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人鬼  作者: EKAWARI
第一章 疾風族の里編
3/19

02.目的

ばんははろ、EKAWARIです。

んで、「疾風族の里編」スタート。毎度章始めにその章のイメージイラストつけようかと思っています。今回の画材はぺんてる筆ペンとコピック。緑暴の旦那の胸毛描くのが楽しかったで・・・げふんげふん。

つっても、今回の話ではまだ疾風族の里についてないんですけどね。

今回の話は青雷さんの外道っぷりが見所ですよ。




 ―――――わかりますか?この出会いは偶然ではなく、必然であること。

 鬼人オニヒトの血を濃く受け継ぐ貴方のおわりは、300年前から決まっていた。




挿絵(By みてみん)




 02.目的



 嗚呼、これは夢だと思った。


 金斗羅カナトラと、そう名を呼ばれる。自身の名だ。

 この世は重苦しいものばかりだけれど、それでもまだ父や母、仲間が生きていたいつかの日。

 自分に微笑む母の顔、輪郭だけでぼんやりして顔は思い出せやしない。

 ゆらゆらと、夢の中なんだから、少しくらい見せてくれてもいいだろうに、俺自身が覚えていないことは見せられないとでもいうのだろうか。

 それでも夢の母は笑っていた。

 笑って幼い俺の頭を撫でる。

 それから『強く、ご立派におなりなさい』とそう告げて、そうして、炎に向かって歩き出した。

 まってくれ。

 あんまりじゃないか。

 俺だけ置いていくなんてあんまりじゃないか。

 どうして俺だけ置いていくんだ。

 くすくす、と炎の中で笑う、みんな。なんで、笑う?

『金斗羅、我らがお前を置いていったのではない』

 かつての長が・・・父様ててさまが、低い声で静かに言う。

お前が(・・・)、我らを置き去りにしたのだ』


(違う・・・俺は、俺は、走って、伝えようと走って・・・そんなつもりじゃなかった)


 俺は今どんな顔をしているのだろう。

 炎は手招きをする。こっちこっちと、俺を包もうとしている。

(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい)

 ああ、そうだ、俺は・・・。


金斗カナト、起っきろ~~~!!!」

「げぶらッふ!?」

 突如谷間に感じた尋常ではない痛みと共に、金斗羅は現実へと一気に引き戻された。


 鈴がなるような少女の声、それが「やっと、おきた~?おきた~?」なんていいながら、悶え苦しみ転げまわる青年を楽しそうに見やる。昨日より金斗羅と行動を共にしている人妖ヒトアヤの少女、青雷ショウライである。

(俺のタマがっ、タマが潰れるかと思ったッ)

 うごごごご、といまだ言葉になっていない唸り声を上げながら、黒髪の人鬼、金斗羅は、涙目で少女を睨み付けた。少女は、うん?なんていいながらにこにこしている。まるで、無邪気でわたしなんにも悪いことしていませんといわんばかりの顔だ。それが無性に憎ったらしい。

「てめぇ・・・なんっつぅこと、しやがる」

 痛みに顔を顰めながら、苦い声で低く吐いて見せても、何処吹く風とばかりに全く堪えていないのが凄く悔しい。

「ん?目、覚めたでしょ?起こしてあげたんだから、ボクに感謝してよね」

「じょ、冗談じゃねえ!どこの世界に男の急所に向かって全力で飛び乗って起こす奴がいる!?」

 あれは、絶対助走つけて、遠くからジャンプして、俺の急所にむかってダイビングした一撃だった!と、声ならぬ声で断定する。だって、もう、威力が尋常じゃない。自分が他人より丈夫じゃなかったら、きっと今頃男の大事なナニが潰れている。

 青雷はふふん、と目を細めて笑いながら「いつまでも起きない金斗が悪いんだよ~。大体潰れていないんだからいいじゃない」とか、可愛い顔して鬼畜なことを言い出してきた。悪魔か、てめえは、と金斗羅が思っても、当然といえば当然だろう。

 ふと、あることに気づいて金斗羅は眉を顰める。痛みがなくなったわけではないが、もう例の位置に受けた攻撃自体を追及する気が失せたあたり、トコトンこの男の身体もタフに出来ていた。

