第2話「大馬鹿者」
―――――痛い。
咄嗟に思ったことはそんなこと。
何が痛いって、少女はありったけの力を込めて、勠路の頭を掴んでいるのだ。
それも容赦なく、力を込めている。
「ちょ、ちょっと待って…!」
まるで、勠路にしがみついてるように。
だが、流石に痛い。
振り払えばいいものの、何故だか無下に出来ない良心にかられる。
どうしたものかと悩んだ数分後。
「やっぱり…もう無理っ…」
と、少女が呟くと、するりと勠路の戒めが解かれ、彼女の姿が一瞬で消えた。
そして、何かが崩れる音がし、いくつもの足音がバタバタと近づいた。
その音に、慌てて勠路は姿を隠す。
といっても、物陰に隠れるぐらいしかないが…。
そのあと、すぐに荒々しく扉の開く音がした。
「何をしている!?」
恐らく、監視の人間だろう。
足音からして、何人もいる。
嫌な空気を感じ、勠路も「マズイ」と思った。
色々、言い訳を頭で考え始めた。
だが、その思考は一瞬にして掻き消される。
「落ちたのだ!!見てわからぬか!?馬鹿者め!!」
しんと静まる。
中を見ていない勠路だったが、何と無く、雰囲気がわかる気がした。
恐らく、監視達は呆気にとられてる。
勠路ですら呆気にとられていたのだから。
「お、落ちたとは…」
「私は外が見たい!」
「貴様、また抜け出そうとしたのか!?」
「抜け出せるものならとっくにこのような場所から出ているわ!!大馬鹿者!!」
再び、しんと静まる。
正直…話が見えない。
不審な音がして監視が駆け込んだのであろう。
だが、少女は憶するどころか、こともあろうに不平不満でご立腹。
監視を怒鳴り散らしている。
揚句、話はまだ続く。
「いいか!?貴様らのどうしようも無い主のせいで私はここに居るのだ!
それも、奴の望みのものをくれてやるためだ!
なのに、貴様らはこの私をここに閉じ込め、揚句!
ここでは外すらも見えぬ!!
こんな状況で、誰が望みを叶えてやるものか!!」
とにかく、外が見たいらしいことはわかった。が、まだ話は続く。
「見よ!ここにある足場はこんなちっぽけな石を積み上げることしか無いのだぞ!?
これで、どうやって外を見ろというのだ!?」
石と聞いて、勠路は自分の頭をさすった。
だが、次の言葉で形勢は一気に変わる。
「石はどこから…」
監視の一人の呟きに、少女は即答する。
「そこの壁から掘って出した」
今度は、からんという何か棒のようなものが地上に落ちた音がした。
その後すぐに
「馬鹿は貴様だー!!!」
という怒声が響き、また慌ただしい足音が聞こえてきた。
座れ、だの。大人しく、だの。そんな声が聞こえてきた。
中の様子がわからず、思わずのぞこうかと立ち上がろうとした瞬間。
「おーい、勠路ー。交代の時間だぞー」
と、離れた場所から声が聞こえてきた。
どうやら、同室(牢獄だが)の人間がやってきたようだ。
気にはなったが、仕事は仕事。
仕方なく、声の主と交代し、その場を後にしたのだった。
続く