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人鬼  作者: EKAWARI
第二章 夜月・襲撃編
12/19

10.他部族

どうも、約一ヶ月ぶりの更新です。

こんなに遅れるとは自分でも思わなかったですが、待っていた人がいたら申し訳ない。





 強いて言うなら、俺にとって一番の楽しかった思い出は何かといえば、切欠だった交流試合と、一つ年上の少女と過ごした数日間がそうだったのだろうと思う。

 還らない幸せな思い出は、時に大きな痛みとなって苛むだけだったけれど。





 10.他部族



 始祖たる三人鬼サンジンキの祖の一人であり、最強と名高き鬼人オニヒトの子孫に名を連ねる11の部族の子供達が集まる交流試合、それに最年少で参加するため出発するのを控えた金斗羅カナトラを前に、其の母たる女性、藍蘭アイランは数週間ぶりに出会う息子に向けて、激励の言葉を贈っていた。

「それじゃあ、金斗羅、時鳩羽トキハトバの言うことをよく聞いて、立派に務めを果たしてくるのですよ」

「はい・・・母様かかさま

 里で唯一の黒髪の持ち主である、鬼人の再来と予言された少年金斗羅は、母譲りの優しげな・・・言い方を変えれば気が弱そうと言い換えてもいいだろう、そんな表情で、淡く微笑みながら母の言葉にこくりと頷きそれを受け入れる。

「では、金斗羅様、出発しましょうか」

 今回の旅に従者に選ばれた少年、時鳩羽はそう口にして、母子の別れに合図を告げた。

「うん」

 くるりと、陽気な顔をした少年を見ながら金斗羅も、それに応える。

「金斗羅様、頑張ってきてくださいね!見れないけど、あたし応援していますから!時鳩羽、アンタは金斗羅様をしっかり守んなさいよ。傷つけたら承知しないんだからね」

秋躑躅アキツツジ、オマエな、金斗羅様は既に俺より強いって知ってるか?お前のソレは過保護っていうんだよ。ていうかさ、俺への労わりの言葉はないわけ?」

 金斗羅の世話役である躑躅髪の少女の言葉を前に、其の婚約者である時鳩羽は苦笑しながら、そう漏らす。

「何よ。いってらっしゃいのチューでもしてほしいっていうの?」

「ああ、して貰いたいね」

 珍しくツーンとした顔をしていた時鳩羽は、どうやら自分に冷たい婚約者に拗ねていたらしい。だが、其の言っている内容は、既に痴話喧嘩を呈したノロケになり始めている。

「あの・・・」

 それを見て金斗羅は、戸惑うような声を出す。それにはっと秋躑躅は我を取り戻して、真っ赤な顔でばっと距離をとった。時鳩羽はもうなんでもないような顔になって今度こそ背を向ける。

「あー・・・まあ、んじゃいってくる」

「いってらっしゃい」

 そういって微笑んだ秋躑躅の顔はとても幸せそうで、金斗羅はまさかこれが秋躑躅の最後の心からの笑顔になるなんてことを知らず、ただ見送る彼女達が点のように小さくなるまで時折振り返りながら歩いた。


 話は戻る。

 鬼人の子孫たる血筋11の部族による交流会がはじめて開かれたのは、約70年ほど昔のことだった。

 以来、6年毎にそれは開催され、風習となっている。

 その交流会が行われた切欠は、人鬼の天敵である人妖ヒトアヤの肥大化だ。人間と人鬼の中間種であり、人鬼の力を完全無効化する厄介極まりない彼らが現れたのは約100年ほど前だという。彼らはある日突然生まれた。それ以前のものは皆「人鬼」となったというのに、ある日突然生まれる子供は全て「人妖」となっていた。

 血が薄まりすぎたのだと、時の長老は言った。おそらくは其の通りなのだろうと他の者も思った。

 だから結束を深めるために、最強であった鬼人の子孫筋たる一族らは互いに交流し、腕を競い合っていこうと、其の約定が6年に1度の交流試合なのだ。

 だが、実情は違う。

 これでやっていることは、互いへの理解や結束を強めるなんて行為ではなく、互いへの牽制だ。

 人鬼の一族同士は、人間のように互いに殺しあったりはしない。それは人間に比べ圧倒的に数の少ない人鬼の鉄則だ。でも、だからといって、余所の部族が気にならないかといえばそうではない。

 誰だって自分の部族が最強であってほしいと願う。其の格付けのために行われるのがこの交流試合の正体だ。子供達にさせるのは、大人がやったのでは本当の殺し合いになってしまう、冗談ではすまされないからだ。つまりは代理戦争なのである、この交流試合といわれる異部族交流は。

 誰だって勝ちたいと願う。誰よりも最強でありたいと願う。だからこそ交流試合には里で最も強い子供が選ばれるし、皆勝たなければならないというプレッシャーを抱えながら送られる。

 開催の地は、毎度順繰りで毎回違う部族の里で行われる。正直に言えば、開催地に選ばれた部族が一番この試合には有利だといえた。何故ならば地の利が有り、妨害工作が容易だからだ。そしてそれはどの部族もよくわかっている。