「大体、お前、なんで勝手に俺の名前を略して呼んでるんだ」

「え?呼びやすくていいじゃない。金斗もボクのことは、ショウって呼べばいーんだし。ていうか、呼べ」

「誰が呼ぶか!って・・・うわ、なんだこりゃあ!?」

 今まであらぬところから漂う痛みの衝撃や、目の前の少女の相手などで気づいていなかったことに気づいて、金斗羅は吃驚して、叫ぶ。

「可愛いでしょ」

 青雷は、にまにまと悪戯っ子のような笑顔を浮かべて、面白そうに金斗羅の反応を伺った。

 金斗羅の、股下まで届かんばかりの癖のある漆黒の長い髪は、三つ網にされて、可愛らしいフリフリのリボンで止められている。犯人は問うまでもなく、目の前の少女であることは明白だった。

「お前っ、ほんっとうに何考えてやがんだっ!何が哀しゅうて成人男子がこんな頭して、可愛いなんて言われなきゃならんのだっ」

 まあ、自分は成人の儀など受けていないのだが、と内心で付け足して、青雷が寝ている間につけたらしいリボンを剥ぎ取ってから、三つ網を解いた。

(うう、癖になってる)

 元々癖っ気の強い髪が三つ網にされたことによって、あちこち絡まっているのを見て、実は癖毛を気にしていたらしい金斗羅は地味にへこんだ。それに追い討ちをかけるように、青雷の言葉が続く。

「ボクが可愛いって言ったのはリボンのことだったんだけどな~、へー、金斗ったら自分が言われたんだって思ったんだ?へえ?へえ?」

 にまにま。面白いことを聞いたという顔をして、少女は愛くるしい顔で、悪魔のように笑う。

「あ・・・ぐ・・・」

「まあ、そうだね。こんなことでうろたえて赤くなっちゃったり、青くなっちゃったりしちゃう金斗は可愛いよね。うんうん。ご希望ならこれからもそー呼んであげるよ。ね、金斗ちゃん?」

 にっこりと、それはもう鮮やかな嫌なくらいのイイ笑顔で、青雷はそんな宣言をして、金斗羅の頭をよしよしと、まるで愛玩動物にするかのような仕草で撫でた。

「もう・・・いい」

 疲れた、ああもうどうにでもしてくれこの悪魔、なんてことを思ってがっくりと肩を落とし、ついでふと、金斗羅は、この少女に対して感じていた違和感のようなものの正体に気づく。

 昨日は空腹と疲れ、今朝はこの一連のやり取りの騒動で気づかなかったこと。

(・・・こいつ、匂いも気配もありゃしねえ・・・)


 あの時は、空腹のあまり五感が鈍っていて青雷かのじょの接近に気付かなかったのだとばかり思っていた。だけど、それは変なのだ。

 空腹ならば、逆に嗅覚などの感覚は研ぎ澄まされる筈なのだ。それに、全くひっかからなかった少女。彼女が携帯していた食料に関しては、包んでいた布に匂い消し加工がしてあったのでそれのせいかと思えたが、生きている人間は、人間以外も、そこにあるだけで必ず体臭というものがあるはず。其れが無い。

『今のボクは分身体なんだ。だから、金斗羅にボクの封印を解いてほしいんだ』

 本人はそういっていた。つまり、匂いがないのも、分身体というやつだからなのか。

 でも・・・。

(おかしいじゃないか)

 人妖ヒトアヤってやつは、人鬼の能力を完全無効化する能力、それ以外は全て人間並み。そのはずだ。少なくとも、俺はそう聞いて育った。でも、分身体・・・?分身を生み出す異能など、人鬼でも異端だ。それを人妖の少女がおこなっただって?それは、金斗羅の常識に照らし合わせれば異常だった。

 少女は相変わらずにこにこしている。中身は悪魔のようなやつだが、見た目だけなら伝承に聞く、天使とやらのように愛くるしく、小柄で美しい少女だ。それが、とてつもなくおぞましいもののような気がして、怯えが走りそうな背筋を、意思と虚勢だけで押し止める。ぐっと、右手を握り締める。いつの間にかそのあたりにおいていたはずの豪奢な短剣が自分の掌に握られていたが、驚くのはもう十分だ、無視してそのまま握りこんだ。

