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第8話「とても優しい」



触れてわかることがある。

とにかく彼女は細い、そして体温が低く、いつも冷たい。

食事はあんまりとらないらしい。


それでも彼女が大量の食料を持っているのは



「食べ物無いと、魂を食べるぞ」



と、自らの噂を逆手に取った結果だった。

そしてその食料は勠路の手に給料として支払われ、同室の者達に分けられている。

皆、初めは疑ったものの、素直に理由を話すと、たいそう喜んだ。



「しっかし、あの魂喰らいが、優しい紳女(しんにょ)様だったとはなぁ」



鼻の下をのばした映錬がにこやかに言う。

紳女は言い過ぎでは無かろうかと勠路が呟いたが



「可憐で美人で愛らしいじゃないか」



映錬は一度だけ森羅の姿を見た。

勠路に交代を告げに行った時のことだ。

たまたま、二人が話しているのを見かけた。

慌てたが、勠路が同室の男だと説明すると、森羅は笑顔で手を振り"挨拶"をしたのである。


それ以来、映錬の中では神のような位置付けにされている。

ただ単に映錬の好みだったという話だった。


まぁ、確かに黙っていれば見目も悪くないし賢そうな顔立ちをしている。

ただ、一度口を開くと時折会話の成り立たなく、我が儘し放題の箇所がある故。

勠路にとってはどうしても、幼い子供のようにしか思えずにいた。



「……元気でいらっしゃるのか?」



静かに、想嵐がそう聞いた。

恐らく森羅の事を聞いたのだろうと、思い。



「あぁ、天真爛漫、元気そのものだが?」


「そうか…、それならよかった…。」



心なしか元気の無い彼に、勠路は不安を覚えた。

思い切って疑問を切り出した。



「お前、ずいぶんとあいつに詳しいみたいだったが…知り合いか?」



想嵐は少し気まずそうな顔を見せたが、すぐに苦笑を浮かべた。



「あの方は………恩人なんだ。」



彼の言葉に勠路と映錬は興味津々になる。



「私は…私の家は昔、大変な借金持ちでな。親に体売りの小屋に連れていかれたのさ。」



二人とも、開いた口が閉じることが出来無かった。

とてもじゃないが、想嵐がそんな風には見えなかったのだ。

優しく、面倒見も良く、礼儀も教養もあった。

どこか良いとこの出なのだろうと思っていたからである。

二人の破顔した表情に、少し笑いがこぼれた想嵐。



「ま、まぁ、そんなに酷い場所では無かったんだよ?


 周りの人間も優しかったし。


 とにかく、相手方を楽しませる場所というべきかな。


 …自分で言うのも何なんだが、見てくれもそんなに悪くないだろう?


 だから、金持ちが相手をしてくれててなぁ。


 その為に、教養も礼儀も一通り教え込まれて、正直、人を喜ばせる事だし、


 快楽も得られるしで…な?そういうことだ。 わかるだろ?な?」



とりあえず、黙って深く何度も頷いた。

やっぱり、根っから優しい人間なんだなと改めて納得した。



「そんな時に、森羅様がいらっしゃったんだよ。」


「はぁ!?体を買いに!?」


「いや、触りに…。」


「へ?」


「あぁ…。」



疑問を浮かべる映錬をよそに、経験者の勠路は納得した。



「想嵐の絵を描いたのか。」


「そういうことだな。」


「なんだ?なんだよ!?」



面倒になったので、映錬に簡潔な説明をした。

ようやく納得したらしく、なるほどなーと呟いた。



「奉仕をしようとしたけど、逆に怒られたよ。


 大人しくしてろ、って。


 だから、それらしい行為はしなかったんだ。」


「何の絵を描いたんだ?」


「"鳳凰(ほうおう)"だったな。」



想嵐は目を細め、優しい顔を見せた。



「とても…とてつもなく優しい絵だった。


 見た瞬間に涙が出て、しばらく止まらなかったよ。


 まぁ、正直、私がこんな風に描かれていいものかって思ったけどね。」



照れたように笑う想嵐に、勠路は微笑ましい感情になった。



「で、その絵はどうなったんだ!?」



気になって仕方ない映錬が痺れを切らす。



「あ、あぁ…売りに出したよ」



なんだって!?という悲嘆の顔を見せる映錬。



「森羅様が私にくださるとおっしゃられたんだけど、


 とてもじゃないがただで貰えるわけないし。


 奉仕させてくれたなら未だしも………何もさせては頂けなかったし…。」



貰う貰わないので散々、彼女と揉めたらしい。

森羅は物事を深く考えないだろうし、あと強情な部分がある。

勠路には揉めた様子が容易に想像出来た。


結局、絵を売った金額の半分を森羅に、残った分を想嵐が受け取った形をとった。

だが、想嵐の話はそこで終わらなかった。


この後に森羅が絵を描いた女性がいる。

実はその女性は、鳳凰の絵を買い取った主の愛娘だった。

その娘は鳳凰に夢中になっていた。

そう、絵の主に恋をしていたのだ。

そして、森羅の紹介で娘と想嵐は出会う。



「………恋人か?」



勠路の質問に想嵐はより一層の笑顔で答えた。



「私の妻だよ。」



本当に幸せそうな笑顔に二人とも和やかな気持ちになった。

想嵐は借金を返すことが出来、また良縁に恵まれ、本当に幸せを得たのだ。


だが、悲しい表情を見せた。



「妻が亡くなってね………それを森羅様にお伝えしたいんだ。


 まぁ、あの自由な方のことだから、昔の話など覚えてくれてるか、わからないけど。」



勠路が代わりに伝えておこうかと申し出たが、

想嵐はちゃんと自分の口から伝えたいと断った。


数奇な運命もあるものだと知った。

だが、忘れてはいけなかった、ここは牢獄。

罪を犯した者が来る場所だということ。


それを思い知るのは、まだしばらく後のことだった。


続く


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