12.滅亡の日
ばんははろ、EKAWARIです。
おまたせしました。久しぶりの本編の続きです。
金斗羅の過去編はこれにて終了です。ではどうぞ。
その光景は鮮明に覚えている。
燃え盛る夜月の里。
一人生き残った俺は、ただ逃げた。
12.滅亡の日
交流会が終わって里に戻ってから、何ヶ月もの時が過ぎた。
金斗羅は何も変わらず、これまでどおりの日常に戻らされた、そんなものだ。
ただ、交流会を終えた金斗羅は、これまで以上に次代の長として躾けられるため、彼の教育係はより大人へと切り替えられた。それを父から告げられる際、同室にいた自分の世話役であった少女、秋躑躅は寂しそうに、「あたしの役目はここまでですね」そう笑っていた。
それからの日々は忙しく、金斗羅は日常へと忙殺されていく。
だから、それに気付いたのはあまりに遅すぎた。
それは、冷え冷えとした蒼い空が印象的な夜のことだった。
数刻前まで酸性雨の雨が降って濡れた地面に家々。そんな中で、ぼうと幽鬼のように家の奥と奥の間で縮こまる様に立つ影に、用を足す為に外に出た彼は気付いた。
「・・・秋躑躅?」
それは、数ヶ月前まで自分の世話役だった躑躅髪の少女だった。いつもはサイドテールに結っている髪をそのままおろして、背中に流している。その顔は暗く、自分の世話役として仕えていた頃の明るさなんてどこにいったのかと、同一人物であることを一瞬疑いそうになるほど、落ち沈んでいた。ぽたり、ぽたりと、色を濃くした紫みの強いピンクの髪が雫を垂らす。見れば、全身が雨で濡れている。一体、何時間前からそうしていたというのだろうか。
「秋・・・躑躅?」
ふと、彼女が目線を上げた。濁った金の瞳が焦点なく金斗羅の目に合わされる。それに、ゾクリと寒気が背筋を通り抜けた。
「ああ・・・金斗羅様」
ゆったりと、形だけ目元が笑いの形を模った。それに金斗羅は怯えた。秋躑躅はそんな金斗羅の様子に気付いていないのか・・・おそらくは気付くほどの心の余裕などないのだろう。そんな様子で、ゆらりと立ちながらひたりひたり、濡れた素足で金斗羅に近寄った。それはまるで本当に幽霊か何かのようで、知らず金斗羅の足が一歩後ろに下がる。
「ふふ・・・久しぶりですね」
言う声は、まるで数時間前までこのあたりに降り注いでいた雨のように冷たく、温度がない。それに、震え逃げそうになる自分を叱咤しながら、金斗羅は勇気を振り絞って声をかけた。
「え・・・と、その秋躑躅、どうしたの?濡れたままじゃ体を壊しちゃうよ。・・・時鳩羽は?」
時鳩羽、彼女の許婚であろう男の名前を聞いて一瞬、ピクリと秋躑躅は肩を揺らし、ただ濁りきった金の目を金斗羅に向けた。それに、少年は怯えた。
「時鳩羽は・・・ませんよ」
「え?」
ぼそりと呟かれた、その言葉の意味がわからず金斗羅は固まる。いないといったのだろうか?いや、そんな筈はない。夜月は小さな里だ。誰かが一人でも死ねば全員にその話は伝わる。だから、時鳩羽が死んだなんてことはありえない。じゃあ、なんと彼女は言ったのか。
「時鳩羽は・・・もう二度と、あたしを迎えに来たりしませんよ」
今度はちゃんと声になるくらいの声量でそう秋躑躅は口にした。同時、理由はわからないが、金斗羅は自分が彼女の地雷を踏んだだろうことを自覚した。
「時鳩羽はねえ・・・もうあたしはいらないんだって」
なんでそういうことを言うの。そんなわけないじゃないか、だってあんなに二人は想い合ってた。本当なら一生結婚なんて難しいだろう立場の秋躑躅を選んでくれた人じゃないか。なんでそんなこと言うの。金斗羅の頭の中でそんな言葉の羅列が踊るようにまわる。だけど、彼がそれを口にすることはない。だって、言えるわけがない。
それほどに秋躑躅の言葉は重苦しく、今にもバラバラになってしまいそうなほどに危うげな姿だったのだから。ここ数ヶ月の二人のことを金斗羅は知らない。知らないものが一体、何を言えるというのだろう?どんな言葉が届くというのだろうか。