「・・・そういえば、聞いてなかったな」

「うん?」

 青雷は、ことりと可愛らしい仕草で首をかしげる。

「封印を解けといったな。それは一体どういうことだ。お前は一体俺に、何をさせようとしている?」

 昨日は疲れてあれから地上に戻ってすぐに眠りに落ちた。その為、聞けなかった、聞かねばならなかったことを口にする。それに、青雷はくすりと、不吉を予感させるような美しい笑みを口元に浮かべて、そうして鈴の鳴るような声で、歌うように男の言葉に回答を連ねていく。

「ボクの本体を封印したのは、人鬼の四つの部族長だよ。「疾風族ハヤテゾク」「水龍族スイリュウゾク」「火焔族カエンゾク」「土石族ドセキゾク」の四つの部族。金斗だって名前ぐらい知ってるでしょ?」

「なん・・・だって?」

 知っているなんてもんじゃない。

 今上げられた部族は、人鬼界で四大一族といわれている、最大規模の群の名前なのだ。

 風の異能を継ぐ疾風族、水の異能を継ぐ水龍族、火の異能を継ぐ火焔族、土の異能を継ぐ土石族。人鬼は全部で大小含めて30ほどの部族があるといわれているが、・・・鬼人の血が最も濃い一族といわれる「夜月ヤゲツ」を除けば、他の少数部族はいずれもこの四部族の流れを汲んだ分家のようなものだ。

 他の人鬼の一族とは別格。その長達4人によって封印された。それはまるで悪い冗談のようで、知らず金斗羅の口元が泣き笑いのような形を作った。

「封印の地はキヌカクジアト。あそこは霊気が宿っていて、どの人鬼の集落にも近くないからね、都合がよかったんだろうね」

 うんうん、と軽い調子で言葉を続ける青雷。まるで現実感がなくて、ふわふわと自分の足元が浮いているような錯覚を金斗羅は覚えた。

「それでね、ボクの封印の解き方なんだけどさ、金斗にあげた剣あるでしょう?今、手に握っているソレね、銘は『金皇鬼カナオウキ』って言うんだけど、それにね、ボクを封印した四人の族長の血を吸わせて」

「は・・・?」

 なんといったのか、この子供は。言葉は理解できた。でも意味が理解出来ない。

「あ、ごめんごめん。多分もう四人とも死んでる頃だ。うん、本人じゃなくてもいいよ。そのね、四人の部族長の跡継ぎ(こども)である現頭首で十分だから。でも、本人じゃないからなあ・・・うん、死ぬまで斬らないときっと駄目だね。うん」

 それはまるで、本当に笑うように、無邪気な子供のような様子で笑いながら、そう、青雷は言ったのだ。

「おい・・・まてよ。俺に、それは俺に・・・四部族を襲って、その族長を血祭りに上げて来い、とそうお前は言ったのか・・・?」

 胸がむかむかする。吐き気がとまらない。この子供の笑顔が、それは笑顔なのに、なによりもおぞましくて気持ち悪い。これ以上考えたくないんだ。NOと言ってほしい。否定してほしい。

「そうだよ。金皇鬼を使って、この四部族の族長を皆殺しに出来るのはきっと金斗だけだろうからね」

 つまり、それは人鬼おれ人鬼どうぞくを殺せ、とそう、これは言ったのだ。

「ッ、てめえっ!!」

 金斗羅は我を忘れて、我武者羅にこの細い少女の首を掴もうと手をのばして、そして、脳を焼くようなとんでもない電流に弾かれた。

「あ・・・ぐっ」

 立ち上がることすら出来ぬほどの拒絶の気。それが我が身を苛み、見っとも無く、青年はその大きな身体を地面に転がす。

「駄目だよ、金斗。忘れたの?人鬼である君が人妖ボクを傷つけられるわけがないじゃない」

 くすくすと少女はそれはもう優しい声で笑い、それからガッと、その人鬼としては稀色な黒い頭を容赦なく踏んづけた。痺れて動けない身体のまま、金斗羅はぐりぐりと小さな足によって地面にこすりつけられる。

「同族殺しは嫌?でもね、そんなに気にすることはないんだよ。そもそも君たち人鬼は他の部族にかまうことなんて滅多にないし、金斗の一族が滅んだ時だって、誰か助けてくれたりなんかしたの?その後は?一人になった金斗羅は誰か他の部族に助けてもらえたことってあったの?ないでしょ。そうだよね、人鬼ってそういうものだもの。一族が違うんなら、それはもう別物だよ。同族殺しなんて思う必要はないし、そもそも金斗ってもう『一人』じゃない?夜月が無いんだから、掟に縛られる必要だってもう、ないんだよ?」

