17.夢と現実と愛と金
「どういうことですかっ!」
「どーゆーことっ!?」
「まあまあ。落ち着いてよ二人とも」
「落ち着けませんっ!」
「これが落ち着いてられるかっ!」
私は現在、マーサとケイトに詰め寄られている。
私の婚約話に戸惑っていた二人だったが、とりあえずお茶会が終わるまではプロ根性で乗り切ってくれた。
しかし分かってはいたことだったが、メリンダが退室してからの質問攻めはひどかった。マーサがケイトの言葉遣いを注意する様子も見られないくらい白熱している。
「婚約ですって!?私のリチェ様が、エストラーガのうさんくさい皇子と婚約!!」
あ、やっぱりマーサもうさんくさいと思ってたんだ。しかし私のってのが気になるんだけど。
「シータ結婚すんの!?まだ十四なのに!そんなに早く結婚して、〝もう少し遊んでおけばよかった〟なんて思っても手遅れなんだよ!?」
婚約は結婚じゃないんだけど。そもそもうちの母なんて生まれてすぐに婚約が決まってたし。
それにしてもケイト、結婚したことがあるような発言は誤解を生むわよ。
「まあ所詮はまだ仮契約みたいなものよ。英雄祭の視察で、本決まりになるかどうかね」
「では、まだ白紙になる可能性はあるんですね!?」
マーサが身を乗り出してくる。
「そうなんじゃない?」
「………………分かりました」
「……マーサ?」
「不肖マーサ、僭越ながらこの私が、リチェ様の婚約を白紙に戻して差し上げます!」
……エェー?
マーサは拳を握り締めいきり立つ。
「あたしも手伝うよ!マーサ!」
「ケイトさん!がんばりましょうね!」
「おう!」
がっしりと固い握手を交わす二人。今まさに〝婚約阻止し隊〟が結成された。
父といい兄といいこの二人といい、この城の人間は自由過ぎる。
「いずれは結婚しなきゃいけないんだから、レディシアのメリットになるなら誰だっていいわよ」
我ながら枯れた発言だとは思いつつも、本当のことだからしょうがない。
マーサがくわっと一気に距離を詰めてきた。近い!近いって!
「いけません、リチェ様!結婚とは甘く切なくすばらしく、たくさんの愛が詰まったものでなければ!それはそれは薔薇色の日々なのです!!」
マーサは本当に貴族の娘なのだろうか。結婚に夢を見過ぎて後々打ち砕かれなければいいけど。
「何言ってんのマーサ!若い身空でのシータの結婚は反対だけど、結婚に必要なのは打算と金と、ほんの少しの情だよ!これさえありゃ生きていける!」
「何をおっしゃってるんです、ケイトさん!?うら若き乙女にそんなこと言ってほしくないです!女性失格ですよ!」
「死活問題なんだよ結婚ってのは!夢だけじゃあお腹は満たされないんだよ!」
早速仲間割れか。
個人の結婚観を持つのは勝手だが、論争するのはやめてほしい。どうせそもそもの価値観が違うのだから、お互いに納得などできはしないのだ。
マーサとケイトの弾丸のような言葉の応酬を聞き流しながら、私はすっかり冷め切ったお茶を口にした。




