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第5話「触らせろ」


「………で、何の用なんだ?」



律儀にも、勠路は森羅が笑い終わるのを待っていた。

いや、待つしか無かった。

呆れてその場を立ち去りたいにも関わらず、

襟元を捕まえる腕は不気味なほど強い力の入っており、離れなかったのだ。

勿論、振り払おうと手で外しにかかったのだが、何故だか全く外れない。


普通、笑い過ぎたら力が抜けるものだが、

彼女は爆笑しながらも、離れる隙を与えてくれなかったのである。

この細い腕にどこにそんな馬鹿力があるのか………。

最終的に彼が諦めた形で今に至る。



「あー、そうそう、お主に頼みがあるのよ」



そう言って森羅は何故か勠路の顔を両手で触り始める。



「だから何なんだ、さっさと言え。」



んーと唸りながらも彼女は手を動かす。

それは、そっと優しく撫でるようであったり、指先で強く顎の形を沿ってみたり。



「あ、こっち」


「は!?」



強い力で違う方向に顔を向けられ、再び触られる。

その手つきは形を確認するかのような、はたまた、何かを探しているかのような。

深い意味は無いが、勠路は何故だか、ただ黙って触らせていた。

が、襟元の中まで手を滑り込ませようとしたとこで手を捕まえて制止させた。



「………おい。」


「え、あぁ、悪い悪い。」



流石に怒りが湧いた勠路だったが、森羅は少しも悪びれる様子も無く、軽口で謝る。



「だから、用件を話せ」


「あぁ、難しいことは無いよ?ただ、触らせて欲しいだけだ。」


「………は?何を?」


「お主の体。」


「どこを?」


「全部。」



今度は勠路のほうが隙をついた。

彼女の手の届かない位置まで(今度こそ)離れたのだ。

頬を膨らませ、だらんと手をのばす森羅。

彼は乱れた襟元を直し、「それじゃ」と言って唾を返す。



『やっぱり関わるのはごめんだ』



内心で強く自分に言い聞かせ、ニ、三歩踏み出した所で



「勿論、タダじゃない」



と森羅の声が聞こえた。

思わず足が止まってしまう。

が、今一度、自分に強く言い聞かせ歩き出す。だが



「まぁ、いいや。とりあえずこれは受け取れ。」



何かが投げられた音がした。

振り返った時に足元に包みがとんっと落ちた。

鉄格子の窓には彼女の姿は無く、恐る恐る包みを開く。

そこには食料が入っていた。

すでに加工済みの携帯食料、いわばパンのような食べ物。

それがたくさん入ってたのだ。 驚いた勠路は窓に近づき、森羅に声をかけた。

だが、彼女は姿を見せることは無く、ただ声だけを出した。



「今日、触らせてもらったからその分だ。」


「あのな、俺は…」



言いかけた時、にゅっと手が伸びてきて、包みを取り上げた。

鉄格子の向こうに姿がちらりと見えたがすぐに消えた。



「そうだな、まるで体を売るような真似だな。悪かった。」


「いや……そうじゃ……」


「おーい、勠路ー、どこだー?」



今度は交代の人間に遮られた。

仕方なく、その場を後にした勠路だったが、


一瞬だけ見えた彼女の曇った表情が焼きついて、一晩中忘れられなかったのである。


続く


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