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人鬼  作者: EKAWARI
出会い
1/19

01.金斗羅

ばんははろ、EKAWARIです。

この話は、僕が中三の頃ノートに描いていた漫画のリベンジ的な内容になっており、はっきりいって目新しい設定とかはとくにない気がしますが、それでも楽しんでいただけたら幸いです。

尚、注意事項としては、主人公陣は善か悪でいったら悪サイドに属していますので、ヒーローズムやヒロインズムはあまりお求めにならないでください。

また、にじファンのほうでも連載を抱えていますので、更新速度もあまり速くはありませんが、ご了承ください。




 ―――――人鬼ジンキ


 其れは、金の瞳に尖った耳をもつ、遥か遠くに残された伝承、テングをイメージして生み出された人造亜種。

 生みの親(かがくしゃ)達を食い殺し、地上を生きる人食い亜種達の総称である。



挿絵(By みてみん)





 とおくで、こえがきこえる。

「・・・手間どらせやがって」

 ごぽり、ごぽりとあわがたちあがる。

 めはみえない。からだはうごかない。だけど、わたしは《ぼくは》みている。

「化け物め」

 あかい、あかいちにまみれて、よにんのおとこたちが、たがいにたがいのかたをかしあいながら、ぞうおとぶべつをこめて、なにか《わたし》をみている《かわいいこと》。

 あかいかみのひとに、みどりのかみのひとに、みずいろのかみに、はいいろのかみのひと。ああ、あかいかみのひととはいいろのかみのひとはもう、しにかけだ。にたりと、うごかないはずのくちもとがわらいをかたどった《たのしいの?》。

 やがて、ひとりさり、ふたりさり、みんなばらばらのほうへとあるいていなくなった。

 ああ、そうだ、わたしは《ぼくは》ふういん、されたんだった。

 わらってしまう。これで、ほんとうにわたしを《ぼくを》ふうじれるとおもったんだろうか。

 ちからをそそぐ。あたえる。じぶんを、ぼくをわたしはつくりあげる。

 もとどおりにはならない。ちいさな、ちいさなぼく。

 やがて、それはめをあけて、わたしをみあげた。

 ちいさなくちがひらく。

「・・・」

 はじめてひらいたのどは、ことばがうまくでなくて、なんどもぼくはれんしゅうをした。

「・・・・・・つけ・・・なきゃ」

 もうろうと、ねつをうかされたままにぼくはぼくのもくてきをくちにした。

「・・・鬼人オニヒトの・・・をみつけなきゃ」

 ひつようなちしきはちゃんとわたった。もう、みえなくなるわたし。でも、ぼくはそこにいる。

金斗羅カナトラを探さなきゃ」

 ごぽりごぽりと、うごかないはずのくちでわたしはわらった。






  01.金斗羅カナトラ



 西暦2500年、地球は滅びの危機に瀕した。戦争と核兵器のぶつかり合い、それに巨大隕石の落下による死灰現象。地上は既に人が住める世界ではなく、人々は我を競って地下シェルターへとその生活の場を移していった。

 人類の大激減。かつて、60億を超える種の繁栄を謳歌した人類はその僅か20分の1の3億人にまでその数を落とした。

 幸い、災害でも奪いきれない技術力という人々の武器は、地下世界で栄えるためにその真価を発揮する。人工太陽に、擬似的な母なる海の代用品。畑に飼育場。シェルターごとに街は栄え、人以外の生物に関しても、数を調整しながら共存させることに成功した。

 過去の教訓は遥か遠く。

 人々が地下へ生活の場を移してから200年の月日が経ったころには、3億人まで数を減らしていた人類は15億人にまで達そうとしていた。

 かつての大規模争いを知らぬ人々の胸のうちにも欲が沸く。

 人々は自分たちのシェルターだけでは物足りなくなった。

 地下で細分化した街はそれひとつが小さな国家である。

 そうして、西暦2700年、かつてニホンと呼ばれていた土地で、ある科学者たちの研究が極秘裏に進められた。

 美しく、人を超える力の人と似たものを造る。

 それは、大昔の滅んだ伝承から名をとって、TENGUプロジェクトと名づけられた。

 人知を超えた力。科学者たちが彼らに求めたのは戦争の兵器としての力だ。自分たちの国を大きくしたい。あれもほしい、これもほしい。それは本能のように人々の欲望としてあった。

