表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/27

第25話「お前は諦めろ」

「違う!!死んで欲しかったんじゃない!!」


「森羅、落ち着くんだ。」



泣き叫ぶ森羅を力強く抱きしめる勠路。



「どうしてっ、どうして!!真戒!真戒ぃっ………。」



勠路はようやく気がついた。

真戒は森羅と幼少期を共に過ごした。

誰にも興味を持たない彼女が唯一覚えていた存在。

憎み口をたたき合うのは、彼だけだった。


本人が気がつかなかっただけで、本当は師と並ぶほど大きな存在だったのだ。

良く言えば悪友のようなものだろうか。

静まり返る広場に、ただひたすら彼女の泣き声だけが響く。

囚人達の中にも、彼女の悲痛な声に心を痛め、涙を流す者もいた。



「森羅!!」



勠路の怒声まじりな声に、びくりとなる森羅。

ようやく彼女は彼と目を合わせた。



「天が選んだ事だ、お前の責では無い。」



でも、としゃくりあげる森羅に、勠路は苦笑する。



「想嵐は助かった。」



その言葉に、想嵐の無事を確認する。

彼は申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。



「あと、天が下さねば、俺の手で斬らねばならなかったしな。」



これで森羅の気持ちが晴れるわけでは無いことはわかっていた。

だが、ほんの少しでも安らいで欲しかったのだ。

それでも泣き続ける彼女は、叫び声をあげず、彼の腕の中でひたすらに涙を流す。


そんな様子の彼女に想嵐は近づき、正座をし、頭を下げた。



「お伝えしたいことがございます。」



その言葉に森羅はびくりと肩を震わせ、勠路は警戒した。




「妻は、近々森羅様に話すつもりでした。















 “我が家でお世話をさせて欲しい”と。」














森羅は目を丸くさせた。



「放浪の旅は危険がたくさんあります。


 だからこそ、一緒に住んでいただきたいと。


 出来たなら、家族になって欲しいと…


 妻はずっと…ずっと、その事ばかり口にしておりました。」



鈴葉はずっとそのことを願っていた。

森羅と一緒に過ごしたかった。

彼女のおかげで幸せになれたのだから、

せめて森羅を守って差し上げたいと。


そして森羅が町に戻ってきたことを知り、準備をしていたのだ。



「私は己の未熟さ故、貴女様を傷つけてしまいました。


 ですが、これだけは信じてください。


 私も妻も森羅様を姉や妹のように慕っております。


 許せずとも、その心だけは信じてくださいませ!」



想嵐のそんな姿に勠路はふと笑みをこぼした。

そして、森羅は違う涙を零す。



「勠路、聞いたか?私を家族に望む者がいたのだぞ。」


「あぁ、驚きだな。」


「本当に驚きだ。」



森羅は頭を下げたままの想嵐にそっと手をのばし、優しく撫でる。

ようやく顔をあげた彼に森羅は言う。



「有難う、想嵐。いつも、お主達は優しさを教えてくれるのだな。」



想嵐は涙を流す、感謝や喜びや色んな感情が胸をいっぱいにし、言葉が出てこない。

あれほどに酷いことをしたというのに、この女性は何一つ怒りを見せない。

それどころか、こんな自分にまでお礼を言ってくれたのだ。



「貴女様が私に鈴葉を……幸せを教えてくださったのです………!!」



ようやく言えたのはその言葉だけだった。

だが、すぐに落ち着いて、今度は勠路に頭を下げた。



「何故、俺に頭を下げる。」


「また、命を救っていただきました故。」



想嵐は、龍の飾りに見覚えがあった。

あの絶望の夜、炎の中から助け出してくれた人物が持っていた物と同じ物だった。



「なら、これからはその命、大切に扱え。」


「はい!!」



ようやく、平和が訪れた。

悲しみは残るが、森羅をここから出してやれる。

これからたくさんのものを一緒に見てまわる。

彼女の額に口づけを落とし、喜びを伝える。


だが、彼女は顔を隠した。

しょうがない、と思って顔を上げさせようと頬に触れた。

途端、彼女が咳込んだ。

泣き過ぎたのだと、背をさすってやる。

けれど、咳は徐々に酷くなる。

おかしいと思った次の瞬間、



森羅は勠路から離れ、そして吐いた。



「みっ、見るなっ……。」



森羅の赤い衣服が別の赤に染まる。


勠路は気づいてしまった。

彼女が何故あまり食事をとらないのか。


とらないのでは無い、とれないのだ。

体が弱く、とる力が無かったのだ。


彼女を引き寄せ、顔を上げさせる。

口のまわりには生々しい赤がついていた。



「ごめんなさい、ごめんなさいっ………。」



師は知っていた。

彼女が生まれながらに体が弱く短命であることを。

だからこそ、自由に生かすことを許した。


そして、誰かと添い遂げても長くは無い。

相手を悲しませるのだと教えたのだ。


森羅はその事を勠路に黙っていた。

自分自身で、もう長くないとわかっていた。

だから、彼に再び会うまで、もたないと思っていたのだ。


勠路は彼女の赤を自分の袖で拭う。



「それで俺が怒ると?」



彼女を再び抱え上げた。



「映錬!」



突然呼ばれ、驚いて転げる映錬。

勠路は彼に近づき、鼠の印が入った小さな木の板を手渡した。



「もうすぐ役人が来る。


 それを見せ、事のあらましを説明しろ。」


「え!?俺が!?」


「話すの得意だろ?」


「お前はどうすんだよ!?」



その言葉に、勠路は笑みを見せ「任せたからな」

と言って、出口へ去って行った。



「大事にしろよー!!」



という大声に、軽く手を振って、姿を消した。



城の外に出る。

近くにつながれた馬を勝手に出して、

それに森羅を乗せ、自らもまたがった。



「り、勠路………?」


「知り合いに腕利きの医者がいる。


 まずはそいつに会いに行く。海を見るのはその後だ。」


「勠路!」


「お前は諦めろ。」


「え?」



突然そう言われ、わけがわからない森羅。











「俺はお前を離さん。一生俺のそばにいさせる。」










言うや否や、唇を奪い、深く口づける。

ようやく離したかと思うと、さっさと馬を走らせた。


森羅は胸がいっぱいだった。勠路の存在が、彼女の救いだったから。



続く


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