04.正面突破
ばんははろ、EKAWARIです。
今回の話で漸くバトルにまでこじつけましたが、自分のバトルシーンの描写の稚拙さに泣けてきた。どうやれば生き生きとバトルシーンがかけるのやら。好きなんですけどね、バトルシーン。
普通からはみ出す力なんていらないと、異端の青年は願って生きてきた。
思うが侭に生きればいいと、美しい少女は嘲笑った。
運命を変える力がほしいと幼子は思った。
守り抜きたいと、無才な身で祈る壮年の男がいた。
全てはバラバラのピースのまま、そうして彼らは巡り会う。
04.正面突破
小柄な愛くるしい顔をした人妖の少女を背負い、目指す目的地たる疾風族の里を目指して、世にも珍しい黒髪の人鬼、金斗羅は、死灰降る地上を裸足で駆けていた。
「そういえばさ」
「・・・なんだよ」
どうやら、暇である件の少女、青雷はのほほんとした声で自分をおぶっている青年に話しかける。
「噂によると、人鬼の部族のうち何部族かは数年に一度交流会と称して模擬試合するってボク聞いたことあるんだけど、金斗、それって本当なの?」
なんでわざわざこんな時にそんなことを言い出すんだ、とか思いつつも、根で人が良い金斗羅は「鬼人の子孫筋の数部族だけだがな。まあ、本当だが、それがどうした」と、律儀に返事した。
「へー。ってことは、夜月族である金斗も当然それに参加したことあるんだよね」
「そうだがよ・・・言いたいことあるんならはっきり言え」
ただでさえ嫌なことをこれからさせられる為にイラついているってのになんだ、と怒気を込めて青年がそう告げると、青雷は「んー、いやね、たいしたことじゃないんだけどー」と暢気な声で続けた。
「それが本当だったら、もしかして金斗ってばこれから行く疾風族の里にも知り合いがいたりするのかな~?って素朴な疑問?」
「はっ、知り合いがいたら襲撃取りやめてもいいってか?」
皮肉った物言いでそう金斗羅が吐き捨てるように口にすると、青雷は「まっさか」と至極あっさりその言動を切って捨てた。
「知り合いかどうかなんて、殺し合いには関係ないじゃない?知人だとかそうでないとか、これから殺そうとしている相手に気にする必要なんてまるでないと思うよ?」
本当に愛くるしく、無邪気にさえ聞こえる声でそう言い切る少女。それに、ああお前はそういう奴だろうよと思いつつも薄気味悪くなる。だが、こんな小さな少女に脅えているという事実を表に出すのも癪で、誤魔化すように思いついた言葉を後先考えずに金斗羅は口にした。
「疾風族に知り合いなんていねえ。あの部族は妖狐と龍牙の直系子孫の家系だからな。鬼人の直系部族である夜月とは接点すらなかった」
言いながらも、その足を止めることはない。そして遠く、木のようなもので作られた集落が目に映る。
「見えた」
人間の里に比べればこじんまりしている。だが、人鬼の里としては破格の大きさだ。住民数は400を数える・・・夜月は50人ほどの部族だった。人鬼界でもトップクラスの部族だ。
右手に握る金色の短剣、金皇鬼を握り締める。
「昨日説明したと思うけど」
青雷は、耳元で囁くように言葉を連ねる。
「その剣は元々人鬼専用兵器。持ち主の力に反応して大きさを変え、持ち主の力になってくれる。君が振るえば、最大限にその力を発揮してくれるよ」
ちり、と剣が頷くように共鳴をしたような気がした。
「・・・・・・行くぞ」
先代疾風族の部族長、緑栄の葬儀を物静かに慎ましく終えた、その時にそれは鳴り響いた。
がらんがらんと、数十年ぶりに発せられた、緊急事態を告げる合図である鐘の音を前に、族長の屋敷に集まっていた面々は驚きの面相で顔を付き合わせる。
「た、大変です」
直後、この間成人を迎えたばかりの年若い人鬼が慌てて駆け込んでくる。
「何事だ!」
疾風族の中でも年配の人鬼がそう怒鳴るような声で尋ねると、まだ少年を抜けたばかりだろう人鬼は「襲撃です!」そう信じられないような声で言った。
「襲撃、だと?」
意外な言葉に大人たちは互いに顔を見合わせて驚く。それに、一人だけここにいる幼子・・・前頭首、緑栄の一人息子である萌黄詞だけがびくりと、背を跳ねさせた。その様子を後見人となった叔父の緑暴は見逃すことなく捕らえたが、他の面々は気付いていなかったらしく、そのまま会話を続ける。
「まさか・・・数年前の事件みたいに人妖の奴らが動いたとか?」
「襲撃者は?」
「そ、それが・・・」
年若い人鬼は、他の大人たちに気圧されるようにたじろぎつつ、自分が見てきたものが信じられないような顔をしてその襲撃者の特徴を口にした。
「緑の衣を纏った、長い黒髪の人鬼でした」
それに、聞いたものたちも呆気にとられた。
「夜月族の金斗羅・・・か?」
