹で結婚って、おかしいじゃない!
近親相姦じゃないの?」
「結婚だけなら近親相姦は関係ないだろ、それにリアルでは結婚できないけどネットでは問題ない」
「そりゃあ、そうだけど……」
ロゼなりのリアルでの結婚観があるようだ、女だし当然か。
「お兄ちゃんは、好きな人いるの?」
「ああ、いるよ」
「えっ、誰々?」
「そりゃあ、家族だよ。小黒鷲旅団のメンバー」
僕の言葉に、呆れた顔を見せたロゼ。
「それ、ズルい」
「ズルくない、僕は本当に好きなんだ。
リアルにない家族、僕の居場所。でも、この居場所のおかげで知ったこともある」
「なんなのよ?」ややぶっきらぼうに聞いてきたロゼ。
「リアルも、捨てたもんじゃないってこと。
この家族、小黒鷲旅団が僕に教えてくれた」
「そっか」ロゼはニヤニヤと笑っていた。
さっきからロゼの顔がめまぐるしく変わるな。
「まあ、結婚式なんてなかなか経験できないからな」
「そうね……二度とできないかもしれないし」
「縁起でもないこと言うなよ。ロゼ、お前はリアルに戻って幸せになれよ」
「お兄ちゃん」
ロゼと僕は互いに見つめ合った。
じっくり顔を見るとロゼがしおらしく、か弱く見えてしまう。
とてもいい雰囲気だ、自然と僕とロゼの顔が重なった。
「早速やっているのか」
突然、僕の部屋のドアが空いた。
そして、そこには意外な人物がやってきた。しかもそれは二人組だった。




