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不義姫  作者: 折紙
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7.【番外編】出会い

「ケイト、懐中時計の修理終わったから」

 そう言ってシータは、ピカピカに修復された懐中時計を渡してくれた。

「うわっ、すごい綺麗になってる!ありがとシータ!」

 そう言った途端、後ろで咳払いが聞こえた。

「人目のある場所では殿下。それ以外でも様をつけてお呼びしてください」

 ヤバイヤバイ、マーサもいたんだった。

 呼び方なんてシータは気にしないけど、こういう時は口を挟まない。あたしの教育をマーサに任せた以上、口を出すのはマーサに失礼だからと言っていた。

「……まぁ、今は三人だけなので大目に見ますが、きちんと直してくださいね」

「はーい」

「返事は伸ばさずに!」

「は、はいっ!」

 あたしより年下なのに、厳しいんだよなぁマーサって。

「私が王女だと知らずに出会ったから、直すのも大変でしょ」

 シータがくすくすと笑った。

「そうそう。そもそも敬語使うっていうことがなかったしなぁ」

「……そういえば、リチェ様とケイトさんはどうやって出会ったんです?」

 訝しげに聞くマーサに、あたしとシータは顔を見合わせた。

 あれは確か二年前。あたしはきっと一生忘れない。鮮烈なまでに美しいこの少女との出会いを。




《二年前》

「くっそ〜。あのオヤジ、安い金で好き放題やりやがって」

 手首を見ると、赤くなって少し血が滲んでいた。思わず溜息が出る。こんな生活、いつまで続くんだろう。

 歳を取ったら客なんてほぼつかない。ここで生きている限り結婚なんて想像できないし、戸籍が無いから外で働くにも大した職には就けない。稀に金持ちに見初められて出ていく者はいるが、大抵が愛人で終わりだ。

 セイロ橋に寄りかかると、懐中時計を取り出して撫でる。端の方が錆びてがさがさしていた。

 誰も迎えになんてきてくれないことはもう分かっている。せめて何か、この日常を忘れさせてくれる出来事があったら。

「だから、俺らが買ってやるって言ってんだよ!つべこべ言わずにさっさと来いよ!」

 突然怒鳴り声が聞こえてそちらを向くと、五人の男に囲まれている小柄な人物が見えた。フードを深く被っていて顔は見えない。

「私は花を持っていないわ」

 澄んだ綺麗な声だ。大人びた口調だが、声はまだ幼い。

 ここでは売春婦を花売りと言う。花を差し出してそれを客が受け取れば商談成立。結局は花を売るのが目的ではないので、花はその辺に咲いている野花でも構わない。

「花は売り切れたんだろ?それでも構わないって言ってやってんだよ。なぁ?」

 同意を求める声に、周りの男達もにやにやと笑いながら頷いている。

「……頭が悪いの?花売りじゃないって言ってんのよ」

「てめぇ!」

 少女の言葉に逆上した男が少女の腕を掴んだ。慌てて走り出そうとしても、間に合わない。

 ヤバイ!

 少女が無理矢理引き摺り倒されるかと思った瞬間、地面に寝ていたのは男の方だった。

 ……何が起きた?

 一瞬何が起きたのか理解できずにぽかんとしていた男達が、我に返って少女に手を伸ばす。それをあっさり避けると、少女は軽やかに後方転回を決めた。

 フードが落ちて出てきたのは、きらめく青銀の髪。瞳の色は金を散らしたように輝く、澄んだ琥珀色だった。信じられないくらいの美貌は、今までに見てきた誰よりも美しかった。

「言っておくけど、先に手を出したのはそっちよね?今から行うのは正当防衛だから」

 美貌の少女が笑うと、男達は気圧されたように後退った。

 年端もいかぬ少女なのに、なんて迫力。

 少女が足に力を入れて何か攻撃をする準備に入った時に、あたしははっとする。自慢の俊足で少女の元まで辿り着くと、そのまま少女の腕を掴んで走り出した。

「えっ!?ちょっ、貴女何!?」

「いいからっ!ああいう時は逃げるが勝ち!」




 暫く走ると、あたしは少女の手を離した。息切れが激しい。しかし少女の方は、少し息が乱れている程度だった。

 ……どんな体力してんだか。

 しかし見れば見るほど、綺麗な子だ。顔立ちに高貴ささえ感じられる。――と言っても、高貴な方なんて拝んだことはないんだけど。

「あんた新入り……じゃないよね?もしかして迷子?」

「……そんなとこ。助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。あたしはケイト」

「…………シータ」

「そっか!よろしくねシータ!」

 そう言って手を差し出すと、きょとんとしたあとにシータは声を上げて笑った。

「え!?なになに!?」

「なんでもない。握手求められたのって初めてだったから。よろしく、ケイト」

 そう言ってあたしの手を握り返したシータの表情は、すごく満足気で最高に綺麗だった。

 それからなぜか度々現れるようになったシータと他愛もない会話を重ねていく内に、随分と仲良くなった。

 たまに絡んでくる男共を一緒に蹴散らしたりしてシータの強さに驚いたのは、また別の話。

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