「ねぇ、知ってましたか、金斗羅様」
のろりと、縋るように秋躑躅の右手が伸ばされる。ひやりと冷たい、まるで幽霊のようなその手が金斗羅の左肩にかかる。ぽたり、手から滴る水滴が金斗羅の衣服を濡らした。
「あたし、あたしね、女じゃなかったらしいんです」
しゃっくりあげるように、でも涙は枯れ果てたかのような声音で空虚に秋躑躅は、そんな思わぬ言葉を吐いた。
「自分でも知らなかった。あた、あたしは・・・男でも、女でもないんだって。子供なんて・・・作れるはずがないんだって」
ぎちぎちと金斗羅の肩を掴む手に力が入る。それに秋躑躅は気付かない。痛い。指が食い込む肩が痛い。だけど、金斗羅は動けなかった。今、目の前の教育係だった少女・・・いや、彼女の言が本当ならば、『少女』なんて表現はひょっとすると不適切かもしれない、が口にした言葉があまりに衝撃的だったから、言葉すらも忘れてただ立っていた。
「知るはずないでしょ!だって・・・誰も教えてくれなかった。自分が変かどうかなんて、比べる対象がいなかったんだから!」
夜月と火焔の半分である彼女は、幼くして親を失ってから、ずっと一人だった。一人で育った。せめてもの情けとして命をとられることはなかったけど、それでも里人に蔑まれ厄介者として育ってきた。そんな秋躑躅が他の里人と仲が良かったなんて話は聞いたことはない。裸の付き合いなんてものも勿論なかっただろうし、多少変なことがあってもそれを指摘するような相手なんてそもそもがいなかっただろう。それが・・・異性だと思っていた男相手なら尚更にそうだ。つまり、秋躑躅は自分が男でも女でもない性でありながら、そうだと言う事を知ったのは・・・。
「気味が悪いって・・・中途半端にどっちでもなくて気持ちが悪いんだって・・・無理だって、そう言ったんです・・・時鳩羽は」
好きな人と結ばれる時に知ったということなのか。
それに、まるでハンマーで頭を叩かれたような衝撃を金斗羅は受けた。男でも女でもない性別の人間がいることは知識としては知っていたけれど、そんなものは御伽噺で、身近にいることなど夢にも思わなかったからとか、それだけではない。時鳩羽が、秋躑躅を突き放したこと、目の前の元世話役の今にも壊れてしまいそうな様子。全てをひっくるめて幼い金斗羅の頭の許容範囲を超えていた。
「ふふ・・・笑っちゃいますよねえ。ただでさえ、欠陥品なのに・・・あたしなんてお荷物なのに・・・子供を作る機能さえないなんて・・・」
遠く記憶がよぎる。今浮かべている笑顔とは真逆の柔らかな笑顔を浮かべて、「将来子供は三人くらい欲しいなぁ」なんてそんなことを幸せそうに呟いていた秋躑躅。それはそんなに遠い昔ではなく、だけど今の現状から見ればなんと遠い昔の夢だったのだろう。そんな風に夢見がちに語った彼女は、どこからどうみても普通の少女だったというのに。好きな人と結婚して、子供を作って家庭をはぐくみたい。そんな普通の少女であれば当たり前のように叶うだろう夢が、彼女には最初っから在り得るわけがなかったなんてことが、結婚を控えたこんなときに発覚するなんて誰が思っていただろう。誰が想像していただろう。
本来、結婚すら望めないはずだった立場の彼女。それがその夢が叶うと確信まで迫った後に発覚した事実。女だと思っていた、誰より女だった少女が、自分はそうでなかったことを知る。それも好きな人と結ばれようとした先で。好きな人の拒絶という形で。それはなんて・・・酷い。
「どうしてよ・・・なんで・・・なんで・・・」
ぼたり、ぼたり、濡れそぼった髪から雫が落ちる。その様がまるで彼女が泣いているようだった。いや、心で泣いていた。
金斗羅は動けない。かける言葉も見つからない。
やがてゆっくりと彼女は顔を上げて、そして・・・昏く濁った金の瞳で黒髪の少年を見上げながら、ぞっとするほど感情のない声でいつかの台詞を言った。
「ねえ・・・金斗羅様」
ひやりと、刃物を首元に当てられたかのように、背筋が凍えた。
「金斗羅様はあたしのこと・・・好きですか?」