 でも、それでも容姿はあくまで人間を模して、美しい姿がいい。

 兵器は戦争が終われば必要なくなる、そのリサイクルのために美しい容姿を科学者は求める。

 人にたとえ似ていても、人でないのなら、薄暗い欲望をいくらぶつけてもかまわないだろうと、性奴隷としての機能を求めて。

 そうして、生み出された彼ら、彼女らは、科学者の願いどおりに美しく、人知を超えた力を秘めていて・・・そして、科学者の望みとは裏腹に、彼らは兵器にも奴隷にもなり得なかった。

 彼らは人食い、肉食の獣。肉類しか体内分解出来ず、その捕食の対象には人間も含まれていたのだ。

 生みの親(かがくしゃ)たちを食い殺し、彼らは地下を去る。

 誰ももう住まぬ地上を住処に、人としての知能を駆使して、人ならざる強靭な肉体を利用して、地上を花に彼らは種の繁栄を謳歌する。食料を狩る時のみ地下へと降りながら、群れ、増え、まさしく彼らは地上の王者であった。その彼らのことを、祖である三体のうち、最も強かったという『鬼人オニヒト』より名を取り、金の瞳に尖った耳の、人に良く似た姿の人ならざる彼らは、いつしか『人鬼ジンキ』と、人々に畏怖と憎悪を込めて呼ばれるようになっていった。

 そうして、西暦3000年―――――。


「いたぞ、金斗羅カナトラだ!」

 ハァハァと、息を乱しながら、その青年はこの度忍び込んだ人間の街(シェルター)を駆けていく。そのスピードは人の比ではない。

「本当に金斗羅か?」

「黒髪の人鬼なんだ、間違いがねえ」

 そんな人々の声が聞こえているのか、聞こえていないのかもわからぬ有様で、ふらふらの長身の青年は路地を駆け抜ける。

 平素ならば・・・人に追いつかれるようなことはありはしない。だが、ぐるると腹を押さえて男は唸る。

 見れば、自衛団の奴らが後ろから追ってきている。諦めてくれないものか、と思いつつも、ちっといらだたしげに、その黒髪の人鬼、金斗羅カナトラは舌打ちをした。

「俺は、目立ちすぎる」

 言葉通り、黒髪の人鬼、金斗羅といえば知らぬ者がいないほどの有名人だ。

 人鬼にしては珍しい漆黒の癖のある長い髪に、身長は180cmを越そうかという長身。常盤色の衣に茶色い七分丈のズボンを身に着けている、とまで情報は人々に行き渡っている。

 何より、金斗羅は一人(・・)だ。彼がかつて属していた一族『夜月族ヤゲツゾク』は既に滅び、通常群で動くはずの人鬼だというのに、金斗羅はいつも一人で人里へと現れた。

 人間は人鬼には敵わないが、それでも100年ほど前から人鬼の天敵はいる。数は少ないけれど精鋭たる彼らの牙がまっているとわかっていて、単独行動を起こす人鬼など、よほどの蛮勇の持ち主か知恵足らずと見られてもおかしくはない。

 しかし、金斗羅は、一族が滅び、一人で食料調達の度に人間ちか世界に降り立つようになってから、10年、8歳の頃より一人で生き延びてきた。

 人間より強い異能をもつとはいえ、その代償として人鬼の寿命は40年程と短い。とはいえ、人鬼が成人するのは15歳といわれている。つまり、8歳というのは、人鬼からしても、か弱い庇護されるべき子供なのだ。けれど、金斗羅は一人で18歳になる現在まで生き延びてきた。そこに金斗羅の潜在能力の高さが垣間見れよう。

