(仮)幽霊モノ
novelist からの転載です。
思いついてすぐに書いたショートです。
祐二がその女性を見たのは今週で三度目だった。
「ああ、またか」と口に出してしまった。
柱の陰から青白い顔をした女性が、こちらを見ている。
明らかにこの世の存在では無い。
恐らく俗世に未練が残っており、成仏できないでいるのだろう。
霊感のある祐二を狙っているのかもしれない。
避霊術を使っているのに、今日のはどうもタチが悪いなと祐二は思った。
除霊術とは異なり、避霊術は自身を追跡してくるこの世のものでない存在を様々な仕掛けで惑わせ、逃げて安全を確保するというものである。
一度目は「歩術」を使って、路地裏に誘い込んでうまく逃げ切れたのだが、数日後には学習されたのか、一定の距離を保ちながら追跡して来るようになった。
二度目は「社」を使い、偽の社を書いて霊道の脇道を作り、誘い込んで逃げたのだが今日また彼女を見かけたのだった。
今まで遭遇したこの世のものでない存在は、二度目の「社」で全て逃げ切れていたのだが、二度目の「社」も破られたとなると、他の手を使うしかない。
祐二の家系は、代々先祖が作り出した避霊術を受け継いでおり、正当後継者の母親から全ての術を学んだわけではないものの、祐二もいくつかの避霊術は習得していた。
祐二は友人の明美を呼ぶか考えたのだが、携帯を会社に置いてきたことに気づき舌打ちをした。
明美の家系は祐二と同様に代々除霊術を受け継いでいるので、困ったときは呼び出して有名店のスイーツを条件に除霊させていた。
「どうするかな・・・」
避霊術の中にも、対象を攻撃する仕掛けが無い訳ではないが、どうも”彼女”からは邪気が感じられることも無い。
荒事は避けたい祐二であったが、今は午前2時。
仕事の納期が近いために、残業でこんな時間になってしまった。
9時からはまた仕事であるため、少しでも早く帰って睡眠を取らなければ明日の仕事に差し支える。
祐二は仕方なく鞄から紙とボールペンを取り出し、腰からベルトも外した。
紙を捩りながら「念」を込め、呪文を唱えながら手早く術式を書いていく。
”彼女”がゆっくりと近づいて来るが、落ち着いたまま続ける祐二。
ベルトに術式を書いた紙を巻きつけ、ベルトを巻いた状態で路上に置いた。
”彼女”からはそのベルトは見えていない。
相手に悟られないように、祐二が”彼女”から小走りで逃げる。
そして”彼女”がベルトの上を通過しようとしたその時であった。
ベルトが宙に浮かび上がり、彼女の体を強力に締め付けた。
「ぎゃああああああ、痛い、痛いよぉ・・」
”彼女”が泣き叫ぶ。
祐二が戻ってきた。
「何故、この世に留まり続ける!お前の未練は何だ!」
祐二が語気を強くして、語りかける。
こういう時は強気でいかなければいけない。
「隆・・・どうして私を殺したの・・・。隆・・・会いたい・・・。あの女が憎い・・・。私の恨みを・・・知ってほしい・・・。」
その言葉を聞いた後、祐二は呪文を唱えて術を解除した。
午前4時ごろ、祐二はタクシーを拾い、”彼女”も乗せて山奥のある場所へと向かった。
タクシーの運転手は、運転中背筋に寒気を感じたようだがその理由に気づくことは無かった。
山奥のある場所に着いたときには午前6時。
タクシー運転手にも同行してもらい、懐中電灯で地面を照らしてもらいながら、
祐二は”彼女”から聞いた場所を、実家から持ってきたシャベルで掘り起こしていった。
運転手は不思議そうな顔で見つめていた。
そしてある程度掘ったところで、遂にビニールシートに包まれた”彼女”の遺体を見つけ、手を合わせて祈った。
その時タクシー運転手は、「ああああ」と叫び動揺が隠せないようだった。
祐二はすぐにタクシー運転手に警察に連絡を入れさせた。
その後、祐二は”彼女”に話し掛け、”彼女”は「ありがとう」と言い残してすっと宙に消えていった。
しばらくして警察が来た後、祐二とタクシー運転手は事情聴取を受けた。
祐二はその後会社に連絡を入れて、体調不良と伝え、夕方から出勤することにした。
M県に潜伏していた隆と同棲していた女が殺人と死体遺棄容疑で逮捕されたのは、その三週間後のことだった。
祐二の持っていた仕事は仕事仲間の協力もあって、無事に納期に間に合った。
もうちょっと膨らませたいですね。