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伝説


 


 ……今や、都市はおろか、村にさえ、勇者とたたえられた者たちを象った銅像、石像が建てられている。



 全部で五名で構成される、魔王討伐パーティーの一行。

 盾を持ったドワーフの少女。

 槍を携えた人間の軽戦士の男。

 魔弾銃を構えた年老いた人間神官のジジィ。

 エルフの弓使いの娘。

 幼い見た目の氷結の神霊。


 かつて魔王を討伐するために世界各地で、選出された選りすぐりの英傑だ。


 その者達が、勇ましいポーズのまま、街の中央に鎮座している。


 ここはエルフの住まう森から最寄りの街。


 そんな銅像の前に立つ金髪の少女は、感嘆したように呟くのだ。

 台座に刻まれた、その名を指でなぞりながら――。


「……プリムティス……アルフヴェイン……? ドワーフの……少女……!? やっぱり、凄かったんだ、あの戦士。世界を救った英雄の一人だったなんて……」

 


 目をつむれば、少女の脳裏にはいつでも蘇る。

 さっそうと赤いマントをひるがえし、駆け付ける後姿が。

 

 ようやくエルフの少女は、憧れた存在の名と、その身分を知った。

 10年の時を経て。



 これだけ有名な姿と形と名前だ。

 あちこちで聞きこめば、きっといつか居場所を突き止められるはずだ。


 そう考えるエルフ――シエナは、すぐさま行動を開始した。

 さしあたって、今居る村で聞きこむことにする。

 

 


 

 まず村の宿の前で掃除をしている村人――初老の男性に話しかける。

「すみません、村の銅像のドワーフの戦士について、教えてほしいんだけど……」

 

 すると。

「おや、あんた……エルフか?」

「ええ、何か知っていないかな? 居場所……とか」

 

 男性は、値踏みするようにシエナを凝視し。


「――勇者様に何の御用か知らんが、その前にその格好をどうにかしたほうがええ」


 そう言われて、シエナが自分の姿を鑑みる。

 大きな木の葉を何枚も重ねて作った衣服に、枝のベルト、押し花と羽根の髪飾り。

 木とツルで作られた編み上げの靴。

 腰には短弓を入れた弓鞄、短剣、背には矢筒。


 エルフの戦士としては何も不思議ではない格好だ。


「何かおかしいかな?」

 

 村人は、道を歩く人を示しつつ。

「エルフにしちゃ普通かもしれんが、今の時代の人たちゃ、ああいう恰好するのが普通だ。あんたの格好じゃ、目立つし……なにより……寒くねぇか? あと、エルフって穿かねえんだろ……下」

 

 その言葉尻を、男性は明後日を見ていった。

 

 確かに。

 スカートとして考えれば、シエナの丈は超ミニだし。

 下着を穿くような習慣はエルフに無い。少なくとも、シエナの居た村では。

 無論、その分あちこちの肌の露出は多めだ。

 

「それとも、子供だから気にしてねぇんか?」


 村人の失礼な追撃に。


「違うよ、もう子供じゃない。たしかに、私はまだ若い方だけどね」 


 でも、確かに、宿の前闊歩する人々を観察するに、シエナの格好とは別次元に違っていた。

 もしかしたら、そう言った格好の方が、勇者様に失礼が無いのかもしれない。


「……これで、調達できそう?」

 シエナは、じゃらりと音を立てる布袋を開いて見せた。

 シエナは、村を出る時に村中の村民がかき集めてくれた通貨を餞別としていただいている。

 

「銀貨1枚に、銅貨8枚、鋼貨50枚か。まぁ、それなりのもんは調達できるだろうけど……。そうさな、今一筆紹介状を書いてやる。それを持って、村の質屋と服屋に行きな。良いか、質屋に先に行くんだぞ?」


「あ、ああ。ありがとう。でも良いの? 初めて会った私に、そんな……」


 なぜこうも親切なのかと、疑問に思うシエナに。

 初老の男性はニヤリとして言う。


「昔、この村に立ち寄ったとあるドワーフに言われたのさ。――優しさってのは、巡るもんだって。良い事をすりゃ、いずれ良いことで帰ってくる。それに、自分への誇りにもなるってな」


「……そうなんだ。とてもいいドワーフだね」

「だろ?」



 そうして、シエナは質屋で古着を安く買い、足りない部分を服屋で購入した。

 しかも紹介状のお陰で、かなりの格安で揃えることが出来た。

 結果、シエナは強化革(バンディッド)の軽装を基調とした真っ当な旅人然とした恰好と相成った。

 

 それをみた宿屋の男性は、マシになったと笑い。


 時に――


「ちゃんと、『下』も買ったんだろうな?」

 えっへっへ。

「――内緒だよ?」

 ぴらり。


「みせんでいいわ! ばかたれ!」

 

 そして。

 男性は改めて、勇者プリムティスの情報を少し教えてくれたのだった。


「しかし、エルフなのに聞きたいのはドワーフの勇者様の方なんだな。エルフの弓使い様の方はええのか?」


「うん。私を助けてくれたのはドワーフだったからね。それに――」


 もっとも、同じ勇者パーティーにいたエルフの弓使いについては、シエナの村ではほとんど話題になっていなかった。 エルフの里では弓の名手は珍しくなく、外の世界の戦争に関心を持つ者も少ない。 森を離れて人間と行動するエルフは、むしろ“変わり者”として扱われることさえあるのだから。

 ましてや世界を救ったと英雄視されるなんてことになれば、普通のエルフなら恐縮して恥ずかしがるだろう。

「――たぶん、本人もこんな風に扱われて戸惑っているかも」

「そんなもんか?」

「……普通のエルフなら、ね」


 そうして、シエナは男と別れを告げた。


 村を出たシエナは、さらに様々な地域で聞き込みを続けていった。

 

 さすが、世界を救った英雄というだけあって、プリムティスの名は有名だった。


 立ち寄る村、街、張り紙、語り部、吟遊詩人。

 その名はどこに行っても耳にした。


 そして、どこへ行っても、人を助けていた。

 皆、感謝の言葉を口にしていた。


 ――これがきっと、本当の守人(もりびと)の姿なのかもしれない。


 シエナの旅は、森林地帯を抜け。

 平原を抜け。

 人が多く住まう地域にさしかかる。

 


 それまでに集めた情報では。

 プリムティスという英雄は、当時冒険者ギルドの前進である勇士選出機関で、魔物討伐の仕事をしていたそうだ。

 そうして武勲を積み上げ、鉄、銅、銀、金――と階級を上げていった。


 今では、金剛石(ダイヤモンド)という、宝石の名を冠する等級に座しているらしい。



 やがてシエナは、プリムティスが良く出入りしている『大都市グラン=ロザリア』の冒険者ギルドを突き止めた。

 

 その大きな建物の前に立つエルフの耳にも。

 犇めく人々の声が溢れている。


 煉瓦や木造建築の古風で伝統的な建物は、立派な宿屋のようで。


「やっぱり、人間(ヒュム)の建てる家って、すごく精巧で芸術的だよね」


 そんな独り言の合間に。

 どんどんと、冒険者たちは建物の中に吸い込まれていく。


 エルフは覚悟を決めて、その中へと入っていった。 

 

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