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不義姫  作者: 折紙
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27.即席お忍びパーティー結成

 迷惑だから三人だけで行こうという私の意見を無視して、ヴァッカスとエイラは意気揚々と部屋を出た。私は渋々それにつき従うしかない。どうしてこう、私の周りには人の話を聞かない連中ばっかりなんだろう。私、一応周りには王女という認識で通ってるわよね……?

 歩みの遅い私を引きずるようにして二人は歩く。真ん中に挟まれていては逃げることもできやしない。いやまあ、本気になればできるのだが、ここでそんな力を発揮するのはあきらかにおかしい。

「遊びでいらしてるんじゃないのよ?突然行っても無理だって」

「そうですか?先程は時間がおありのようでしたけど」

 エイラが首を傾げる。

「そうそう。せっかくだから皇子様の顔を拝ませろよ」

 お前はただ単にエイラに近付くなと、お門違いな牽制をしたいだけだろ。やはり馬鹿だ。

 長々とした廊下を進めば、嫌でもセイン皇子が使用している部屋に近付いていく。徐々に近付く部屋に、私は覚悟を決めた。

 敵を知るチャンスだと思おう。

 セイン皇子が来てすぐに行われた歓迎の晩餐会では、長旅で疲れているセイン皇子の体調を考慮して相手を知る間もなくさっさと終わってしまった。

 エストラーガ一行が帰国する前に夜会も開かれるが、何があるか分からないし。

「どちらへ行かれるんですかな、三人とも」

「…………ドク」

 周りの気配に気を配らなかった私が悪いのだが、運の悪いことにドクと兄が歩いてくるところに鉢合わせてしまった。

 なんだか最近ほんとに運に見放されている気がする。だってほら、隣であからさまに目を輝かせ始めた男がいる。

「お久しぶりです、ドク先生。これからセイン殿下をお誘いして城下へ降りようと話していたところなんです」

「これはエイラ嬢。久しぶりじゃの。この間の舞踏会にはいらしてなかったようじゃから、三ヶ月ぶりくらいかの?して、城下に行くと?」

「はい」

 お忍びで、と楽しそうにエイラは笑う。

「ほーう。それはそれは。じゃあ護衛が必要じゃな。このアルマを連れていってはどうかね?」

 ……ジジイ。絶対に言うと思った。私に護衛が必要ないことくらい、よく知っているだろうに。

「いいえ。アルマ様の手を煩わせるわけにはいきませんので」

 素っ気なく答えると、ドクはやれやれというように溜息を吐いた。……なんかイラッときた。

「前々から思っておりましたが、リチェ様は自覚が足りんの。それに、アルマにとっての社会見学みたいなものもあるからぜひ連れていってほしいんじゃが。何、それなりに腕は立つから役に立つと思いますぞ」

「先生、私がご要人方の護衛だなんて力不足です。どなたかきちんと騎士の方にお願いした方が……」

「アルマ。社会見学だと言ったじゃろう?街でしか流行らぬ病もあれば、様々な治療法もある。小遣いをやるから、医学書の一冊でも買ってこい」

 ポケットからむき出しのお金を取り出すと、ドクは強引に兄に握らせた。……財布くらい持てばいいのに。

「リチェ様、リチェ様」

 小声で呼ばれて見上げると、エイラがこそこそと耳打ちしてきた。

「あの方が噂のアルマ様ですか?」

「……噂の?」

「聞きましたよ。舞踏会でニードレル子爵のご子息をやり込めたそうですね。きっかけはアルマ様という医師の卵だとか」

 予想はしていたが、舞踏会に参加していなかったエイラが知っているということは、やはり相当話が広まっているらしい。

「話を聞いた時はぜひリチェ様の健闘を讃えたいと思っていたんです。あの方、前から嫌な感じでしたもの」

 温厚なエイラがここまで言うということは、よほど評判が悪かったのだろう。

 前々から鼻につく感じだったし、ざっくり切っといてよかったと頷いていたら、もう近くに迫っていた目的地の扉が開いた。護衛のために部屋の前で待機していた騎士の後ろから、さらさらと零れるように流れた金髪が覗き、世にも美しい顔が現れる。

「……リチェルシータ殿下?」

 天使かと見間違う容姿が不思議そうにきょとんとする様は、悔しいがなんだか負けた気分になる。どうせ私にはそんな仕草は無理だ。悪かったな、無邪気さの欠けらも無くて。

 セイン皇子が無邪気かどうかは別として、それでもやっぱり美形って得なんだなと実感させられた。あんなに婚約反対を謳ってたマーサが目を輝かせていたくらいだし。

「…………セイン殿下、ごきげんよう」

 会ってしまったからには挨拶をしないわけにはいかない。どうにかのらりくらりと躱して、セイン皇子に会わないようにできないかと思っていたのに。

「セイン殿下、先程はお話できて光栄でした」

 エイラが軽く一礼すると、セイン皇子は視線をそちらに向けた。

「貴女は先程の……。こちらこそ、様々な話を聞けて助かりました」

 柔らかく微笑むセイン皇子に、エイラは頬を染めた。それを見てヴァッカスがいきり立つが、誰にも見えないように足を踏みつけて止める。

「あの、これからリチェ様と街へ降りるんです。よろしければご一緒しませんか?」

 セイン皇子は花が咲いたように鮮やかに笑う。

「それは楽しそうですね。ご一緒してもよろしいのですか?」

「はい、ぜひ。レディシアの街も見ていただけたら嬉しいと思いまして」

「……そうですね。将来身を置くことになるかもしれない国のことを知っておくのは、王族の務めですからね」

 余計なことを!

「……え?」

 エイラの疑問の声には答えず、微笑んだままセイン皇子は視線をこちらに向けてきた。なぜ意味ありげに微笑む。

 ご想像にお任せしますとばかりの態度のセイン皇子に、聡いエイラは思い立ったのだろう。まさか、と頬を上気させた。

 兄が心配げな表情ではらはらとこちらを窺っているのが分かる。

 面白がっているドク、何かを期待したように目を輝かせるエイラ、状況を把握していないくせにセイン皇子に対抗心を燃やしているヴァッカス、一見無邪気に天使のような顔で微笑んでいるセイン皇子、心配そうに見守る兄。なんだろう、このカオス。

「そうだ。街に降りるなら護衛を一人連れていっても構いませんか?」

 当然の提案だ。そもそもきちんとした護衛もつけずに行こうとしていた私達が間違っているのだろう。

「ええ、もちろんです」

 この際一人増えようが二人増えようが一緒だ。何かあった時にこちらだけの責任ではなくなるし、むしろ連れていった方がいいのだろう。

「とても信用できる者なので。アーレ、聞いていただろう?構わないかい?」

 セイン皇子が部屋の中に声をかけると、背の高い男が出てくる。騎士らしく均整の取れた体をしているが、背が高い所為か縦にばかり長い印象を与える。長い前髪が若干右目を覆ってしまっている為か、なんだかあまり夜道では遭遇したくない雰囲気を醸し出していた。偏見だけど、問答無用で切り捨てられそう。

「はい」

 ぽつりと言った肯定の言葉は、耳を澄まさなければ聞こえないほど小さかった。身体はでかいくせに。

 いつものことなのか、そんな護衛を気にした様子もなくセイン皇子はこちらに向き直った。

「僕の護衛のアーレスト・イザークです。寡黙ですが、腕は一流なのでご安心ください」

 無表情のまま静かに頭を下げたアーレストは、セイン皇子とは違う意味で何を考えているのか読めない男だった。

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