 だからこそ、部族の代表として戦うのは各自の里1人だけでありながら、最大3人まで選手は従者を連れて行けるということになっていた。

 従者の役割は、選手の世話であり、開催地までの道中警護であり、妨害を受けた時の盾だ。年齢は13~16歳くらいまでの比較的若い者が務めることとなっている。そのため、今回は成人の儀を迎えたばかりの時鳩羽が金斗羅の従者役に選ばれた。

 3人まで選べる従者が1人だけなのは、夜月の里が小さく人材を割けないというのもあるが、それ以上に次代の長であり、内気な性格に似合わぬ天賦の才を与えられた金斗羅への期待も込められていた。まわりの期待の高さは生まれつきのものだ。そういう扱いをされる理由とて重々承知してはいるが、根が小心者な金斗羅はため息をつきたくなる。

「・・・・・・」

 開催地までの道中は長い。歩きで向かえば、今回の開催地である火焔族カエンゾクの里までは夜月ヤゲツの里からは約2日はかかる。

 時鳩羽とは小さな頃からの付き合いだ。いや、それを言うなら小さな里である夜月の一族の者は全員顔見知りではあったが、時鳩羽は、完全に彼を追い越した1年ほど前までは金斗羅の戦闘訓練の相手だった。だから、時鳩羽は金斗羅が口下手で内気な性格の持ち主だということも良く知っているし、この旅はそうお気楽に構えてもいられない任務であることもわかっていた。普段はわりとぞんざいになりがちな口を訊く男ではあったが、金斗羅との身分の差もしっかり根付いているため、訓練後のひと時はともかく、任務中にまで私情を差し込んだりはしなかった。だから、いつもは口数が多めな筈のこの少年も口を噤んでいる。

 だけど、それに対して金斗羅が安心出来るかといえばそうでもない。

(・・・なんだか、おちつかない・・・)

 臆病でさえあり、口下手な性分ではあったが、それでも金斗羅は孤独は好きではなく、静かであることも嫌いでさえあった。・・・それは、静かな時のほうが精神感応を起こして嫌な記憶を見やすい金斗羅の体質のせいでもあったが。だから、まごまごと、上手くはない口を動かして、唯一の従者に話しかける。

「あの、あのね」

 言いながら、不安でどうしようもなくなった。鬱陶しがられたらどうしようと、悪い想像ばかりが働く。だけど、その金斗羅の悪い想像を裏切って、いつもの明るい顔をした少年が「はい?なんですか」そうサバサバした声で切り替えしてきたので、金斗羅は我知らずほっとした。

「秋躑躅と、けっこんの約束したんだよね、おめでとう」

 それに、一瞬時鳩羽はぽかん。次いでカァーと耳まで赤くしてそっぽ向き「あいつ、誰にも言うなっていったのに」とぶつくさと言った。

 それに思わず黒髪の子供は苦笑する。今日の別れのやり取りはどこからどう見ても恋人にしか見えなかったというのに、あんなやりとりをしておいて付き合っていることを内緒にしていたつもりなのかと思えば、少しだけおかしくなる。

「まぁ、金斗羅様ならバレてもいいや」

 そういってあっさり立ち直った顔はいつも通りの時鳩羽だ。ついで、小さく鳩羽色の髪の少年は笑う。躑躅色の髪の少女を思い出したのだろう。

 時鳩羽も、今日見た秋躑躅も幸せそうだった。少なくとも、金斗羅にはそう見えた。それを、素直に凄いなとそう思う。秋躑躅の出生、それを知っているからこそ思った。

「ね、火焔族の里が、秋躑躅のもうひとつのコキョウなんだよね?」

 そう、彼女の・・・どの里人とも違う出生を。

「ああ。あいつは一度も行ったことないはずですが、そうですね。あいつは・・・火焔族との混じり物っすから」

 秋躑躅は、夜月族と火焔族のハーフだ。

 通常、人鬼は他部族のものとの間に子供を作ることはない。それは違う部族同士が交わえば、其の子供は全くの別部族・・・どちらの一族のものとも違う異能を持つ種と成り果てるからだ。人鬼の種族の枝分かれはそうして行われていった。そして、後から生まれた新種族のほうが得てして基軸になった部族よりも弱く低い異能しか持ち合わせていないことが多い。だから、人鬼は種を守るために同族同士で交わるし、初代なら、親子か兄妹で交じり合うことによって血を残していく。

 それが、人鬼にとっての当たり前である。

 別部族間で種を儲けるということは、当事者が己の出身部族を捨てるに等しく、子供達の守護の喪失をも意味する。

 故に幼くして親を失った、他部族の混じり物の子らは、どこにも属さぬものとして野垂れ死にの運命を辿ることが多かった。

 秋躑躅も本来はそういう運命にあったはずの子供である。紫味の強いピンクといった髪色は、まさしく青紫の髪が主流の夜月と、赤髪が主流の火焔族の中間色だ。夜月族は満月の夜は髪色が変化する特徴を持ち合わせていたけれど、夜月の里で秋躑躅だけが、あの満月の夜の妙な興奮と変化の影響を受けることは無い。それは即ち彼女が生粋の夜月族ではないことを示している。

