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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

啼く鳥の謳う物語

漫画

作者: フタトキ

ノロケ注意!

(れん)はぬるま湯で絞ったタオルを洸祈(こうき)の体に這わせた。

「また無理をして…」

「…………う~………うん」

蓮は心配するが、返される声は頼りない。蓮は背中を拭いていた手を止めると、ある一冊の本に夢中な彼を仰向けにした。

「『彼に恋した僕』ねぇ…」

あからさまにアレな表紙は、

「BLって楽しい?」

「うん」

BLマンガだ。



「僕が言える立場じゃないけどさ」

「じゃあ言わなくていいよ」

「酷いね!」

キレたのは勿論、蓮。

しかし、BLマンガを真面目に愛読書する姿は、たとえ洸祈でもすこし…というか、かなり気持ち悪い。

「何で読むの?」

BLマンガなんか読まずとも、既に洸祈はリアルBLの住人ではないか。しかし、洸祈は憤慨な表情を見せた。

「だって、マンガって超ロマンチックじゃん」

そう言って、蓮にマンガのとあるページを開いて眼前に突き付ける。

「ちょっ…これ…」

「エロシーン」

素直に言うな。

紙の中の美少年をベッドの上で蹂躙しているようにしか見えない青年。

「性犯罪だね」

「違うよ!」

しかし、洸祈は真っ向から否定。

美少年を泣かせて笑う青年のどこに弁解の余地があるのだ。

「この子はシャイなんだ!こいつは正しいことをしてるんだ」

やめてくれ。

蓮は洸祈の将来に眉間を揉む。

「虐めの現場で助けてくれた彼はかっこよく、道端で捨て犬を抱く彼の孤独は自分の心を打つ。彼のことが気になって夜も眠れない。…嗚呼、僕は彼が好きになったんだ」

洸祈はうっとりと宙を見詰めた。

「つまり、この子はこの展開に満足だと?」

「まだ読んでないけど、そうに決まっているよ」

紙の中の少年は「やめて!」と連呼している。しかし、その艶かしい姿はどこかのAVのようだ。必死に純白を装いながらも誘っているドMのようにしか見えない。これがジャンルがロリショタ系の末路らしい。

洸祈は呆れている蓮の前でページを捲った。


『―くんの馬鹿っ!!!!!』

『ああ、そうだよ。お前もこういうことを望んでたんだろ』

『ぼくは…っ!』

少年はしわくちゃになって隅に積まれていた服を抱き寄せると、ズボンを履き、裸の上半身を隠すようにコートを着た。そして、涙を溢した彼は唇を噛んで好きだった人のもとを走り去った。


「破局したけど?」

「なんで!?」

洸祈唖然。

「なんでって聞かれても。あそこまでされたら、たとえどんなに好きだ好きだ連呼していたとしても終わるから」

蓮の溜め息。

洸祈はコミックを閉じて表紙を見詰めると、頭を振って蓮の胸にそれを押し付けた。

「何?」

「俺、読んでないから」

って、渡されても。

「読んだら夢が壊れるって?」

冗談半分で訊いたつもりだったが、洸祈は真剣に頷いた。そして、そのまま蓮の天蓋付きのベッドに潜ってふて寝をする。

陽季(はるき)君は違うよ」

蓮は布団をそっと下げて赤みがかった茶髪を弄ると、膨れっ面の洸祈の額にキスを落とした。洸祈は覆い被さる格好の蓮のワイシャツを見ると、そのボタンを一つ一つ丁寧に外して胸板を抱き寄せる。

「崇弥、くすぐったい」

薄いそれに喉を鳴らして息を吐く洸祈。蓮も洸祈と共にベッドに寝転がって欠伸をした。すると、洸祈が徐々に顔を赤くして蓮にしがみつく。

「?」

「…………この前……陽季、俺に裸エプロン強要したんだ」

「え?」

よく聞き取れなかった。

「興奮してる何て言うから興奮するんだ。台所で盛るし」

聞き取れないんじゃなくて聞き取りを拒否しようとしているようだ。

蓮は反射的に洸祈の口を片手で塞いだ。

「陽季君はいけないねぇ。洸祈、僕は裸エプロンなんて興味ないよ?」

誘いを掛けたつもりだが、手を離してみれば、

「俺に蜂蜜掛けて食べるとか言うし」

まだ洸祈は経験を語る。

「……何プレイ?」

「知らないよ。…………でも」

「でも?」

「蜂蜜断ってベッドでしよって言ったら激しいんだよ」

「うわっ…」

想像できるから嫌だ。

その後も洸祈は耳まで真っ赤にして羞恥を自ら晒していく。

「陽季……エロい。この漫画だって、陽季が今後の参考にどう?なんて言って…」

「だから破局は知らない?」

「馬鹿陽季。別れたいなら言えばいいじゃん」

何故そうなる。

陽季が言いたいのはエロいことをしたい、するつもりだ、などと見せ掛けて洸祈を焦らせたいだけでは?そう蓮は推測する。そして、あわよくばそのエロい展開にする、と。別に別れたいではないはずだ。

「僕はずっと傍にいるよ?」

洸祈が勘違いしているならそれでいい。

「僕は洸祈の好きなプレイをしてあげるよ?テクも自信あるし」

って言ってもどうせ…。

「陽季の不器用なとこがいいんだ。不器用だから遠慮ないんだ」

強引な方がいいのか。

「もう、恋人の自慢話なら聞かない」

「自慢話じゃないよ!」

この洸祈の不器用さをどうにかしてほしい。どこが自慢話じゃない。これはもうノロケだろう?

