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第24話「この馬鹿狐。」

監視達は真戒の指示で、龍鼠である勠路を抑えにかかる。

だが、かの名高い龍鼠。

姿は知られずとも、数々の武勇伝は四天王一、有名だった。



「一晩で城一つただ一人で落とす。」



ただその一言だけで十分なのだ。

たとえ、精鋭揃いの岩牢城の監視といえども、

彼の前に立つだけで生きた心地がしない。


されど、立ち向かい刃を向けるが、ただ一撃であしらわれる。

あっという間に勠路は森羅と真戒のいる場所までたどり着く。



「哀れだな、真戒。」


「ふん、勝ったつもりか?」



真戒が片手をあげ、合図をする。

すると場内を一周するように、弓矢を構えた監視達が姿を現した。

矢先は勠路と森羅に向けられている。


だが、彼は顔色一つ変えず、屈み込んで森羅の頬に触れ、痣の確認をする。



「ずいぶん酷い事をされたものだな。」


「り、勠路…。」



そんな状況では無いのに、この男はなんとも呑気である。



「出来れば、お前の目前で刀は持ちたく無いんだがな。


 どうやら、そうもいかぬらしい。


 怖がりなお前を益々怖がらせてしまうな。すまん。」



ふと、森羅が笑顔になる。

どうした?と聞くと



「…………まるで別人のようだったから。でも、やっぱりお主は勠路だ。」


「俺は刀を持つと、性格が変わるだけだ。」



真戒は笑い合う二人を理解出来なかった。

森羅のそういう姿を見るのも初めてだったが、

どう考えても不利なのは勠路達のほうである。


もう少し待ってろ、と森羅に伝えると、

勠路は立ち上がり、真戒と顔を合わせる。



「お前はどんなに頑張っても、帝の庇護は受けられん。」


「貴様を今ここで処刑すればよいことだ。」


「お前、やっぱり馬鹿だな。」


「なんだと!?」


「俺や森羅は一度たりとて、帝の庇護を望んだ事は無い。


 帝が選ぶのは、庇護を"望まない"人間だ。」



龍をちらつかせ、権力を利用しない者を帝は望んだ。

だからこそ、帝なんぞに興味は無い、という人間であればあるほど好んだのだ。

だからこそ、庇護を切望する真戒は、決して受けることは出来ない。


それを勠路に教えてくれたのは、明夜であった。



「はははははは!!そうか…ならば、もう良いわ。」



真戒は一層高く片手を上げる。

弓が最大まで引かれる音がした。



「貴様らを葬る、それも我が望みよ!」



手が下がる、その寸前だ。

一斉に黙っていた囚人達が弓矢を持つ監視達を次々薙ぎ倒す。

鎖で繋がられているために、一人では動けない。だが、全員が動いたのだ。



「お前の好きなようにさせると思うなよ!!化け狐!!」


「何が処断だ!単なる殺戮じゃないか!!」



次々声が上がる。

何故、囚人達が心を変えた?


ただ勠路だけは、一人の男の存在を確信した。


















「森羅様は飢えた俺達を救ってくれた神女様だぞ!!


 まさに神の使いだ!その方を処刑なんて、罰当たりだ!!」
















映錬はお喋りな男だ。

さぞかし、話まくったのだろう。

かの有名な森羅万象は美しく優しく愛らしい、と。


弓矢ぐらい、簡単にかわすつもりの勠路だったが、

思わぬ助け舟に笑みがこぼれる。







この囚人の反乱全てが森羅のためのものだと知ったから。








「どうやら俺の出番じゃないらしいな。」



そう言って勠路は森羅から鎖を外し、彼女の体を抱え上げた。

そのまま出口へ向かおうとする。



「貴様!!」


「興ざめした。俺は行く。」



勠路は森羅の目前で人を斬りたく無かった。

しかし、その言葉に怒りをあらわにした真戒は刀を振り上げた。


だが、彼の体に体当たりして止めたのは正気に戻った想嵐だった。


怒れる真戒は彼を振り払い、全ての憎しみをぶつけるように、

想嵐に狙いを定め、刀を振り下ろす。

勠路は慌てて、刀を持ち直し森羅を抱え直した。

だが、間に合わない。映錬も体をのばす。

一瞬の間に途方も無い、悲しみが生まれる。


ただ、想嵐だけはどこか気分がよかった。

森羅にしたことを許してもらえるなどとは思っていない。

けれど、せめて彼女と彼女が愛した人を守れたなら。

その手助けが少しでも出来たのなら。











『鈴葉、君はちょっとだけでも喜んでくれますか……?』










森羅のことを楽しそうに話す妻が好きだった。

普段、大人しい彼女が森羅の事になると子供のようにはしゃぐのだ。



「鈴葉は苦しんでたの?」



森羅の言葉に、ようやく我に帰れた。

違います、喜んでいました。

彼女はずっと………



想嵐は目を閉じた。安らかな気持ちで。



だが、その安らぎは、森羅の叫びで掻き消された。





















「想嵐を死なせないで!!」





















森羅の叫び声と同時に一筋の光が天から降る。

それは龍のような雷。

青天から生まれるはずのないそれは、真っ直ぐに真戒を貫いた。


真戒の手から刀が離れ、ゆっくりと彼の体は地面に倒れる。

何が起こったのか、理解するのに時間を要した。


倒れた真戒は、動かぬ体に走る激痛が意識を混濁させた。

何故?と自問自答する。


昔からいつも選ばれるのは自分では無く、森羅だった。

学問も絵画も常に彼女が上だった。

一度も勝てたことが無く、いつも自分は二番だった。


だからこそ、森羅が嫌いだった。



「おい、森羅万象!」


「うるさい、化け狐。」


「今度こそ、貴様に勝ってやる!!」


「勝負なんぞに興味は無い、この馬鹿狐。」



ろくに名前も覚えず、言うこともろくに聞かず、頭だけはいい。

帝の寵愛を賜ることが内定した時もそうだった。

「興味無い。」の一言で辞退をしたのだ。


それどころか、師の死にも涙を見せず、

好きなように放浪し、好き勝手に名を欲しいがままに広めた。


許せなかった。

好き勝手に生きて愛される森羅が。

自分が欲しいものを手に入れられるにも関わらず、

簡単に捨てる彼女が、憎くてたまらなかった。


けれど、結局、自分は天にも見放された。

そう絶望し、意識が遠退いていこうとした時、ふと聞こえた。

































「真戒!?真戒!!なんでっ…どうして!!!お前が死ぬのだぁ!!!」



























わずかに動く視線を向ける。

そこには勠路に抑えられながらも、自分の名前を泣き叫ぶ森羅の姿があった。


何故泣く?

益々、彼女が理解出来なかった。

あの絶対零度な女が、苦しめた男のために泣き叫ぶのだ。

訳がわからない、憎むべき相手だろう?

そう呆れるが、勠路の姿を見つけ、理解した。


















あぁ、そうか。鼠に"愛"を教えられたのか。
















薄れゆく意識の中でふと思う。



『様見ろ、貴様の心に一生消えぬ傷を残してやった、わ……』



真戒は目を閉じ、どこか勝ち誇った想いを抱き、その人生に幕をおろしたのだ。




続く


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