 が、今回ばかりはヤバイかもしれない、と金斗羅は駆けながら思う。

 それは、病気とかではなく、また怪我をおったとかでもなく、もっと単純な理由でそう思った。

 そう、一言でいうのならば、彼は文字通り飢えていた。


 人鬼は、人間よりも腹持ちがよく、食事を口にするのは、3日に1度でも問題がないように出来ている。だが、金斗羅はもう20日近くマトモな食事を口にしていなかった。

 今日も、美味しそうな子供がいたのに、捕食する前に見つかって逃げるはめになった。

 空きっ腹で逃げるのはつらい。体はふらふらするし、そういえば水だってもう5日ほど口にしていない。応戦したら食料も手に入るかもしれないけど、そんなことをしたら蟻みたいに沸いて出てくるやつらの相手全部をしなきゃあいけなくなる。そういう面倒は、こんな時でも嫌だった。そも、食べるためでもないのに殺すのは、あまり良い気がしない。

 人鬼でありながら、そも金斗羅はあまり争いごとが好きな性質ではなく、勝てる勝てないとかは関係なく、戦う事自体忌避しがちなきらいがあった。

 とはいえ、そんな性質のために、人間には最も与しやすい人鬼と見られ、目立ちいつも一人でいることも知られている故に、真っ先に警戒され、狩りの難易度を大幅に引き上げ、自分で自分の首を絞めているようなものではあったのだが。

「クソッタレ」

 悪態をつけて、ただ走り抜けた。『逃げるが勝ち』、金斗羅の座右の銘だ。10年前のあの日から、この黒髪の人鬼にとって、生きることとは逃げることだった。


「撒いた・・・か?」

 ほっと、息をついて後ろを見やる。シェルターから地上へと出る途中の街道、もう人々の自分を追う声は聞こえてこない。途端、これまでの全力疾走と空腹感に、クラクラと頭が酸欠のように揺れ、彼はずるりとその場に座り込んだ。

「もう・・・動けねえ・・・」

 荒い息を吐きながら、金斗羅は自嘲気味に口の端を持ち上げる。

 足掻く様に生きてきた10年だった。だけど、それもここで終わりか。こんな終わりが俺の死に様か、と。自分で言うのもなんだが、非常に見っとも無い死に方だな、と思った。

 ふと、こんな時だからか、もうずっと長いこと思い出すこともなかった、11年前の交流会で出会った少女のことをなんとなく思い出した。火焔族カエンゾクの跡取り娘であった彼女は、多分こんな俺の姿を見たら「無様ですわ。貴方は人鬼ですのよ、夜月の金斗羅です!なんですか、その体たらくは」なんて怒鳴るんだろうか。

 く、と想像して楽しくなった。死に掛けているくせに、随分と俺は自分で思っていた以上に楽観的だったらしい。

 目を瞑り、大気に身を任せる。そんな俺の耳に、鈴のなるような少女の声が届いた。

「動けないの?」


 目を開く。その少女は前方10メートルほどの場所にいた。

 茶色い栗色のさらさらとした長い髪に、美しい造形の顔立ち。その瞳は大きく青い、伝承にきく海のような色をしている。薄紅色の衣に黄色い上着で、ミニ丈のそれを青いリボンで縛っていて、手甲と靴も服と同じく薄紅色で、身長は140cmがあるかどうか。年齢は12歳か13歳くらいであろうか。

(人間の・・・子供ガキ?)

 人鬼の五感は人間よりも発達している。なのに、まるで近づいていることに気づかなかった。それほどに、俺は今能力が低下しているということなんだろうか。と、男は思う。

「大丈夫?」

 言葉とは裏腹に心配そうな素振りはかけらも見せず、少女は興味深そうな顔を浮かべながら、ひょこひょこと金斗羅に近づいてくる。

「・・・おい」

 人間の・・・それもこんな子供がする行動として、戸惑いを浮かべて、つい仏心から金斗羅は言った。

「俺は人鬼だ」

 人肉をはじめ、肉類のみを口にする、地上最強の人造亜種。そこには捕食の対象にオマエも勿論含まれているのだぞ、とこんな飢え死に仕掛けの状態でも、警告の意を込めてそんな言葉を吐くあたりが、なんだかんだといってこの男のお人よしな所以ともいえた。

