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第22話「貴様の念願が叶うな」

あれから一日経った。


森羅は今頃何をしているだろうか。

ちゃんと村で待っているだろうか。

早くここから出たい。


同じ事をぐるりぐるりと延々考える。

珍しく箒を使ってみたり。

らしくない、そわそわしている勠路の姿を映錬はニヤニヤと見かける。


時折、背中をかく彼に声をかける。



「なんだ、虫にでも食われたか?」


「ん、まぁな。」


「さぞかし、愛らしい虫なんだろうなぁ。」



罰が悪そうな勠路の表情があまりに面白くて、

映錬はしょっちゅう彼をからかう。

もちろん、彼は何があったかなんて話して無いし、

背中の痒みが爪の跡だとも言っていない。


要は、この男がわかりやす過ぎるという話である。

それは映錬だけじゃなく、同室の人間皆わかっているのだから、

これまた本当にわかりやす過ぎる。


相手にせず、今日の仕事だと入口で監視を待っていた所、

入って来た監視達の様子がおかしいことに気がついた。



「今日は大罪人の処刑を行う!


 貴様らもその目に焼き付けてもらうぞ!!」



その言葉にあたりはざわつく。

囚人達は鎖付きの手枷をつけられ、順番に歩かされる。


大罪人の公開処刑をする。

人が死ぬ様を見ろという事だ。


元来、処刑は公開されることは無い。

よほど有名でなければ、見世物にはされないのだ。


だが、見世物にするほどの有名な大罪人の話は最近はめっきり聞かない。

唯一可能性があるとすれば森羅だったが、

彼女は望み通り絵を完成させ、既に放免されたのだ。

ならば、森羅ほどの有名人となるが、

悪名高い囚人は勠路が来る前にすでに処刑されていた。


誰だと考える中で、ふと一人の人間を思い出す。

有名な人間を殺そうとするのも大罪。



『想、嵐………!?』



詳しくは知らない映錬でさえも、

思い当たる人物が想嵐のようで、顔色が悪い。

まさかと思う。違っていて欲しい。

そう願いながら、連れてこられた処刑場。


中央の広場を囲むように階段状の観客席がある。

ありとあらゆる囚人達がそこに座らせられている。

広場の真ん中に立っているのは、あの真戒。


その前に鎖に繋がれ、うずくまる囚人。












なぜ、お前がここにいる――――?











見間違えるはずが無い。


忘れもしない、一目見て目に焼き付いて離れない、






























艶やかな赤い衣服。





























「森、羅………?」



















放免されたはずの彼女がそこにいる。

わずかに見える手足や顔には罰を受けたような痣が見えた。



「な、なんで神女様が!?」



映錬もわけがわからずうろたえた。

ちらりと一瞬だけ真戒と目が合う。

変わらないあの嫌味な笑みが、嫌な予感を増幅させる。


入口は全て封鎖され、鐘の音がそれを告げる。

真戒は一枚の紙を取り出し、大声で読み上げる。



「罪人、森羅。その才故に幾人もの命を奪った。


 たとえ、直接的では無かろうが、既に四人の善なる者達が命を落とした。」



辺りがざわつく、魂喰らいがついに命を奪ったのだと。

勠路はおかしな事に気がつく。

森羅の話で聞いた亡くなった人間は、

師匠・鈴葉・豪商の三人だったはず。

何故、四人なのか。その謎は次の瞬間に解明された。












「中でも、我らが城主である明夜様の命を奪った事は、死刑に等しい!!」












より一層のどよめきが走る。


かの有名な城主が死んだ。

魂喰らいが絵を描いたがために。


だが、勠路はその話を信じ無かった。

何故なら彼自身、明夜本人をよく知っていたからだ。


絵の魅力に飲み込まれるようなやわな人間では無いし、

森羅の絵のせいで命を落とすという話自体、くだらん戯言扱いである。


必死で考えた。

何かがおかしい、あまりに不可解な事が多過ぎる。


明夜という人物は帝など気にもしない。

絵画などにも興味を持たない。

そういう所が勠路とも気が合った人間だった。

老体とは言え、頭は切れ、それこそ憎たらしい知恵を持っていた。

そんな明夜が森羅の絵を所望すること事態がおかしな話だったのだ。


おそらく、森羅の絵を望んだのは真戒自身。

帝の寵愛を受けたがっているのは彼のはず。


そこで気がつく。




「そうか、これが貴様の目的か真戒!!」




突如、無礼な怒声が響いた。

真戒は変わらず笑みを浮かべ、声の主である勠路に視線を向ける。



「明夜が死んだ以上、貴様が城主という事だな。


 そこまでして帝の庇護が必要か?」



帝の庇護を賜るのに絶対的な壁になったのは明夜自身のはず。

彼を殺し、自らが城主となる為の策略。



「何故そこまで抹殺を望むほど森羅を憎む?」



もう一つの目的、それが確実な森羅の処断。

始めから彼女を助ける気は無かった。

ここに来て、それを感じた。


そこまで言われても、真戒が顔色を変えることは微塵も無い。



「ずいぶん勝手な口を叩く鼠だな。


 妄想もほどほどにしておけ、我は罪人を処刑するだけの話だ。


 そやつを抑えておけ!!」



数名の監視が勠路を押さえ付ける。



「処刑人は素晴らしい奴を用意しておいたぞ。」



大刀を持って現れた人物に驚愕した。

森羅はその姿を見て、名前を呟く。



「そうら、ん………。」


「貴様の念願がこれで叶うな、想嵐よ。


 これで貴様も放免してやろう。」



何も語らず、想嵐はその刀を振り上げた。



続く


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