表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/27

第12話「二度目ですからね」


森羅もまた、家族をもたない生まれだった。

真戒と同じ師の元で幼少期を過ごしたのだ。


そこを訪れた帝が彼女の絵を見て言ったのだ。



()の者は"森羅万象"を描く」



それから彼女は"森羅"と呼ばれるようになる。

帝の寵愛を受け、いずれは宮仕えをするのだろうと思われてた。


だが、高名な師が他界すると彼女は姿を消した。

自由気ままに放浪していたのだ。

それでも名が知られる存在。


けれど、彼女は一度たりとて、帝の為に絵を描いた事は無い。



『俺はそんなことも知らなかったのか…。』



役人をやってはいたものの、何と言う世間知らずというものだろうか。

昨晩、想嵐や映錬からそんな話を聞かされ、そんな事を思った。


当の本人に名前の由来を聞いてみれば



「どっかの偉ぶった人間が"森羅万象"と言ったから」



と、教えてくれた。たぶん帝という事をわかってないんだろうな。

今日も今日とて、勠路は情報提供。



「ところで、絵は完成しそうなのか?」



その一言で彼女は不機嫌になる。

最近になって、その意図がわかりだした。



「嫌なんじゃなくて、もうすぐ持ち場が変わるんだよ。


 俺がここに来れなくなる。」



およそ、一月ほどで持ち場が変えられる。

いくら監視が緩いとは言え、城内を自由に行き来できるわけが無く。

もちろん、ここに来れるなんてそうそうありえない。

ようやく状況が飲み込めたようで、森羅の表情が益々曇っていく。



「交代、しなくてよくなったから…ギリギリまでここにいてやろう。」



ぱっと顔を上げる森羅。他の同室の人間に頼んで、交代せずにしてもらったのだ。

無論、普通であれば許されることでは無く、監視の目を欺かなければならない。

だが、食料も貰っていることだし、快く承諾してもらえた。


まぁ、真戒公認なのだから、彼に言っても良かったのかもしれないが、

それはそれで嫌だったのであえてしなかった。


彼女は笑顔になり、「よし」と言って情報収集を再開した。

その直後に、服の中に入れようとした手を捕まれ、勠路に呆れられたのだった。



※※※※※※※※※※※※※※※



日も暮れ、時間が来て勠路は牢へ帰って行った。

森羅も部屋に入り、たまった情報を絵にこめようとした。

だが、ふと鉄格子を元に戻してもらうのを忘れた事を思い出し、

慌てて呼ぼうと窓から顔を出した。



「絵は完成しそうですか?」



にこやかな笑顔で男が立っていた。



「挨拶をしなくてはと………。」



あの時と同じ笑顔だと森羅は思った。

そして、その名前を呟く。



「想、嵐………。」



覚えておいででしたか。とにこりと彼が笑った瞬間。

森羅は全力で窓から離れた。

そして出入口まで走り、誰かを呼ぼうと口を開いた。


だが、その瞬間。彼女は引っ張られ、床に押し倒される。

見上げた先には、想嵐の顔。



「お伝え…したいことがございます。妻が亡くなったのです。」



悲しそうな笑顔がそこにある。



「ご存知ですよね? だって、貴女様にお伝えするのは、これで"二度目"ですからね。」



涙を零す彼の姿を見るのは、これで二度目。

それは、悲しい悲しいあの日と同じ光景だった。



続く


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