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ぷろろーぐ

私、アリア・ヴァーリアンは前世の記憶を持って生まれた。

前世の私は、日本という国で生まれたごく平凡な女性。

成人してからの記憶がないのでその頃に亡くなったのかもしれない。

はっきりとはわからないので憶測だけれど。


そんな私が記憶を思い出したのはまだ五歳。

義姉が"誤って"私を階段からつき落とし、しこたま頭を打った時だ。

痛みと同時に、自分のものではない別の人格の記憶がまるで走馬灯のように頭の中に入り込んできたのだ。

目が覚めると一週間もの時間が経っていて、高熱を出して寝込んでいたらしい。メイド長のローザが涙を流して無事を喜んでくれている間、私は冷静に、今後のことを考え始めていた。




この、ヴァーリアン家を出なくては、と。




父はこの辺一帯の領主で、ヴァーリアン家は汚いお金とくだらない見栄で成り立っていた。

地位を利用して、贅沢財満。

おまえらとは格が違うんだよ、格が、という父のドヤ顔は娘である自分でもわかるのだ。

他人にとっては、鬱陶しいことこの上ないだろう。


母は体が弱く、私が物心つく前に亡くなった。

その後、待ってましたと言わんばかりに後妻に収まったのが今の義母。

私が生まれる前から関係を持っていたようだ。

彼女とその娘―つまり義姉は私を疎ましく思っているらしく、いやがらせをしてくるようになった。父が止めてくれるかもと期待していたのも一瞬。私の父親は、かつて自分が愛した女性の子供よりも、若くて美しい若妻をとったのだ。いやがらせは、黙認されている。

この屋敷で味方になってくれているのは、メイド長のローザとごく一部の使用人。

あれからさらに五年経っていたが、環境が改善されるような兆しはない。

むしろさらにひどくなっている。

与えられた部屋は北にある狭い物置のようで、日当たりも悪く冬は寒い。

食事は部屋に運ばれ、家族ととることもここ数年でなくなった。

屋敷からの外出も禁じられている。

本当ならばそろそろ学院への通学が許可される年齢だが、このままではそれすらも危うい。

けれどなんの学もないまま成長するのだけは避けたかったので、夜な夜な書庫へ忍びこみ、貧乏学生よろしく蝋燭の明かりだけで知識を取り入れていった。

なので読み書きには苦労していないし、前世の経験もあるのである程度の学力は補えているだろう。


そして勉強するにつれて気づいたのは、私が生まれ変わった世界はどうやらいわゆる「異世界」というものらしい。

文化こそ、中世ヨーロッパのように王や貴族、平民で分かれていてまだわかりやすいのだが、この世界には魔法が存在していた。ゲームの世界のように、魔法使い、騎士、勇者なんて単語も普通に飛び交うし、魔物やドラゴンまで存在しているようだった。

ファンタジー好きな自分にとっては夢のような世界なのだが、それを堪能できない今の状況にほとほと嫌気がさしている。



「家出…は避けたいところね。あとで面倒になっても嫌だし、どうせなら縁は切っておきたいし」


実行するなら的確、なおかつ完璧に。

こつこつ五年間、従順で大人しい子供を装ってきたのだ。

そのストレスをぶつけるのなら、この家を出る時だと決めている。

性格がひねくれたのは、ここでの育ち方のせいでもあるし、前世の影響も大きいと思う。

むしろ、前世を思い出していなかったら、もっと偏屈になっていたか、逆に人形のように生きていたかもしれない。


せっかく生まれ変わったんだから、楽しく生きる!


記憶を思い出した時、いちばんにそう決めたんだ。

それに――



私は鏡で自分を見た。

真っ白い肌、くりくりしたぱっちり二重まぶたと長いまつげ。母譲りの黒髪は上品にウェーブして肩に落ち着いていた。



そう!

いまの私は前世よりも明らかにかわいい!

いや、前世が地味すぎて残念だったからよけいにそう感じているのかもしれないけれど。

それでも、中の上くらいには顔が整っていると自負している。

実際、義姉のエバンナの嫌がらせは私に対しての嫉妬だしね。

自意識過剰なバカ女に成長するつもりはないので、慎ましく生きる予定ですが。





こうして十歳になった私は、徐々にこの屋敷を出る計画を進めていた。

あとは、タイミングを伺うだけ。



そんな私の思惑が神にでも伝わったのか、事態は大きく、そして急に動くことになる。










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