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姉弟と師匠の名

タイトルが「姉妹」になってたので訂正しました(;^ω^)

正しくは「姉弟」です。



「母さん!」


村に着くと、ルーナとトムが薬草を手に家の中に入っていく。

ベッドには熱があるのであろう、赤い顔をしてぐったりとしている女性が横になっていた。彼女が二人の母親のようだ。


「母さん、薬草を見つけてきたわ。すぐに調合してもらうから」

「お前たち、二人で探しに行ったのかい?」

「ねつ、さがる?」

「ルーナ、トム、ありがとう」


子供たちの心遣いに、母親は嬉しそうに笑って二人の頭を撫でる。

それから、ドア先に立っているアリアに気づいて「あの子は?」と問いかけた。


「アリアよ。さっき男たちに絡まれたのを助けてもらったの! 魔術師なんですって」

「それは…うちの子たちがどうも…」

「寝ていてください。お気遣いなく」


起き上がろうとした母親を諭して、アリアは二人に薬草を調合するのを勧め、"ばばさま"とやらのところへ付いていった。


「ばばさま! 薬草を摘んで来たわ」

「ルーナかい? よしよし、こっちへ」


小さな家から出てきたのは、これまたずいぶんと小さな老人だった。

首には、深い蒼の石がはまったネックレスをしている。

「確かにこれは熱さまし用の薬草じゃ」と確認をして、軽く水で洗うと小鉢ですりつぶし始める。それから古い瓶の中から乾燥された薬草を取り出し、すりつぶしたものと一緒にボウルに入れるとお湯を注いだ。


「さあ、これをゆっくり飲ませておあげ。直に熱も下がるだろうよ」

「ありがとう。アリア、少し待っていてね」

「わかった」


再び家へ急ぐルーナたちを見届け、ばばさまに軽く会釈をする。


「見ない顔じゃな」

「アリアと言います。ルーナとは先ほど出会い、一緒にここへ連れてきてもらいました」

「廃れた村じゃろう…ここも二年前まではまだ人もおったんじゃがな」


ばばさまはアリアを家の中に入れて、お茶を出してくれた。


「あなたが薬を調合しているとルーナから聞きました」

「調合なんて恐れ多い…わしは少しだけ薬草の知識があるのでな、その時に必要なものを煎じて飲ませているだけじゃよ」


村は、ルーナの言う通り貧しいのだろう。

人々が住む家も古びており、今にも崩れそうな建物がある。

それに水準を満たしている村なら、小さくとも医者のひとりはいるものだ。だがこの村にはそういった者はいないし、商いをしている建物もない。聞けば、食糧などは畑を作ったり森で採ったり、この先にある町へ買いにいかなくてはならないそうだ。


「この辺りには珍しい薬草が多い。さっきルーナが母親にと採ってきたものもそうじゃ。町へ行けば、いい値はつくだろうがね。しかし、お金を手に入れたところで、この村では使いようがないんじゃ」

「あの薬草をルーナたちから奪おうとした大人たちがいました。そういった人たちはこの村にはくるんですか?」


そう聞けば、ばばさまは目を伏せる。


「…こんなに小さな村にも、お役人さんは税を課す。おかげで若いもんたちは出稼ぎにいって、この村にはせいぜいわしのような年寄りや、女子供しかおらん。それを狙ってくる愚かな者も、ごく稀にはおるよ」


それからばばさまは「あれを見てみなさい」と窓から、森の方向を指さした。

村のすぐ後ろに広がる森だが、その一帯は変に木々がなぎ倒されており、裸の部分もある。


「偉いもんが言うには、この周辺の木はいい木材になるんだそうじゃ。税の代わりにと多くを持っていかれている。わしらは森の恩恵にもあずかっておる。森がなくなっては、この地にはいられんじゃろう」


だが他の土地に移るにしても、町に行くにしても、今の村の様子では難しそうだ。老人と女子供だけでそれを行うには、いささか無理が生じるだろう。

税の代わりにと木を持っていくのなら、そこから出た利益を還元して村の生活を保護するのが普通だが、見た限りではそれも行われていない。そうでなければ、ここまで苦労して暮らすことにもならないはずだ。


