魔方陣と魔力
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カイルさんは、屋敷から出るのには手を貸すといったが、今回の調査に巻き込むのは反対した。
「情報を与えてくれるのは助かるが、そのために君が危険な目に遭うかもしれないのは黙っていられない」
「相変わらず堅物だな、カイル。もう少し柔軟性を持ち合わせろ」
「君が何にでも適応しすぎなんだよ」
「では聞くが、アリア嬢を表向きには巻き込まずに伯爵の悪事を暴いたとする。その場合、証拠はどこで仕入れたかという話になるだろう。もう何年も今の状況にあるんだ、外部の人間に自ら情報を流すほど奴らも馬鹿ではない。アリア嬢をヴァーリアン家から救出する手助けをした時点で、そこから繋がりを推測するだろう」
うん、確かに。
国がいま抑えている情報だけでは父のしていることはわかっていない。
身内である私が一番怪しいのだ。現に、恨まれるようなことをしているので真っ先に疑うだろう。
「そのための取引だ。命を狙われることになっても、それを防げる環境を与えることも含めればいい。どうせお前のことだ、養女だのなんだのと世話を焼くに決まっている。俺はすでに、魔法を教えるという条件を呑んだ」
そう、彼には庭での話し合いの際に、すでに条件を突き付けていたのだ。
それに対してカイルさんが「弟子をとるのか?」と驚く。
「王に促されてもさんざん話を流してきたお前が…!?」
「教えたいほどの資質を持った奴がいなかっただけだ。それに今の王宮の魔術師はじいさんばかり。俺みたいな若造が教えたって、へそをまげて理屈をごねるに決まっている。気分が悪い」
「今更ですけど、いいんですか? 私、すでにお弟子さんがいらっしゃると思ってたので簡単に言いましたが」
思わず聞けば「構わない」とあっさり言う。
「女子供はすぐ泣きわめくから好かんが、アリア嬢は賢いから手が掛からなさそうだし根性もありそうだ。それに、言っただろう。庭の精霊が騒いでいたのは、お前がいたからだと」
「ええ、そういえば…」
「精霊は敏感な存在だ。姿は隠すが、好ましい魔力を持つ人間には近づいてくる。精霊に好かれる魔術師には強い魔力があるとも言われているんだ。実際、強い魔術師は強い精霊と契約をしている者も多い」
そういえば、今まで読んだ本にも精霊の力を借りる魔法が多く載っていた。そこから選んで自分で魔法を試していたのだが。
もしかして、契約もなにもしていないから魔法が使えなかったのだろうか?
「どうせ教えるなら、強くなりそうなやつの方が教えがいがある」
「…セイ、お前ね」
カイルさんはがっくりと肩を落とす。
だが、彼の言い分も正しいので結局は私の協力を受け入れることになった。ヴァーリアン家を出た後のことは、その時の状況によって決めようと一時保留にする。
「そういえば、お二人はずいぶん仲がいいですけど、ご友人なんですか?」
「ああ、彼は学院での後輩なんだよ。王宮へも私が呼んだ」
「こいつは笑顔で物事を押し切る腹黒い男だ。俺はなぜあの時断らなかったのか後悔している」
「王宮専属になった癖に放浪癖が治っていないやつがよく言うよ」
なるほど。同じ王宮の魔術師と王の臣下、という関係にしては親しく見えたので不思議だったのだがようやく謎が解けた。
それから町の中を馬車で通りながら、私は覚えている限り怪しい店や人物を見かけたら二人に情報を与えていく。
だが降りて調べようとはしない。
馬車は結界の張ってある町はずれまで向かっていた。
私の疑問が顔に出ていたのか、「犬がこそこそ追っかけてきている」とセイディアさんが教えてくれた。どうやら父の手のものらしい。屋敷を出た時点で、ずっと後ろからつけてきていたようだ。
確かに町中をうろうろ徘徊するのは。避けたほうがいいだろう。
「ついでだ。結界の様子でも見てくるさ」
「結界は、セイディアさんだけで張っているんですか?」
「この区分はそうだな。東西南北で担当を決めている。さすがにひとりでとなると、強度に問題が生じやすくなる」
しばらく走ると、出入り注意の看板が道の両脇に立っている場所についた。
そして地面には赤く光るラインがあり、こちらから向こうには出られるが、向こうからこちらには通れなくなっている。入国する者は、もうひとつの道を通り、街の検問へ向かわなければならない。
「どうやって点検するんですか?」
「魔方陣のほころびがないか確認をするんだ」
そういうとセイディアさんは腰にさしてあった、いわゆる杖を取り出して結界のラインを軽くつついた。するとそのライン上にいくつかの魔方陣が現れる。おお、漫画みたい! と思っていると「それぞれの魔方陣の違いがわかるか?」と聞かれた。
「違い、ですか?」
「そうだ」
私は、うーん と唸りながら魔方陣を見つめる。
魔方陣は大きなものが三つ、それにいくつかの小さなものもあった。
「そういわれても、赤いのとか黄色いのとか、色のイメージでしか判断できないですよ」
「ほう?」
「赤いのはなんか熱そうだし、黄色いのは、なんか痛いかんじ?」
「右端のはどう見える」
「紫のですか? なんかぐるぐるしてます」
答えると、セイディアさんは愉快そうに笑った。
え、馬鹿にされてる?
だがカイルさんが「私には色も何も、ぼんやりとしか輪郭が見えないけどね」といった。
「そういうことだ。カイルは魔術師タイプじゃないから、こういった暗号化された魔方陣はぼんやりとしか見えない。魔力の低い者にも、色まではわからん。アリア嬢の答えはほぼ正解だ。この魔方陣には、通ろうとするものに火傷を負わす魔法と、感電させる魔法、それから竜巻で弾き飛ばす魔法が組まれている」
「なんかすごいえげつないですけど。特に最後のひとつ」
「それだけ警告をしているってことだ。残りの小さな魔方陣はいうなれば最終手段。万が一結界が敗れた際、俺や国の兵士がたどり着くまでの足止めトラップになっている」
どんなトラップか知りたいか聞かれたが、それもえげつないネタが閉じ込められていそうだったので丁重にお断りした。
「ところで、久々の屋敷の外はどんなもんだ」
ふと聞かれ、自分が浮足立っていることに気づく。
恐らく屋敷を出た時から、無意識のうちにニヤけていたのだろう。
大人二人が何とも生暖かい視線を向けてくるので、急に恥ずかしくなる。
だが、私は熱くなった顔を無視して笑顔を向けた。「最高です」と。