 何がおかしいのか、その言葉をきいて少女はきょとんと、一瞬大きな青い瞳を見開くと、ついでくすくすくすくすと心底おかしそうな笑い声を立てる。

「そんなの、知ってるよぉ」

「ああ、そうかい」

 ならば、遠慮は不要と、爪をばきばきと立てて。

「なら、食われても文句はいわねえなッ」

 そのまま駆け出して・・・少女が口元に笑う姿が見えた・・・引き裂こうとした。

 瞬間バチリと、大気が拒絶するように、金斗羅は弾き飛ばされていた。

「いきなり、ひどいなぁ」

 くすくすくすと、笑う少女。その豊かな髪が風になびいて、ふぁさと、後ろに広がり、何が起きたのかと暫し固まっていた金斗羅に、その理由を露呈していた。

「お前・・・人妖ヒトアヤか!?」

 少女の耳は人間のそれではなく、人鬼のような尖った耳をしていた。しかし、瞳の色は金色ではない。そして人鬼の力を弾く能力、そこから答えはもう出たようなものだった。

 人妖ヒトアヤ、人間と人鬼の間に生まれる異能種。人鬼の天敵である。

 人妖は、基本的に人鬼のような異能や超人的な身体能力をもっていることは殆どなく、そういう面に関しては人間並みだし、摂取する食事も人間とそう変わらない。しかし、その代わり、自分自身で異能を操ることは出来ずとも、人鬼の力を問答無用で中和、無効化する能力をもって生まれるといわれている。つまり、彼ら彼女らに対して人鬼は攻撃することが出来ないのだ。

 彼らと相対するのならば、せいぜい、群れと集団の強みをいかして、周囲を攻撃して突破口を開くしかない。だが、それは協力する仲間がいたらの話で。人鬼と人妖が一対一で出会えば、たとえどんな強力な人鬼であろうと、敵うことはないと言われている。故にこそ、天敵。

 人が育て上げ、人鬼に対抗するために用意したジョーカー、それが人妖なのだ。

(・・・俺が、狙いか?)

 どうする。相手が人妖ではどうしようもない。と、金斗羅は焦る思考で考える。

 少女はそんな金斗羅の焦燥などしったことではないといわんばかりに・・・いや、寧ろそんな風に焦る金斗羅の姿を見ることも楽しくて仕方がないかのように、微笑みながら、告げた。

「ボクの名前は青雷ショウライだよ。ショウって呼んで」

 にこにこと笑って告げる少女の思考が理解できなくて、金斗羅は固まる。

「あのね、ボクね、金斗羅にお願いがあってきたんだ」

「俺を・・・知っているのか」

 つい、緊張をごまかすようにそんなどうでもいいことを聞いてしまった。

 少女、青雷というらしい・・・は、ますます楽しそうに「そんなの知ってるよぉ」と笑ってはしゃいだ。

「世にも珍しい黒髪の人鬼で~、緑とピンクと茶色なんてセンスの悪い、色彩感覚の狂ったへんてこりんな服をきたド派手な人鬼だって有名だもん」

 そんなときでもないだろうに、センスの悪いと、へんてこという言葉につい、金斗羅はへこんだ。

「おーい、生きてる~?」

 暢気に少女は、ぺちぺちと、金斗羅の肩を叩いた。

「それでね、ボク、さっきも言ったけど、金斗羅にお願いがあるんだけど」

「人妖が、俺に、何を願うってんだ」

 苛立たしげに吐き出す。そもそも、俺は死にかけだ。ほっといたら数日と経たず息絶えるだろう。大体人妖ってのは、基本的に人間の味方をする生き物だ。それが人鬼を頼るなど、胡散臭いにも程がある。