 本来は、親が死んだ時点でそのまま死ぬはずだった秋躑躅を生かし、夜月の里に迎えいれたのは、金斗羅の祖父にあたる先代当主であったという。

 本来なら夜月とも火焔とも違う異能をもつ新部族の一代目として生まれたはずの秋躑躅。だが、其の能力に火焔を思わせるものも無ければ夜月を思わせるものもなく、出来ることといえば鉱物を活性化させる能力だけだった。彼女は初代として成り立つにはあまりにも無能で、無力すぎる子供だった。それを哀れに思ったのだろう。だから、当時の長は本来は見殺しにするべき少女を引き取ったのだ。

 だけど、そんな風にして引き取られた秋躑躅を夜月の皆が皆好意的に見ているかといえば、そんなわけがない。だって、本来なら放置、あるいは殺すのが当然の処置である子供なのだ。夜月の里だとて、生活に余裕があるほど豊かかといえば・・・そうはいえない。

 秋躑躅はいつだって里人の陰口の対象だ。今は亡き前長への配慮から表立って何かを言ったりするものは少ないが、それでも秋躑躅に好意を抱いているようなもののほうが少数派と断言出来るだろう。

 彼女が次代の長に決まっている金斗羅の世話役に抜擢されたのは、当代当主である紺青碑コンジョウヒによる先代当主への義理立てと、金斗羅よりも年上でありながら年が近いのが秋躑躅くらいしかいなかったからに過ぎない。

 そんな本来ならば結婚なんて到底望めないだろう立場にいる少女と、結婚の約束をしたのだと口にした鳩羽色の髪をした少年。それはきっと、奇跡のように凄いことなのだろうと金斗羅は幼いながらにそう思った。

『ねえ、金斗羅様。金斗羅様はあたしのこと好きですか?』

 ふと、世話係につけられて2週間ほどが過ぎた頃に言われた彼女の言葉を思い出す。不安そうな顔を、泣きそうな笑顔で誤魔化しながらそう口にした彼女に、「うん」と頷いて答えた時のほっとしたような笑顔。それはきっとあまりの寂しさと不安のあまりに口にした唯一の異物である彼女の泣き言。今日の別れ際に見た笑顔と、当時の彼女の笑顔は殆ど別物といっていいくらい違う。それは、今は満たされているっていうこと。

 金斗羅は、前を先導する年上の少年を見上げながら、ぽつり口にする。

「時鳩羽はすごいね」

「え?いきなり、なんッスか」

 ぱちくりと目を丸くさせる愛嬌のある顔にクスリと笑って、金斗羅は「ねえ、もっとお話して」そう今までで最もリラックスした気分で、初めてキチンと自分の有りの儘の言葉を伝えた。


 それからは、旅の間中、時鳩羽と金斗羅は他愛も無い会話を重ねた。本当にどうでもいい会話ばかり重ねて、でもそういうことがとても心地のいいことだということも知った。

 時折、何かの遺跡跡に触れて、感応共鳴を起こしてしまうこともあったけれど、それでも今までよりもずっと楽にそんな自分を抑えることが出来た。

 そうして二日目の夜。

「アソコが・・・火焔族の里なの?」

 二人は目的地に予定通りたどり着いた。

「はい、そうですよ。まあ、もっとも俺も見んのは初めてなんすけど」

 ガラスで出来た管の様な建物がそこにはあった。全体を見渡せる場所から見たのならゴチャゴチャと入り組んでそうなと評したであろう、それはまるで迷宮の如き建物だ。

 それに思わず金斗羅は圧倒される。夜月の里とは・・・全然違う。部族ごとに違った特色をもつことは知識としては金斗羅とて知ってはいたが、ここまで別物だとは思わなかった。

「とにかく、中に入りましょう」

 言われ、時鳩羽の後ろを歩き、そしてピクリ。金斗羅の目はソレを捕らえた。

 一本の矢だ。古風な昔の知識で見たようなそんな矢が自分達のほうに向けて放たれたことを見ていた。だが、同時にその矢が自分に当たることがないこともソレを見た刹那には理解していたため、金斗羅は動かなかった。ただ、何故矢をいきなり放たれたのか理由がわからなくて、戸惑いながら上を見上げる。

「コラッ」

 矢を射掛けた主は、火焔族の里のすぐ傍にある、暗闇に溶けるような幽然たる風情の鉱木の上に居た。

「こんな堂々とわたくしの里に侵入しようなどといい度胸ですわね。子供だろうと容赦はしません、覚悟なさい!」

「女の・・・子?」

 其処に居たのは、月の明かりの下でもわかるほどに、赤々とした髪の、強気な金色の瞳をした幼い女の子だった。

 それが、彼女との出会い。



  続く




というわけで、「他部族」でした。

意外に、人鬼の種族の説明と秋躑躅にペース裂いちゃったせいで全然予定通りのところまでいかなかったので、予定よりも過去編は長く続きそうです。


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