―――――逃げた。怯える心のままに、少年は逃げた。
怖かった。どうしようもなく、かつては姉のように慕った秋躑躅が、まるで知らない誰かになったかのようで、あの空虚で濁った金の目に耐え切れず金斗羅は逃げたのだ。
そうして走って、走って、自分の部屋まで辿りついて、ずるりと金斗羅は腰を落とした。本当は逃げちゃいけなかったことくらいわかっている。それでも、あれ以上は金斗羅のほうが耐えられなかったのだ。あれ以上いたら自分が引き込まれていたからと、そんな言い訳を並べながら金斗羅は寝床に用意された布団にもぐりこむ。
カタカタと肩が震えて、ぎゅっと己の体を抱く。
「・・・っ」
べったりと、彼女の右手がかかった肩のあたりの布が濡れていた。
『金斗羅様ハ、アタシノコト、好キデスカ?』
暗闇の中、明日になれば全て元通りになればいいのに、とそんな妄想を抱いて彼は眠った。
ひたり、ひたりと素足で彼女は歩く。
ガランドウの体。じゃあ、なんで引きずってまだ歩くんだろう。自分はなんで生きているのかすらわからないままに、足だけが前に進む。
脳裏によぎるのは、怯えながら走り去っていった、かつて自分が世話をしていた少年の姿。
まるで化け物か幽霊を見るような目で自分を見ていた。
『金斗羅様はあたしのこと・・・好きですか?』
それに、なんと答えてもらったら満足していたのか。『好き』と言わせたかったのか。言わせたかったのだ。そうだ、卑怯にも自分は言わせたかった。彼のことは・・・この里の中でも『好き』だったから。
男でも女でもない欠陥品だと知っても、それでも彼だけは否定しないでくれるんじゃないかなんて、そんな淡い期待を抱いていた、それだけだろう。
でも、もうおしまい。子羊は逃げた。
もう、誰も・・・自分を必要としない。いや、そもそも生まれてくる意味すら自分にはなかったのだ。誰も、自分をはじめっから必要としてはいなかった。
其れに今まで自分だけが滑稽にも気付いていなかっただけ。藁に縋ろうとしていた、それだけなのだ。
「あ、あはは」
おかしくなって笑った。顔はグチャグチャだ。こんな顔誰にも見せられない。ってああ、馬鹿な考えだ。そうだった。自分は女じゃないんだった。だったら・・・そもそもそんなことを気にすること自体が変だった。
ゆらゆらと動く。蠢いている。
(なら、もう全てを無茶苦茶にしちゃおうか)
一瞬だけ、黒髪の少年が脳裏をよぎった。だけど、それはすぐに掻き消え、そして・・・秋躑躅は村から姿を消した。
* * *
ざわざわと、思わぬ珍客の様子に場は騒然とする。それに、代表たる男は周囲に数人の人妖の女を侍らしながら、その珍客を出迎えた。
「まさか、人鬼が自ら、わざわざ一人でこのようなところに来るとはな」
白髭を生やした五十がらみの男は、出来るだけ貫禄たっぷりにゆったりと歩みながら、そんな言葉を言う。丸い耳に黒い瞳。男は人間だった。
「して何用かね、お嬢さん。実験動物になるのがお望みなら、すぐにでも叶えてあげるが?」
そう侮蔑交じりの声音で言う男に対して、出迎えられた躑躅色の髪をした幽霊のような人鬼の少女?は、ぼそぼそと呟くような声で言った。
「いい情報が、あるんです」
「いい情報?」
怪訝な顔をして男は少女を見やる。見れば、どの人鬼の一族なのかその髪色からは判別が付きにくかった。ゆったりと、少女は男を見上げる。濁ったドブネズミのような金の、瞳。
「ねぇ・・・夜月の弱点、知りたくないですか?」
* * *
朝が来た。
夜明けが来る前に、むくりと少年は起き上がる。・・・よく眠れなかった。
こうして一晩が終わった今、金斗羅の胸には後悔の念が湧き上がっていた。
傷ついていた秋躑躅に、逃げ出すなんて酷いことをしてしまった。今更ながらに罪悪感に襲われる。
好きだよって答えておけばよかった。昨日、あれから秋躑躅はどうしたのだろう。
そこまで思ってから、今日が自分の8歳の誕生日であったことを思い出した。
(宴の席で・・・会えるかな?)
