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第7話「鎖」

第7話「鎖」



翌日、いつもの場所に来た。

違うのは、座らずに真っ直ぐに鉄格子のほうを見ていること。

しばらくすると、ひょこっと森羅の顔が現れた。

動きが小動物っぽくて、笑いを抑えるのが大変だった。


近づいて確認出来た表情は、どこか不安そうな色が見えた。

けれど、目には少し期待したように輝いている。

益々、子供っぽいと感じたが、やっぱり笑いは堪えることにした。



「お前………名前は?」


「は?」



名前を尋ねたのは勠路のほうだった。

知っているはずの彼が何故そんなことを聞いてくるのか、

森羅にはさっぱりわからなかったため、思わず素っ頓狂な声が出る。

だが、彼は顔色一つ変えずにゆっくりと言う。



「人の噂は信じたくないのでな。お前自身の口から聞きたい。」



途端に森羅は一度驚いた顔をしたものの、嬉しそうに頬を緩めた。



「名前は森羅だ!森羅万象の森羅!」


「そうか、じゃあ…職業は?」


「え、えっと………絵描き?」


「何で疑問形なんだよ…」



んーと唸る森羅。唇を尖らせて理由を話す。



「ただ描きたいから描いてるだけだ。ただそれがお金になっただけ。」


「なるほどな」



確かに絵描きという正式な職業は無い。

それこそ、王宮などで仕えていれば話は別だが、

彼女がそんな場所で仕事をしている風には見えなかった。



「………お主の名前は?聞いてもよいのか?」



恐る恐る彼女に聞かれ、自分が一度も名乗っていなかったことに気がついた。



「勠路だ」



宙に指先で名前を現す。



「勠、路………いい名前だな。」


「そうか?」


「"勠"は"力を集める"、"路"は"みち"という意味がある。


 何と言う品のある名前だ。響きも美しい。」



うっとりとした表情を見せる森羅に対し、

やたらめったと褒められる自分の名前に気恥ずかしさを覚える勠路。

一つ咳ばらいをして、気を落ち着かせる。



「あー…、そうだ、お前はどうして俺に触りたいんだ?」


「絵を描くからだ」


「………」



黙り込む勠路に対し、森羅は首を傾げる。

話が見えない、体に触るのと絵を描くことにどう繋がりがあるのか、理解出来ない。



「………絵を描くのに、触る必要があるのか?」


「見るだけでもいいけど、触ったほうがよくわかる。」


「俺を描くのか?」


「人間は描かないよ?」


「……………」



やっぱり話が見えない。

彼の眉間にシワがよったとこで、ようやく真意がわかったのか、森羅は話はじめる。



「えっと、その、私が描くものは、


 そのままのものを描くんじゃなくて、対象から感じとったものを描くんだ!」


「?????」


「あー、えー、何て言うかなぁ!元の形では無く、別の形にあわらして…」


「益々わからない。」


「うぬぅ………あ、よし、じゃあこう言えばどうだ!」


「ん?」


「ずいぶん前の話だが、何を描けばいいのか想像出来なくて困ったんだ。


 でも、ある女性を見てたら、こんなの描きたい!って思うようになったんだ。


 んで、その女性の事を見て触って話してもっと知るようになったら、どんどん描けた。


 最終的に出来上がったのは"不死鳥"の絵が完成したんだ!」


「………なるほど」



おそらく、ぎりぎりの理解できる範囲だと思う。



「要は絵を描くために対象を知る必要がある。それで触らせろってことか」


「そう!そういう事!」



身振り手振りで懸命に説明をしてようやく伝わった。

そのためか、森羅はやたらと嬉しそうに笑った。


一つ、深いため息をついた彼は鉄格子に近づいた。

その行動に森羅は不思議そうな表情を見せたが、



「触るんだろ?」



という勠路の言葉に、笑顔で彼に飛びついた。

直ぐに顔や頭を触り始めるが、すぐに不満な顔を見せる。



「鉄格子、邪魔……」


「それは仕方ないだろ」



拗ねた森羅だったが、彼女はキョロキョロと辺りの様子を伺うと、勠路にお願いした。



「勠路、この鉄格子をゆっくり引っ張って」


「は?」


「いいから!早く!」



言われるまま、鉄格子に手をかけてゆっくり引っ張る。

すると、なんの抵抗もなく鉄格子は窓から外れたのだ。



「………おい。」


「えへへー」



得意気な森羅の笑顔に、悩める勠路。



「昔っから、色んな所から逃げ出してたから、こういうの得意なんだよねー」


「逃げ出し………」



不穏な話に顔をしかめる勠路だったが、

当の本人はご機嫌のまま、情報収集を再開しながら話す。



「絵を描きたくて材料手に入れるのに色んな事したし、


 無理矢理描かせようとした人間も腐るほどいるしな。」



森羅の表情は常と変わらない。

嫌な事もたくさんあっただろうに、しかし、そんな悲しい表情を微塵も見せない。

彼にとって、彼女のこういう所が不思議に思う。


そんなことを考えてふと、目についた。

森羅の足につけられた、鉄の鎖。

その視線に、彼女はふと気がつき、変わらぬ笑顔で言う。



「これはまだ外せないんだ。くせ者だ。」



こんなに幼い子供にここまでする必要があるのかと思う勠路だったが、

彼の心を見透かしたのか森羅は



「勠路、たぶん私のほうが年上だぞ?」



と、信じられないことを言い放った。

年齢を確認されて、若干ではあるが、森羅のほうが年上だという事がわかり、


これまた勠路を悩ませたのは蛇足である。


続く


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