「アリア、待たせてごめんなさい」


ルーナがトムを連れてやってくる。


「お母さんの具合はどう?」

「少し楽になったって」

「そう、良かった」

「アリアは城のほうから来たの?」


隣に腰を下ろし、ルーナは興味深そうに聞いた。


「うん、城下町のはずれに師匠と一緒に住んでいたよ。十三歳になったから、ギルドに登録しようと思って」

「ほう、冒険者志願じゃったか」

「出てきたばかりですけどね」


それからしばらく他愛のない話をしていたが、外が騒がしくなる。

ガン! と、ドアが蹴破られた。ルーナが悲鳴を上げてトムを抱きかかえる。

ドアの向こうには、先ほど因縁をつけてきた男と、役人のような改まった制服を着ている者たちがいた。


「なんじゃ、お前さんたちは…」

「ばあさんは引っ込んでな。俺はそっちの娘に用がある」

「ずいぶんと、手荒なご用事ですね」

「娘。お前には、この者達からの通報で盗人の容疑がかかっている」

「へえ」


アリアは立ち上がり、物怖じする様子もなく前に出た。


「私がいったい何を盗んだと?」

「貴重な薬草の盗難だ。この者たちは、国の依頼で採取に来ていた。それをお前が盗んだと聞いている」

「うそよ!」


あんたたちが奪ったくせに! とルーナが睨みつけながら言う。


「やめなさい、ルーナ。無駄だから。どうせ彼らはグルだよ」

「え…?」

「そんなならず者風情の男の話を信じるくらいだからね。主犯はあんたたちじゃないの? お役人様?」

「貴様…侮辱罪に値するぞ!」

「なるほど、それはあんたらに対する私の態度? それとも、国の名を騙る自分たちに対して?」


核心をつかれたのか、男たちの顔に動揺が走る。だが、所詮は子供の言い分だと思ったのか逆に自信の宿った顔を向けた。

先ほどアリアに蹴られた男が「その辺にしときな、後悔する」という。


「国の依頼だと言っただろう。誰の依頼か知りたくないのか?」

「ああ、そうですね。教えてくれます?」

「王宮魔術師でもある、セイディア・ルーフェン様だ!」



瞬間、アリアの膝蹴りで吹っ飛んだ。



「……笑わせる」


きれいに着地をすると、アリアはそれはもう低い声で笑みを浮かべながらつぶやいた。

男の仲間たちは突然のことに固まって動けずにいる。


「よりにもよってその名を出すとは…とことん運が悪いのか、それともとんでもない馬鹿なのか」

「っ…斬れ! 反逆だ!」


その声でアリアに斬りかかったのだが、回転をつけて剣を弾き飛ばすアリアにいとも簡単に手も足も出ない状況に陥られた。

アリアは、ざくっと自分の剣を地面に刺して、丸腰になった男たちに冷たい視線を向けた。


「それとも、本当に国の依頼だというのなら、当然あなた方の上司はそれをご存じでしょうね? 確認をとりたいので役所に連れて行ってくれますか」

「っ 、子供が、何を馬鹿な濡れ衣を…」

「師匠の名で悪事を働いているのなら、弟子である私がそれを見逃すわけにはいかないですから」


弟子、という言葉に男たちは口をあんぐり開けた。

彼に弟子がいることは、三年前から周知の事実だ。しかし、名前も何もかもも公開されていない。


「くっく…貴様こそ罪人ではないか」

「…ま、私のような子供が言っても説得力はないか。名乗ることを許されたのも、昨日のことだしねぇ」

「アリア、危ない!」


ルーナの言葉と同時に、飛んできた小刀を振り返りもせず剣で叩き落とした。

まだ武器を所持していたらしい。


「ちょうどいい。町の責任者に聞きたいことが出来たし、町に"案内゛してもらいますか」


じゃら、と左手のブレスレットが音をたてる。「"グオルク!"」と呼べば黄色の石が光る。


「"大地の力よ 我が意図する形に具現化せよ"」


地鳴りのような音が響き、地面から岩が突き出したかと思えば、それはいくつも細く形を変え、男たちを拘束する。まさに、岩で出来た檻となって。暴れようが何をしようが簡単に壊れるものではない。男たちが乗ってきたであろう馬を見つけ、アリアは檻の下に滑車を作る。即席の荷車の出来上がりだ。


「ばばさま、村の皆さんも。この一件、私に預けてくれませんか?」


騒ぎでいつの間にか村の人々が集まっていた。


「悪いようにはしません。村のことも、どうにかできるかもしれない」

「おまえさんはいったい…」

「不当な権力者が嫌いな、ただの子供です」


にここりと笑って、私はまた村に戻ることを約束した。

さぁーて、害虫を駆除しにいくかー。






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