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不義姫  作者: 折紙
13/37

13.英雄の末裔

 今朝レイロンに告げられた。

一月後(ひとつきご)の英雄祭で、エストラーガの第三皇子が来るそうです」

 レイロンの授業を受ける為にペンを握っていた私は、思わずきょとんとする。

「……英雄祭?」

「はい」

「なんでわざわざ?」

 英雄祭は世界中がお祭り騒ぎになる行事だ。どちらかといえば、レディシアに来るよりも英雄の国ファーレンに行った方が観光にはちょうどいい。

「その辺りの思惑は分かりませんが……忙しい時期に迷惑な話です」

 本気で嫌そうに溜息を吐くレイロン。彼にかかれば大国エストラーガでさえ〝迷惑〟という言葉で片付けられてしまう。

「そのことで、また陛下からお呼びがかかっていましたよ」

「…………へー」

 またか。また厄介事を持ち込もうというのか。

 とりあえず授業を中断し、レイロンを引き連れて父の元へ向かうことにした。

 道中、レイロンの長々とした愚痴まがいの言葉を延々と聞かされ、心底エストラーガを恨んだのはここだけの秘密だ。




「護衛?」

「ああ」

 父はなぜかほくほくとした顔で頷く。

「英雄祭に客人を迎えたりで警備が手薄になると悪いからな。お前の護衛を増やそうと思うのだよ。ちょうどすばらしい人材が立候補してくれてな」

 何それ超怪しい。このタイミングですばらしい人材の立候補者?

 だが父は随分と乗り気なようだ。この時期に新しい護衛などと、あきらかにおかしいだろう。父は娘可愛さに昔からどこか脳内お花畑状態だ。

 変な奴だったら返り討ちにしてやろうと心の中で呟く。

「入りなさい」

 父の言葉で騎士達が謁見室の扉を開けると、一人の女が颯爽と入ってきた。女は立ち止まると最敬礼を取る。

 背の高い女だった。歳は見た目だけなら二十二、三程度。真紅の髪は豊かに波打ち、濃い灰色の瞳は静かにこちらを見据えている。

「お初にお目にかかります。メリンダ・カヴァサーニと申します」

 その名前に引っ掛かりを覚える。

「メリンダ・カヴァサーニ?」

 それは確か、かの有名な英雄王の一人の名だった気がする。

「彼女はあのメリンダ・カヴァサーニ直系の子孫だそうだ。容姿が記述にある英雄、メリンダ・カヴァサーニにそっくりだということで、英雄の再来ではないかと親族一同で名前を付けたそうだ」

「再来など、とんでもございません」

 世界を救ったと言われる英雄は七人いる。彼等は世界が安定すると、一つの国を作った。それが英雄国ファーレンである。

 英雄達はそれぞれ出身国が違っていて、確かにカヴァサーニ家はレディシア国出身のはずだったが。

「……王位継承権はどうしたのですか」

 英雄直系の子孫には、ファーレンの王位継承権が発生するはずだ。英雄七人の直系であり、家名を継いでいれば誰でも王になる可能性がある。

「放棄致しました。他に六家もございますし、私が選ばれる確証もございません。レイの名も捨てました」

 ファーレンの王位継承権を持つ者は、名にレイを付ける。おそらく継承権を放棄する前はメリンダ・レイ・カヴァサーニと名乗っていたはずだ。

「女性の護衛がいた方がお前もいいだろう?」

「そうですね。よろしくお願いしますね、メリンダ」

 私はメリンダににっこりと笑顔を向ける。

 メリンダはどこか気まずそうに目を伏せると、小さくよろしくお願い致します、と言った。

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