夜月の里にとって、当代当主と次代当主の誕生日は特別だ。里人は当然全員出席が義務付けられている。だから、そのときに『いきなり昨日は逃げ出してごめんなさい』と謝ろう。そう思って金斗羅は、部屋の外へと出た。
「金斗羅様、金斗羅様」
「え?」
そう手招きと共にこっそりと偲ぶようにかけられた声は、今の今まで考えてきた人物の声そのもので、吃驚しながら金斗羅は声のほうへと向かう。
「あ、秋躑躅!?どうしたの」
現れたのは、いつも通りの自分の知る秋躑躅だった。それに面食らいながらそう慌てて声をかけると、秋躑躅は悪戯そうに「しっ」と口にして、口元に指をあてた。それに慌てて金斗羅は声を噤む。今はまだ夜明け前だ。みんなが吃驚して起き出すかもしれないし、なにより、既に世話役を解かれた秋躑躅がこんなところにこんな時間から現れたなんて父が知りでもしたら、秋躑躅が罰せられる。
ひっそりと、今度は声を潜めて、金斗羅は秋躑躅へと話しかけた。
「ね、ねえ、こんなところでどうしたの?ぼくに、用事があるの?」
「そうですよ、金斗羅様。ふふ、ねえ、今日はあたしと遠出しましょう」
「でも・・・」
今日の主役は自分だ。そんな事は許されない。いや、誕生日じゃなかったとしても、長の息子である跡継ぎの自分がそんな遊び呆けるような真似は許されていなかった。だけど、敢えてそこで金斗羅は言葉を止めた。ちらりと、思い出したのは昨日の秋躑躅の様だ。じわりとまた、罪悪感が胸にこみ上げた。
「・・・うん。いいよ」
「ねえ、秋躑躅・・・何処まで行くの」
「・・・・・・」
里を出て、荒野を抜けて二人は歩いた。秋躑躅は答えない。ただ金斗羅の手を引いて歩いていた。
「ねえ、秋躑躅・・・」
もうこうして1時間は経つ。だけど、彼女は口を開かない。ただ黙々と歩き続けるだけだ。
「秋躑躅・・・手、痛い」
ぴたりと、彼女・・・彼と呼んでもいいが、は止まった。それに戸惑いがちに金斗羅は見上げる。あくまでも今までどおりの平素の仮面を被った中に覗き見れた虚無、それに少年はゾクリとした。
「ねぇ、金斗羅様」
ゆったりとした、謡う様でいて空虚な声、それを前に金斗羅の小さな体が固まる。
「金斗羅様はあたしのこと・・・好きですよね?」
それに、やはり彼女はいつもどおりに戻ってはいなかったことを知った。ざあと、血の気が引く。青ざめる。だけど、金斗羅はそれでも「うん」と肯定の返事を返した。
「そうですか、良かった」
言いながら秋躑躅はまた金斗羅の手を型がつきそうなほどに強く握り締めながら、歩く。
「金斗羅様、二人で遠くまで行きましょう。夜月なんて捨てて遠くで。ねえ、それも悪くないでしょう?」
「秋・・・躑躅?」
「あんな里、いらない。でも金斗羅様は違います。大丈夫ですよ、金斗羅様は大丈夫ですから」
「何を、言ってるの?」
無言。答えずにやはり秋躑躅は歩く。
「ねえ、秋躑躅。帰ろう。そろそろ帰らなきゃ。ねえ、秋躑躅」
その時前方から近づく影が見えた。
「え?」
いたのは1人の女だった。色鮮やかな髪色にとがった耳、けれど瞳は金ではない冷ややかな目の女。それは、人間でもなく人鬼でもない、人鬼の天敵種、人妖だ。
「呆れた。本当、アンタの告発通りなんだもの。よくもまあ、自分の育った里を裏切れるものよね。作戦準備は完了したわ。もうみんな配置についている」
「え・・・?え、秋躑躅?」
その言葉の意味に、聞いた瞬間金斗羅は理解したが、理解に精神までは追いつけず、戸惑いがちに長く自分の世話係だった彼女を見上げた。無言。秋躑躅は金斗羅に何も答えない。
