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前編

「いつか陛下に愛を」を読んでからお読みください。

 騎士として国の軍部に勤めるようになって数年。

 士官クラスを金で買った貴族の坊ちゃん達が、役立たず上司という配属場所ばかりで、騎士としての将来に希望をもてなくなっていた。

 貴族の子供であっても地位を継げるのは後継者ただ一人。そのため、二男や三男が軍部の士官となることが多い。金を積んで小さな小隊長から、というのが貴族の坊ちゃん達の騎士の第一歩だ。そのほとんどが、馬に乗って剣を握れればましというひどい有様だった。

 ここ100年ほどは、大きな戦争もなく平和であるからなのだろう。

 やり場のない気持ちを発散するかのように、黙々と鍛錬する日々を送っていた。

 

 そんなある日、騎士カウンゼルに声をかけられた。自分がいたところは軍部でも一番ゆるい部署であり、そこから期待の持てそうな人物を選り、国境警備隊や王宮の親衛隊へ転属させているらしい。王宮の親衛隊への移動を喜んで拝命した。

 

 親衛隊は、交代で、常時、王宮を警備している。中でも王の傍を警備する十数名は、特に武芸に秀でており、冷静沈着なことでも知られる。そして、それは、みな、貴族の子息だった。騎士カウンゼルもその中の一人。彼は、過去に優秀な騎士を排出してきた、王族とも血のつながりがあるという由緒あるオーヘンセン家の二男なのだ。

 貴族出身でなければ王の親衛隊にはなれない。それが暗黙の了解だった。

 それを破り、彼は、庶民出身者を幾人も親衛隊に取り立てている。出身の家柄は関係なく、優れたものが王を警護するべきとの考えがあるのだ。国境警備隊が庶民出身者が多く、実力集団と呼ばれるのに対し、親衛隊が貴族集団として実力を評価されていないことに懸念を抱いているらしい。

 騎士カウンゼルは、慕われてもいるが、煙たがられてもいるという、親衛隊の中では微妙な立ち位置にいた。そして庶民出身者もまた親衛隊の中では、扱い辛い存在となっていた。

 

「3日後、ナファフィステア妃が街を散策される。その時、この4人で妃の身辺を警護する」

 騎士カウンゼルと自分の他には、やや細身でまだ若いが敏捷なヤンジー、ごつくて剛腕のウルガン。騎士カウンゼル以外は、全て庶民出身だった。警護する貴族女性は、親衛隊の騎士に対して、使用人と同様な扱いをすることが多い。そのため貴族女性の警護という仕事は、親衛隊の中では非常に嫌がられている。だが警護する女性は身分が高いため、庶民の男が近くにいることを許さない。そのため、人気のない仕事でも庶民の我々に回ってくることはなかったのである。

 3人とも驚いた顔で騎士カウンゼルを見る。

「お前達のことは陛下もご存じだ。この間行われた隊内の剣術試合をご覧になられていたのだ」

 剣術試合などの武術試合は定期的に行われてはいるが、まさか、陛下がご覧になっておられたとは。王宮の警備を行ってはいても、自分たちは陛下の姿を遠くから拝見することもないのだ。

「今からナファフィステア妃のもとへ行き、みなを紹介しておく」

 騎士カウンゼルはそう言って部屋を出ようとする。

 そこへウルガンが困ったような顔で言った。

「お妃様に、自分のようなものが面会してもよろしいのでしょうか?」

 ナファフィステア妃といえば、『黒の姫君』と呼ばれる我が儘な子供という噂だ。一時は陛下のご寵愛を受けたものの、あまりの我が儘ぶりに陛下のご不興を買ったという。今回の警護が陛下のご意向であるとしても、貴族の騎士が警護ではないことをどう思うのか。

「お前は王族を警護する親衛隊員の一人だ、私と同じ。我々は、役目を果たすことを考えればいいのだ」

 そう言い切った騎士カウンゼルとともに、一向は後宮の一角を訪れた。

 

 そこは、妃にしては、随分のどかな住まいだった。

 女官に案内された居間には、犬2匹を従えた黒髪の小さな少女が立っていた。美しいとは言い難いが愛嬌のある顔をされている。

「外出に付き合って下さる騎士の方々ね。ナファフィステアよ。よろしく」

 あまりに庶民的な簡単なあいさつだった。

 騎士カウンゼルが、硬直していた。

 黒の姫君の挨拶は、庶民の我々3人にとっては、気さくな姫君だと驚くくらいだったが。

 貴族女性に囲まれて過ごしている騎士カウンゼルにしてみれば、後宮にいる妃がこの対応であるのが信じられないようだ。

 あの騎士カウンゼルが動揺するとは、普通にはあり得ないことなのかもしれない。

「オーヘンセンのカウンゼルと申します。3日後の外出時に警護させていただきます。お見知りおきください。こちらの3人も警護にあたります」

 立ち直った騎士カウンゼルは、一人ひとり名前を呼んでいく。

「ボルグ、ヤンジー、ウルガンでございます」

 名前を呼ばれるごとに、妃の前で礼をする。

 妃は順に我々を見て頷いている。

「実は、既に行きたいところは決めてあります。こちらのテーブルへ」

 そう言って、促された先のテーブルの上には、王都のごく一部の地図が簡単に書かれてある。

 地図のあちこちには丸い印がある。

「ここに書いている丸いところの店に行きたいと思っています。ウインドウショッピングもしたいので、4人に囲まれてというのは、ちょっと困るの。騎士カウンゼルと騎士ウルガンは、私から少し離れて警護できるかしら?」


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