第17話「自ら知ってしまった」
雪が降り続け、地面も屋根も景色のほとんどが真っ白に染まった。
牢獄の暖房は毛布一枚ぐらいのもので、
むさ苦しい男同士で肌を寄せ合うわけにもいかず、
毛布に包まり暖をとっていた。
あれから、一月が過ぎようとしていた。
森羅がどうしているかもわからない。
絵が完成すればそれはそれで大騒ぎするだろうし、
彼女の身に何かあれば、それこそ大騒ぎ所ではない。
きっと、一人ひっそり描き続けているのだろうか。
「心配なら会いに行けばいいだろうに。」
ずいと顔を近づけた映錬がそう言い放った。
「何をだ。」
「神女様の事が心配でたまらないんだろ?
あれからず~っとそんな顔ばっかりしてんだ。
合間見つけて会いに行ってこいよ。」
「別にそんなこと思って無い。
それに、そんな合間がどこにある。
前の場所とは全く離れてるんだぞ。」
「それが、場所の距離まで確認してるやつの言う事か?」
「………違うって。」
「口づけしといて。」
「額にだ!!」
「変わらん、変わらん。」
周りで聞いていた何人かも映錬に賛同し、何度も頷く。
「もう、知らん。」
「拗ねるなよ、勠路。
心配ぐらい素直にすればいいだろ?」
「俺の役目は終わったんだ。
とにかく、後はあいつが絵を完成させる。それだけ。」
あえて、出所したら会おうと約束したことはふせていた。
色々と突っ込まれるのが嫌だったからだ。
それでなくとも周りはニヤニヤしているというのに。
ふて寝を決め込んだ勠路に、映錬は上から顔を覗き込みながら、話す。
「………そんな態度取っていいのか?」
意味深な言葉だが、彼は微動だにしない。
「神女様、まったく食事を取らなくなったらしいぞ。」
勢いよく体を起こし、映錬の肩を両手で掴む。
「それは本当なのか!?」
あまりの気迫に、思わず圧倒される映錬だったが、ゆっくり頷いた。
「最近じゃあ、食事に手をつけた後すら無いそうだ。
あと、横になってることが多いから、医者を呼ぼうとしたけど、大騒ぎして拒否したらしい。」
「どこでそんな情報を………。」
「他の牢の奴らから、監視が話てるのを聞いたって教えてもらったんだよ。」
映錬の視線の先を追うと、別の牢獄の男がこちらを見ており、
軽く手を振ってきたので、軽く振って返した。
「俺、色んな話聞くの好きだからよ~。」
にこにこしながら話す映錬にどこか納得する。
突然、映錬はすっと鋭い目つきに変えた。
「あ・と、監視達が怯えてるって話だ。」
「怯える?何故?」
それはな………と話しはじめる映錬。
何故、彼がこんな話を持ってきたのか。
その真意がわかったのは、話を全て聞き終えた時だった。
その時の勠路の表情はあの「にやり」という顔だった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
監視である二人組の男達が話している場所は森羅の牢の扉の前だ。
想嵐の一件から、監視は厳しくなり、必ず扉にぴったりと離れずにいる。
それこそが、監視が怯える理由だった。
「今日も静かだな…。」
「生きてるのか?」
「あ、当たり前だろ!?気になるならお前見てこいよ!」
「嫌に決まってんだろ!?
どうするんだよ、もし魂喰われたら…。
食事取って無いんだぞ。」
「あくまで噂だろ?」
「じゃあ、お前が見てこいよ。」
「俺も嫌だよ。」
はぁ、とお互いに深い溜息をつく。
噂だとわかってはいるものの、何故だか嘘だと確信出来ない。
そんな不安が溢れていたのである。
「その噂、本当の話だよ。」
そう言って、にゅっと顔を出したのは勠路だった。
監視は一度警戒したのだが、彼の言葉が気になった。
「ほ、本当………?」
「あいつ、絵を描くのに魂を食べて材料にするんだよ。」
「なっ、何だって…!?
………いやいやいや、そんな馬鹿は話」
「じゃあ、あいつが絵を描いてる所、見た人間知ってるか?」
「………………」
「魂が材料、だから、描いてる所を誰にも見せないんだよ。
あと食事取らなくなったって?」
「あ、あぁ、手もつけていない。」
「なら、そろそろ"食事時"だな。」
「しょ、食事時…?」
「近くにいる人間の魂を喰らいたくてしょうがないのさ。」
彼の黒い笑みに、監視の背筋が凍り付く。
「寒いしな…夜に喰らう時が多いから、特に夜には気をつけなよ~。」
そう言って立ち去ろうとした勠路の肩を捕まえた監視達。
「何故、そんなに詳しいんだ?」
「………昔っからの知り合いだよ。」
疑う眼差しが向けられるが、怯む必要は無い。
「毎日のように寝込み出したら、かなりやばい状態だな。」
はっと驚いた顔を見せる監視達。
お互いに顔を合わせ、頷いた。
どうやら彼の言う事を信じたらしい。
「ど、どうすればいい?何かいい対策は無いのか?」
「俺らは毎日、食事を運ばなきゃならんのだ。
いつも近づくのが恐ろしくてたまらないんだよ!」
そう言われ、勠路はわざと考えるふりをした。
そして、ゆっくりと口を開く。
「血を飲ませてやればいいんだよ。」
「血だって!?」
「もちろん、動物じゃなくて人間の。
あと死んでるやつは駄目だな。」
「じ、自分の体を切って飲ませるのか!?」
「一晩飲ませりゃ、しばらくは大丈夫だぞ?」
勠路は腕の傷痕を見せる。
もちろん、別の時についた傷ではある。
だが、彼らを信じさせるには十分な材料だった。
監視達の顔色は青くなり、何やら二人で話し合っている。
しばらくして、彼に向き直った。
「お前は怖くないのか?」
「今までに何度もやってきたからな、あいつのことも慣れたもんだよ。」
「じゃ、じゃあ………
……………今晩、お前がやってくれねぇか?」
勠路はまさにそれを待っていた。
監視の提案で、一晩だけ"監視"の代わりをする。
あとの処理は全て彼らが引き受けるのだ。
「いいよ、任せてよ。」
こうして、勠路は森羅に会う機会を手に入れた。
ふと、映錬に言われた事を思い出す。
「何も想ってない奴相手に、そこまでするのか?」
彼女に会えるのが楽しみだと思っている自分がいる事を自ら知ってしまった。
続く