「本当、人鬼って汚らわしい」
「・・・あたしは、約束を守った。あたしたちを逃がしてくれますよね」
そう、目の前の人妖に向かって秋躑躅は口にしたのだ。
「ええ。約束だもの。守るわ。保護してあげる・・・・・・・・・なんてね」
パン、と乾いた音が上がる。女は銃を振りぬき、秋躑躅を撃った。咄嗟に金斗羅が秋躑躅の手を引いたことによって、急所を外れたそれは彼女の右腕を吹き飛ばした。
「ぇ・・・ぁああっ!」
「自分の里を裏切るような女なんて、誰も信用するわけないじゃない。馬鹿じゃないの?」
言いながら、ガトリングガンとなっていたそれを人妖の女は振り回す。
「!」
金斗羅はばっと、その掃射を避けた。幼い彼にはとても自分より大きな相手を守りながら戦うような余裕と器用さはなく、秋躑躅は女の攻撃を受けて、穴だらけの体になって死んだ。
「あら、子ネズミちゃんが残っちゃった」
そんな声を横で聞きながら、そのときには金斗羅は既に駆けていた。
秋躑躅が死んだ。そのこと自体は目の前で起こったことでもあり、とてつもなくショックではあったが、今はそれ以上に早く里に戻らなきゃという焦りが彼の足を進ませる。
先ほどの女は『作戦準備は完了した』と言っていた。そして、『あんな里、いらない』と言った秋躑躅。そこから考えられること、それは、夜月の里が危ないということ。
(急がなきゃ・・・っ)
今ならまだ間に合うかもしれない。人妖の襲撃、そのことを急いで里に帰って皆に伝えなきゃ。
荷物を失った体が軽い。足が動く。1時間の距離を10分で疾走する。そうして彼は見た。
燃えていく夜月の里。響き渡る阿鼻叫喚。
「父様、母様!」
里に飛び込む。そこに死体が散らばっていた。母の元で育てられていた歳の離れた妹と、それを庇うように崩れ落ちて死んでいる大叔父、内臓を撒き散らして死んでいる従弟に、自分の学習係だった大先生の姿。瓦礫に埋まった半死人が言う。
「金斗・・・羅・・・さま?」
腕もなく、片目もなく、爛れた肌で、誰なのかすらわからないくらいに顔のつぶれた男が呻くように言った。
「な・・・んで・・・・・なんで、あ・・・んたは助けて、くれなかっ・・・」
ごとん、と男の首が落ちた。その先にいたのは武装した人妖の女。
「あら?まだ、いたの」
向けられる銃。
(死んで、しまう・・・?)
このままでは、自分も死んでしまうのか。なんで、ぼくが死ななければいけない。なんで、こんなことって。知らせようとしたのに、どうして、なんで、ぼくは、ぼくが。
「う・・・・・ぁああああああっ」
弾けて、彼は走った。
分け目も降らず、「助けて」と途中で聞こえる声も全て無視して、走って、走って、走り抜けた。
そうして何日も経って、生き残りがいる希望を持ちながら、戻ってきた時には全て終わった後だった。
生き残りなんて他にはいない。彼が直面したのは里が全滅したというそんな無情な現実だけだった。
8歳になった少年は、その日に全て失くした。
これはただ、それだけの話だった。
続く。
というわけで、滅亡の日でした。
実は秋躑躅さんは女性じゃなくて半陰陽だったという話。(そして本人はそのことを本番やろうとするまで知らず、自分は女だと思ってたという話)ちなみに彼女(彼?)はどんな体かって言ったら、胸のふくらみもあれば、玉もついてます。でもち○こらしいち○こはついてません。玉の中に卵巣が入ってます。・・・って大体そんな感じの性別です。うん、本当どっちでもない感じ。一般的なイメージの両性具有とは違うのである。
次回で年代戻るよ。