「あのね、ボクの本体って封印されているんだ」

「は・・・?」

 思わず目を見開く。何を言ってんだ、こいつ。

「今のボクは分身体なんだ。だから、金斗羅にボクの封印を解いてほしいんだ」

 青雷はこちらの戸惑いなど知ったことではないかのようにマイペースに言葉を続ける。

「まて、意味がわからない。そもそも何でそんなことを俺に言う?」

「金斗羅じゃないと駄目だからだよ」

 それまでになく、真剣な青い目で、少女は黒髪の青年を見据えた。・・・次の瞬間には、また元の飄々とした笑顔に戻っていたが。

「勿論、ただとはいわないよ。金斗、死にそうなんでしょ?」

 にこっと、見た目ならばとても愛くるしく、でもどことなく不吉な笑顔を湛えて、少女は笑って言う。

「・・・・・・」

 それにYESと答えるのもNOと答えるのも不愉快で、つい口を閉ざして成り行きを見守った。

 少女は、岩壁から、どさりと、二つの荷物を取り出して、金斗羅の前においた。

 ひとつは、一本の豪奢なダガーナイフだった。黄金細工の美しいダガーで、取っ手の先端には大きな黄水晶、他にも青い宝石がところどころに散りばめられており、その優美な姿から観賞用を思わせる。職人技の代物だ。おそらくは、高値で売れると思われる。

 そしてもうひとつは、干し肉の燻製。見た瞬間、ごくりと思わず唾を飲み込んだ。

「ボクの封印を解いてくれるならば、あげるよ」

 悪魔の囁きのように、少女は言った。

 確かにほしい。どちらも喉から手が出るようにほしい。

 だが・・・面倒は御免だ。

 そこで、金斗羅が出した結論。

(逃げるが勝ちってな!!)

 バッ、とその二つを抱えて、金斗羅は死にかけとは思えぬ有様で駆けた。

 大体、何故人妖のお願いなど聞かねばならない。そも、いくら人妖が人鬼の天敵とはいえ、基本的に人妖の身体能力とは、人間と大差がないはずである。で、あるからこそ、金斗羅はこのまま自分が逃げ切れるものだと、そう確信していた。少女がその姿を見て、口元に笑みを浮かべていることすら気づかぬまま。強いて敗因を挙げるのならば、そう、彼は冷静に見えても結局は、飢えのあまり冷静な思考能力をなくしていたということ。

 青雷から離れた距離が、100メートルに達しようかという、その時だった。

「・・・ッギ、ギャァアアアア・・・!?」

 とんでもないボルト圧力の雷撃が彼の身を襲ったのは。これだけ弱っていた体で、それでも死ななかったあたり、彼も大概丈夫だと言えた。

 くすくす、と笑いながら少女は言う。

「あ、ごめーん。言い忘れていたけど、その剣、ボクから100メートル以上離れると放電するように出来ているんだー」

 ものすごく楽しそうに、歌うような声で、そんな新事実を告げてくる青雷。

「なっ、なっ」

 ぱくぱくと、口を開いたり閉じたりを繰り返しながら、金斗羅は絶句して少女を見上げる。

「ついでに、その剣握った瞬間から、所有権が金斗に移ったからさー、捨てようとしてももう捨てられないよ?」

 え、これ呪いの剣?なんてことを汗をたらたら流しながら考える金斗羅に、無情に微笑み、青雷はトドメの一言を放った。

「ね、金斗。ボクのお願い聞いてくれるよね」

 にっこり。これ以上はないってくらいのいい笑顔で、美しい造形の少女は勝利の宣言をあげた。

「もう・・・勝手にしろ」

 この時の言動で後に苦しめられることも知らず、青年はがっくりとうなだれてそれを受け入れた。


 こうして、黒髪の人鬼、金斗羅カナトラと、謎の人妖の少女、青雷ショウライは此処に出会い、旅立った。

 そう、この日、この瞬間に金斗羅は、青雷の糸につかまっていたのだと、もう逃れることの出来ない宿命に絡めとられていたのだと、今は知らず、青年と少女を月だけが照らし出していた。




 続く


 

というわけで、第一話でした。

次回は簡単にプロフィールを挟みたいと思っています。

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