蓮は洸祈の手を払った。

「むーっ」

「だって、それって僕がやったら嫌で、僕が甘やかしたらそれは嫌。僕じゃ嫌なら聞きたくない」

すると、緋が揺るんだ。小さく口を開けて蓮のシャツを掴む。

「必要だ」

「?」

「俺には二之宮(にのみや)蓮が必要なんだ」

そして、蓮に口付けをした。歯列を舐め、蓮の口を開けさせる。

「キスは本当に上手だ」

「陽季に教わった。でも、蓮だから」

「何が?」

「蓮が俺に意味を教えてくれた。キスも性行も。全部、蓮」

喉を鳴らしてすがるのは洸祈。蓮の顔を自分に向け、じっと見上げる。

「蓮が俺に生きる力を与えてくれたんだ。蓮は俺の命の恩人だ」

揺らがないのは緋。

揺らぐのは紺。

蓮は影を落とす顔を隠せずに洸祈から視線を逸らした。

「蓮!」

「僕は……そんなの厭だよ…。僕が君に生きる力を与えたって、僕は君に体の売り方を教えたのかい?僕は……そんな僕が嫌いなんだ。君を変えた僕が嫌いなんだ」

シーツを抱き寄せ、膝を抱えて踞る。

「キスは……大切な人とするんだ。性行は……好きな人とするんだ。僕が君に教えた?ならなんで、僕は君に赤の他人とのキスを性行を教えたんだ。僕はそんな奴なんだよ。君を守れないから君が傷付かない方法を教えただけ。力がないからだ」

握られ皺を寄せたそれは蓮の素足を滑った。

「僕は弱虫だ。僕は泣けないんだよ。僕は君のように涙を流せないんだよ。僕は弱いから耳を塞いで何にも聞こえないようにしているだけなんだ」

蓮は震える体を洸祈から離す。

長い沈黙。

静けさが二人の間をすり抜けていた。

やがて口を開いたのは洸祈。

離れた指を見詰め、それを蓮の手に絡めた。蓮の肩が上がる。

「俺は……あのままだったら本当に使い物にされてただけ。多分、痛みも感じなかった。あの時、俺は感覚が麻痺していた。何が何なのかよく分かんなかった。ただ生きていた。蓮だよ?俺が生を実感できるのは。それに教えてくれたのは蓮だけなんだ。炎は俺に慣れとか言ってほっぽいたけど、ここがどんな場所かも、トイレの場所すら分からなかった」

「君はぽけっと立ってた」

「うん。何をすればいいのか分かんなくて、だから、誰かが教えてくれるのを待ってた。俺ってさ、訊くとかねだるとか知らなくて、いっつも人がやってくれてたから図々しく待ってたんだよ」

蓮が籠った熱に前髪を額に貼り付け、微かに濡れている瞳が洸祈に向いた。

「そうだったの?」

「マジだよ。俺って世話されるタイプみたい。見てると世話したくなるらしいよ。蓮は?」

暫くの無言。そして、蓮は頷いた。

「洸祈は何か頼りない」

「誉め言葉として受け取っとく。だから、蓮が話し掛けてトイレの場所教えてくれて嬉しかった。ヤバかったからそれだけで凄く嬉しかった。ま、あの後は……驚いた」

あの後とは蓮が洸祈をトイレに案内した後だ。

「だって洸祈が色々匂い出してたからさ、経験済みかもって、ちょっと試してみたんだ」

ヤバかったらしい洸祈がすっきりしたところで、蓮は彼を羽交い締めにして体をお試ししてみた。密着させた四肢で確認と味わおうとした。

「経験って言っても、ほんの少しだけだったし、知り合いだったから。…怖かったよ」

「ごめん」

あの後の泣き様、あれは流石にマズかったと思った。

「でさ、蓮はそれでも一度も……い…入れてないけど、今もしたい?」

「………………っ」

言葉に詰まる蓮の正面の洸祈は真剣なようだ。

「それは…つまり」

「蓮はや…やり…たい?」

正直、やれる。

可愛い可愛い洸祈には今も昔も変わらず、惹き付けられる。


だけど、それは“やれる”であって“やりたい”じゃないんだ。


「ううん。やりたくない」


「ありがと。だから、二之宮蓮が好きだよ」

洸祈は蓮に摺り寄る。蓮はそんな彼に軽く息を吐くと、よしよしと頭を撫でてやる。喉を鳴らす洸祈は満足そうだ。

「好き。大好き」

「僕も大好きだよ」

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