「何故、うちに?」
基本的に人鬼の他部族同士は交流試合をすることや、餌の調達に行った時鉢合わせた時に争うことくらいなら稀にあっても、互いの里に攻撃をしかけることなどはない。それは、我らは人間と違って同族と殺しあうような愚は犯さないという意思表示の現れでもあり、また人間に比べ圧倒的に人鬼の数が少ないことからも、縄張り争いにまで発展することも稀だったことから生まれた人鬼界の暗黙のルールだ。
とはいえ、世の中例外もあるので、たとえば滅多にないケースではあるが、自分の女が他部族のものに奪われた・・・とかそういう時は報復として、相手の男を殺しに他部族に殴り込みをかけるのは黙認されていたりもする。だが、夜月の金斗羅といえば、色々な意味で有名人ゆえに人鬼界でも知らぬものはいないほどではあるが、そういう、疾風族に対する怨恨みたいなものがあるという話は聞いたこともない。故に、彼の襲撃は疾風族の面々から見れば青天の霹靂そのものだった。
そんな他の衆の会話など受け流し、スッ、と緑暴は腰をおとして、2m近い長身を折り曲げ、甥っ子である萌黄詞の小さな頭と目線の高さが合うように屈んで、それから、静かな諭すような声で幼子に今回の件のことについて尋ねた。
「知っていたのかね?」
萌黄詞は、僅か迷うように肩を震わせて、それからこくんと頷く。それに緑暴は静かな声で「そうか」とそういった。
「萌黄詞、今回の件についてわかることを拙者に教えてはくれぬか?」
「・・・・・・わざわい」
ぽつり、と萌黄詞は抑揚のかけた声でそう口にする。
「わざわい、くる。きてる。カナトラといっしょ。あれに・・・かてない」
緑暴は、細めた目を僅か、開けた。
「皆、群に伝言を」
いいながら、2m近い壮年の大男は大音声で族長代理としての決定を下した。
「侵入者に対し、拙者が出る。万が一の為、女子供は隠し通路から退避。男衆は女子供の護衛にあたれいっ」
「バクおじぃ」
人の良い叔父としての顔から、戦士としての顔に切り替える目の前の男に対して、幼子はおずおずと手を伸ばす。それに、緑暴は適当に捕まえた女に萌黄詞を頼む、と言って無情にも背を向けた。
「バクおじぃっ」
言いたいことがある。自分は叔父が行くのを引き止めなければいけない。なぜなら、あれに叔父は勝てない。そう思っているのに、不器用な萌黄詞はこんな時でも意味のある言葉を上手く紡げない。感情を表に出せない。無表情、無感動のまるで人形、行っちゃ嫌だと、そんなことすら言えない。
それに、叔父は一度だけ振り返って「萌黄詞、災いなどすぐに片す。おぬしは大人しくしておるのだぞ」とそんな言葉をかけて笑って行った。
(だめだ)
駄目なんだ、駄目なんだよ、バクおじぃ。
ああ、そう・・・ぼくはいつだって見ているだけ、思うとたまらなくなって、萌黄詞は自分を抱いている女性を弾いて駆けた。
「きゃっ」
女の悲鳴すら遠く、ただ広い背中を目指して萌黄詞は駆けた。
策など無用だ。人鬼の長を引きずり出したくば、正面突破こそが最もわかりやすい近道。そう、割り切ればこれは簡単な話だった。
そう、真っ直ぐに、逃げも隠れもせずに金斗羅は、敵陣へと直接駆け込んだ。
右手には黄金の短剣、金皇鬼。自分を出迎える20人ほどの戦士達を相手に縦横無尽に駆け回り、翻弄する。戦術なんて考える必要すらなく、体が戦い方を知っている、そのことを誰に言われるまでもなく金斗羅は知っていた。そうだ、知っている。忌まわしくすら思っていた生まれついての才能なのだから。戦えば自分が勝つことは知っていた。けれど、それは金斗羅にとっては呪わしいほど疎ましい事実で、何の訓練もなく、敵の攻撃を見切り、圧倒出来る自分に吐き気染みた嫌悪すら感じながら、もう16人目の戦士の首に左手で手刀を打ち込んでその意識を奪った。
「貴様っ」
数を増やした疾風族の青年たちが憎悪すら込めて自分を見上げ、「何が狙いだ」と口にしながら、疾風族由来の異能である風を操る力を駆使しながら、それでも傷一つつくこともなく自分たち相手に一人で戦舞を舞う黒髪の男に踊りかかりつつ、疑問をぶつけた。
「あんたらの長の首、それだけが狙いだ」
嫌悪感でいっぱいにしながら、吐き捨てるように金斗羅はそう言い切って、また一人、別の人鬼の意識を刈った。
「貴様・・・人鬼のくせに・・・血迷ったか、金斗羅!!」
「・・・かもな」
自嘲気味にそう口にしながら、それでも金斗羅が周囲の猛攻を前に傷つくことはなかった。
「皆のもの、そこまでにせよ!」
壮年の男の渋みがかった大音声が響く。
それに、ざっと、男たちが後ろに引いた。
「緑暴様!!」
2m近い壮年の大男だった。一族色である深緑の髪を後ろで一つに縛っていて、身体付きからして歴戦の戦士であることがわかった。
