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時は流れ、三年後。


リファルス国に広がる城下町・モールド。

至る所に咲いているマリーゴールドの花は、かつての初代王妃が愛したものだということで、この国のシンボルになっているものだ。冬の短いリファルス国では、長い期間をこの花がモールドを彩っている。

そんな町の片隅。

森を背に構え、一軒の屋敷が経っていた。

この屋敷の持ち主はセイディア・ルーフェン。リファルス国最強とも謡われる魔術師だ。




「"轟け(いかづち)!"」

「"我を加護せよ!"」


屋敷の裏、つまりは森に面する広い庭で激しい戦いが起きていた。

金髪の男が放った雷を、ひとりの少女が防御魔法で弾き飛ばす。自身の横を飛び交う光を避けながら、少女は男の間合いに入ると背負っていた剣を抜いて躊躇うことなく切りかかる。男は空中に飛び上り、見事な身のこなしで避けた。

だが少女の反撃は終わっていない、たん たんっ と軽く踏み込むと下へと落ちてきた男に再び剣をふるう。


「ぐっ…!」

「"拘束せよ!"」


刃先を腰に差してあった短刀で受け止めるが、少女の最後の魔法が男の動きを止めた。

少女の足元の影が大きく揺らめき、地から這い出ると男の腕や足に絡みつく。

ぴたり、と首元に当てられた剣を見て、男はにやりと笑った。


「お見事」

「…よし、そこまでだ」


後ろからかけられた言葉を聞いて、少女は拘束魔法を解く。

振り返ると、セイディアが腕を組んで立っている。


「まさかガリディオをここまで追い詰めるとは思わなかったが」

「剣での攻撃と魔法のタイミングがうまくなりましたね」


先ほどまで少女と戦っていたガリディオは関心したように少女を褒める。

セイディアは頃合いだろう、と少女に向き合った。


「今の試験を持って、セイディア・ルーフェンの弟子を国内で名乗ることを許そう、 アリア」

「ありがとうございます!」


少女――アリアは息一つ乱さぬまま、師であるセイディアに笑みを向けた。




屋敷を飛び出てから、三年の月日が経つ。

その間アリアはセイディアの元、魔法の修行をしていた。もちろん、当初の言葉通りに魔法だけではなく武術もだ。セイディア自身が魔法以外で戦う術を持っており、また、カイルの部下であるガリディオが定期的に相手をしてくれたので、中途半端に力をつけることはなかった。アリアがもっとも得意としたのは剣術だ。事実、国の魔術兵であるガリディオと互角以上に戦えるだけの強さがある。


「しかしカイル様が知ったら卒倒しますね。私の動きを封じるということは、国兵の七割は軽く倒してしまうということですから」

「ガリディオさんは優しいので無意識に加減をしてしまっただけですよ。殺気もほとんど感じられませんでしたし」


国の兵にも色々と種類があるそうだ。

ガリディオのように、魔力を持ち魔法と武術を扱う者は魔術兵。

魔力など一切持たず、武術のみで戦う者は一般兵。

そして魔法のみをもってして戦うのが、魔術師だ。


「これでも私的にはかなり本気でした。戦うたびに強くなっていて驚きます」


ガリディオの言葉に、アリアは照れたように肩をすくめる。

セイディアはその様子を眺め、確かにこの少女は規格外だった、と改めて思う。

令嬢として十歳まで屋敷に閉じ込められ、戦う経験などなかったはずなのに、三年で剣術をここまで極めてしまった。魔法も同様にだ。生まれ持ったものなのだろう。


「それで、アリア。この試験が終わったら俺に話があると言っていなかったか?」

「あ、はい。師匠、私は十三歳になりました」

「知っている」

「十三歳になれば、ギルドに登録ができます」


ギルドに登録すれば、薬草の採取、魔獣の討伐、その他要人の護衛など様々な依頼を受け、報酬を受けることができる。

また、世界各地にギルド支部があり、ギルドで培った成績はその者の評価にも大きく影響するので他国にも名を広めやすい。事実、セイディアもギルドに登録していた時期があったし、その評判を利用してカイルが城に招きいれたらしい。


「一度、外の世界に行きたいと思うのですが」

「…その眼は相談ではなく、決定事項か。却下しても行くんだろう」


セイディアは呆れた顔で自分の弟子を見る。

自分の考えを曲げない頑固さは、この三年で思い知らされていた。

師の問いに「はい!」と悪びれもせず笑顔で答える。


「ということらしい。城に戻ったらカイルに知らせてくれ」

「承知しました。アリア殿、しばらく会えないのはさみしく思いますが、たまには帰ってきてくださいね」

「はい、また手合せをお願いします」


ガリディオはアリアと握手をすると、セイディアの言う通りカイルへ言伝をするため城へと向かった。

「カイルが来るまでは留まれよ」とアリアに言う。先に出発されては、あとで小言を言われるのは目に見えていた。

アリアは「もちろんです」と答えると、お茶を用意するため先に屋敷へと戻る。


「しかし正直なところ、お前は学院に行くと思っていた」


探求心のある彼女だ。

学院でなら、自分が教えることよりもっと深いものが学べただろう。だが通える歳になっても、アリアはそうしなかった。すると困ったように笑い、師のティーカップに紅茶をそそぐ。


「確かに迷いましたけどね。でも、ああいう平民と貴族が共にいる場所はそれなりに荒れるでしょうし、正直そんなつまらないことに精力を費やすのなら、ある程度の知識を師匠から学んでもっと知りたいのならその時に考えればいいことです」

「俺の怠け癖が移ったわけではあるまいな?」


よくカイルに指摘される性質を挙げれば、アリアはおかしそうに笑った。


「心配ありません。私はもともと怠けものです」


他人のいざこざほど、めんどくさいものはありませんから。

なるほど、同感だ。

そんな似た者同士の師弟に毎度頭を悩ますのは、カイルの役目だ。

カイルはアリアから援助を断られていたが、それでもよく顔を見に来たし、困っていることはないか気を回してくれる。

自分がこの屋敷を出ることを反対するのなら、それはカイルだろう、とアリアは考えていた。

幼なじみの娘であり、ある意味では世間知らずの少女を、進んで自ら危ない旅に行かせようとはしない。アリアの実力をわかってはいても、常識を考えて止めてくれるのだ。

アリアもカイルは大好きだったし、心配させてしまうということを申し訳なく思っているが、決めたことを取りやめる自分ではないのだ。諦めながらもわかってくれるだろう。


さて、ご機嫌取りに彼の好きなアップルパイでも焼いておこう。


キッチンに立つ弟子の考えを汲み取ったセイディアは、「モテる女はつらいな」と、愉快そうに笑いを漏らすのだった。







三年後から始まります。

三年間の出来事は小話にしていずれか更新したいと思ってます(*^-^*)

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