15.洗礼のお茶会
部屋に招き入れられたメリンダは、用意されたテーブルや椅子、ティーポットを見て目を瞬かせた。
「いらっしゃい、メリンダ。そこに座ってくれる?」
「あ、あの、殿下。一体これは……」
「座って」
戸惑うメリンダに笑顔で後押しすると、メリンダはスゴスゴと着席した。
「さて、じゃあ始めましょうか」
「一体何が始まるのです!?」
「何って、お茶会よ」
見て分からない?というように準備されたティーカップとお菓子を指す。
「せっかく若い娘が四人も集まったのだから、ガールズトークに花を咲かせるのが正しい時間の使い方だとは思わない?」
メリンダは呆気に取られたように言葉を発せずにいる。
「さ、始めましょう」
そう言って私は、笑顔でティーカップを持ち上げた。
「ねぇ、メリンダのご家族はどうしているの?カヴァサーニ家は確かにレディシア出身だと伝わっているけれど、今はファーレンにいるのでしょう?」
「はい。皆ファーレンに在住しております」
若干青ざめながらも、メリンダはしっかりと受け答えをしている。
「まぁ、それはお淋しいでしょう?メリンダ様はなぜ単身レディシアにいらしたのですか?」
マーサが確信に触れるようなことを尋ねる。悪ノリしてるな、完全に。
「祖先の故国を見てみたかったのです」
まぁ、模範的な回答ね。
「そう。知るというのは素晴らしいことよね。そういえば、メリンダはいくつなの?」
「二十二になります」
「あら。恋人はいないの?」
「……はい」
おや、これは嘘っぽい。
メリンダのようなタイプは、忠誠を誓えば決して裏切らず仕事を完璧に全うするだろう。挙動不審なのは何か忠誠を誓うことに迷いがあるはずだ。迷いがあるということは、何かしら不本意な状況にいる可能性が高い。家族か恋人を盾に取られているとか。この反応からして、恋人を人質に取られているか何かだろう。
「えー、もったいない。せっかく美人なのにー」
ケイトが菓子を頬張りながら目を丸くする。いくら無礼講とはいえ、その食べ方はマズイよケイト。
マーサが目を吊り上げているのが視界の端に映る。
「とんでもございません!」
メリンダは慌てて首を振る。
私もいつマーサが爆発するかと内心慌てながら、話題を転回してマーサの気を引くことにした。
「ねぇメリンダ。エストラーガへは行ったことある?」
メリンダがびくりと身体を揺らした。
「いいえ」
「そう?ファーレンとエストラーガは国交があると聞いたのだけど。王位継承権を持っていたのなら一度は行ったことがあるのかと思ったわ」
「私は昔からあまり王位には興味がなかったので」
「そう?残念ね、話を聞きたかったわ」
「申し訳ございません」
「いいのよ。実はね、エストラーガの第三皇子との婚約が決まったの。だからどんな人物なのか聞きたくて」
マーサが目をひん剥き、ケイトがお茶を吹き出しそうになってむせた。そういえば二人にはまだ言っていなかったか。
非常に物言いたげな視線が二方向から向けられたが、今は軽くスルーするしかない。
「……噂だけならば」
「構わないわ」
王族の婚姻が幸せなものだけではないと知っているからか、メリンダはおめでとうとは言わなかった。
「正妃の二人目のご子息で、とても美しい方だと聞き及びました。多くいる皇子、皇女の中でも群を抜いているとか」
「まあ。見劣りしないか不安だわ」
「ご冗談を。殿下の美しさはファーレンのみならず世界中の知るところですよ」
「あら、お上手ね。ありがとう。内面の方はどうなのかしら?」
「物腰が柔らかく聡明な方でいらっしゃるとか」
「そんなすばらしい方と婚姻を結べるなんて、とても光栄だわ」
とか口では言ってみたが、心中は〝うさんくせぇ〟だった。正妃の子である上に、見た目も中身も完璧?そんな皇子をわざわざ他国に?
自慢じゃないが、レディシアはそれなりに歴史の長い国だ。しかし古からある国ではあるが、世界的に見れば中堅だろう。特に国土が広いわけでもない。エストラーガのような大国が、正妃の子供を婿に出してまで何かメリットがあるとも思えない。
だけどこの婚約話が持ち上がってから、不自然に現れたメリンダ。メリンダ自身は目的を聞かされていないのかもしれないが、やはりエストラーガが裏で糸を引いている可能性が高い。
「……あら、お茶がもう無いわね」
緊張感のあるお茶会の小休憩とばかりに立ち上がってお茶の準備を始めれば、メリンダが慌て出した。
「殿下、私がやりますので!」
マーサは人が悪そうににやにや笑う。ケイトが立ち上がろうとしたのを片手で制していた。
これは洗礼の一つだ。王女自らがお茶を淹れる姿を見せて、慌てている様子を見てこちらが楽しむ。……今思えば悪趣味だな。
その後もお茶会という名の取り調べを続け、メリンダの精神力をがっつり削ってやったのは言うまでもない。