金斗羅もまた、まわりの男たちが止まったことによって自分の動きを止める。
「お初にお目にかかる。夜月の金斗羅殿。拙者、疾風の緑暴と申すもの。しかし、まさかの夜月の御曹司自らこのような辺境の地に来訪なされるとは、想像の範囲外。こうも予想外の人物に尋ねられては持て成しようも思いつかぬ。して、率直に尋ねよう。そのほうの目的はなんですかな?」
穏やかな顔をして、でも油断だけは微塵も見せず、そう口にした大男に対し、金斗羅は「さっきもこいつらに言ったんだが・・・」と前置きして、それから金皇鬼をまっすぐに持ち上げた。
「俺の目的は今の長の首だけだ。でだ・・・アンタが長でいいのか?」
言われた緑暴は、別れ際の萌黄詞の様子を思い出した。他の人にわからずとも、自分は誤魔化せぬ。あの子は確かに脅えていた。
(・・・長の首・・・)
つまり、狙いは萌黄詞であった、と。
だが、長は萌黄詞だが、それをこの目の前の青二才は気付いていない。ならば・・・。
「左様。拙者が疾風の長だ」
そう、臆面もなく口にした。
人鬼には3種いる。
一つは一族特有の異能のみを持ち合わせている人鬼。人鬼のうち7割がそれだ。
一つは一族特有の異能のほかに、個人としての特殊な異能を重ねて持ち合わせている人鬼。格部族の長の直系に多いケースではあるが少数派で、萌黄詞がこれにあたる。
一つは・・・人鬼でありながら異能をまともに持ち合わせていない者。稀に生まれる彼らは人間に狙われやすく、人間に捕まれば、人鬼の天敵種たる人妖を作るための種馬として利用しつくされて、非人道的な扱いを受けた結果殺されるのだという。また、人鬼自体にも嫌われ疎まれやすいために、自ら里を逃げ出して人間に捕まってしまう事が多いという。
この身は無才。パターンでいえば、一に述べたケースで、持っているのは一族特有の異能のみであり、しかもそれもそう強力なものでないことを緑暴はよく知っていた。潜在能力などあの子に遠く及びないことはとうにわかっている。自分にあるのは成人してより今までの戦士としての勤めで培ってきた実戦経験だけだ。
長ずれば萌黄詞に全てにおいて抜かれることは知っていた。それでも、萌黄詞を守るのだと緑暴は決めていた。
「左様。拙者が疾風の長だ」
だから、萌黄詞の首を狙っているのだと知って、そう口にした。
それに、金斗羅は、「そうかい。恨みはねえが、くたばってくれ」そういい、刃を向ける。
「皆の衆!下がるがよい、この礼儀知らずの坊主に拙者が礼儀というものを叩き込んでくれる!」
いい、腕に風を纏い、刃とした。
がぎりと、金の短剣と風の刃が鍔競り合う。
「ふっ!」
どういう作用か知らぬが、金斗羅が手にしている武器は尋常のものではない。このままでは風を切り裂いて刃が自分の腕を裂く、それがわかって緑暴は風の刃を男に向けて3発発射、瞬間、異常なまでの反射神経で男はそれを避けるように浮き、そのタイミングにあわせて重い右足でもって青年の、自分に比べると随分柔な印象の腹部を蹴り付けた。とったか、いや、甘い。岩をも砕く豪足ではあったが、蹴りを放った時、黒髪の青年は既に自分から浮いて後ろに飛んでいた。見た目に反してダメージは殆ど受けていないだろう、それがわかって、ざっと壮年の戦士は素早く型を取って構えた。とはいえ、豪速で蹴り上げた風圧もあり、青年はそのまま空中で10mばかし遠方へと飛ばされていった。そんな不安定な姿で放り出されたというのに、金斗羅は次にはなんでもないかのようにくるりと、宙で一回転し、隙のない所作でもって地へと降り立った。この間3秒ほどの攻防である。
「・・・驚いた。やはり、長となると格が違うんだな」
場に似合わぬような素直な感想を、金斗羅はぽつりともらす。それに、油断なく構えつつ、緑暴は柔和な笑みを口元に貼り付けて穏やかな声で「左様ですか。こちらは些かがっかりしましたぞ」そう口にした。
「『鬼人の再来』と謳われたかの夜月の金斗羅がこのような礼儀も弁えていぬ子供であったとは・・・いや」
笑んだまま、声だけ厳しく緑暴は言い切る。
「その方は戦士と呼ぶことすらおこがましい紛い物だ。その、死んだような目は何だ?死した夜月の面々がこれでは浮かばれぬであろう。おぬしのようなものが同族とは情けなし。来なさい。せめてもの情けだ。矜持すら持ち合わせておらぬ若輩者に礼儀を教示してくれようぞ」
「・・・はっ、熱血は嫌われるぜ、ジイサン」
そして、二人は対峙する。
続く
というわけで4話でした。次回はバトルメインなんですが、ちゃんと書けるのかおら、どきどきしてきたど。
派手なバトルってどうやって書けばいいんだか。難しいが出来る限り精一杯やらせていただきます。