 まるで天使が歌を謡うような声音で、優しく青雷は語りながら、がっ、がっと、金斗羅の埃塗れの後頭部を蹴り続ける。

「それにね、親兄弟で交じり合い情を交わしあいの近親相姦を繰り返して血脈を繋いで来た化け物(ジンキ)の分際で、何を道徳者モラリズムぶってるの?そんなに、いい子に自分が見られたいの?生みの親(ちちおや)殺しの子孫の癖にね、あはは、本当に人鬼っておっかしいなあ」

「・・・ッ」

 青雷の足の爪が、蹴り付けた拍子に金斗羅の瞼を切る。赤い血が、金斗羅の顔と地面をぬらす。

「あとねえ・・・金斗、何か勘違いしていない?」

 動かない金斗羅の顔面目掛けて、膝を一つ全力で叩き込んでから、くすりと天使のような顔で微笑んで、青雷は視線の高さを転がっている金斗羅に合わせた。

「ボクはさ、金斗きみの命のオンジンなんだよ?」

 そっと、その自分に比べて幾分硬い男の頬に手を沿わせて、青雷は囁くように青年の耳元でそんな言葉を囁いた。

「君はさぁ、世間知らずだから知らないだろうけど、命を救ってもらった礼には命で応えるのが当然ってものでしょ?それが、常識ってものだよね」

 からからと、跳ねるような声でいいながら、血の伝う金斗羅の傷口をぺろりと舐める。その仕草が、自分の巣にかかった獲物ちょうを狩ろうとする蜘蛛のように、男の目には見えた。

「・・・おま・・・え・・・」

 舌が痺れている。声が上手く出ない。でも、何かを訴えないといけないとそう思えて、でも出来ないままに冷たい汗が背筋を流れていく。

「ボクはさ、金斗のその世間知らずなトコ、可愛いなって思うし、好ましいと思うよ?でもね、あんまりにもお綺麗過ぎて・・・グッチャグッチャにしたくなる」

 その言葉はまるで呪いのように、愛の囁きのような濃密さで、溶かすように耳朶へと流し込まれていった。


「嫌、なんて言わせないよ。その剣を手にした時から、既に君はボクのモノなんだから」

 ぐい、と長く癖のある黒髪を掴んで、無理矢理男を上向かせながら、他者が聞けば誤解しそうなほど優しげな声で、この現実感のない少女は所有者としての宣下を行う。

 ―――――人妖は人鬼の天敵だ。

 それを何よりも象徴するかのような少女は、それでも美しい貌をしてことばを撒いていく。

「あ、でもね、ボクだって鬼じゃないからね。ちゃんと、ボクの封印を解くまではボクは金斗の食事の世話は見てあげるよ。金斗の姿じゃ、食料を手に入れるのも一苦労だもんね。うん、それはやってあげる。ふふ、ボク、優しいでしょ」

 本当に、その見た目だけならば優しく少女は微笑んでいるのに。

「だから、殺して。4つの長の血を集めて、ボクの本体を封じた結晶に突き刺せば、それでボクの封印は解かれる。そうしたら、金斗だって・・・自由になれるよ・・・?」

 その微笑みが何よりも怖かった。

 誰よりも何よりも、この少女の笑みが一番怖かった。

「・・・悪魔か、てめえは・・・」

 声が震えた。精一杯の強がりで、それで言えたのはそれだけだった。

「ふふ、古めかしい言葉を知っているね。金斗羅は。でもね、忘れたの?ボクが悪魔なら、君は鬼なんだよ。人の幻想が生んだ・・・人造の鬼」


「さあ、まずは誰から殺す(どこからいく)?」




  続く




というわけで第二話、封印の仕組みについてでした。

青雷さんマジ外道。ちなみに青雷は書いている分には楽しい子なんですが、ヒロインとしては全く愛していない子でもあります。寧ろ、これをヒロインとして愛せるやつがいたとしたら、俺はそいつはマゾに違いないと思っているくらいだ。

んでもって、金斗羅は好きとか嫌いとかじゃなくて、書き易い主人公。戦闘の才能はあっても金斗はチキン野郎で臆病でトラウマだらけでそういうところ弱いところが人間 (じゃないが)らしくてやりやすい。そんな感じ。

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