生存者
――洞窟の最奥には壁に撃ち砕かれたような大穴が開いており。
そこから、昔に魔王軍が使ってた砦の地下牢に入ることができるようになっていた。
「……もともとこの洞窟は、砦の秘密の脱出路のつもりだったのかしら」
そんな独白と共に。
踏み入った牢屋内は、異臭が立ち込めていた。
しかし、プリムティスには馴染みの匂いだ。
いつも、放棄された死体や、白骨化した骸がある場所はこんな匂いがする。
そして案の定、牢屋は、朽ちた骸骨があるばかりだった。
食われたのか、弄ばれたのか。
そこそこに広い地下牢は、死人ばかりのようだ。
アンデッドの気配は感じないが、それでもプリムティスは慎重に探索する。
とはいえ、いかんせん甲冑なので、隠密行動ができるというわけではない。
カシャリカシャリと甲冑の金属音が、石壁の空間に反響し、プリムティスの存在を主張してしまう。
その音に、かけつけた妖魔の看守を――。
「まだ居たのね」
――天恵で撃ち砕いた時。
プリムティスの尖ったドワーフ耳に、短い悲鳴のようなものが聞こえた。
背中から、盾と槌を手に取り、その方へ走る。
いくつか連なる鉄格子。
ガシャガシャ、カンカン。
板金と、鉄靴が騒音をかきたてることも厭わず
その牢獄の一つ一つを、駆け抜けながら確認する。
どれもこれも転がっているのは、朽ちた、あるいは目新しい死体や骸骨ばかり。
五体満足なものもいれば、バラバラになったモノも居て。
遊ばれたのか、食われたのか……。
しかしそれには共通点があることを、プリムティスはすぐに悟った。
そして、いちばん最後の檻に着くころ合いに。
格子から、屈強な亜人が姿を見せた。
――あれは、食人鬼だ……。
おそらく、小妖魔に知恵を与え、率いているボスであり、自分の食糧にする分をこの檻まで運んでいるに違いない。
――しかも、すべて若い女性ばかり。
盾をかざす。
「なにやつだ……!」
妖魔語が聞こえてくる。
同時に。
飛び込んでくる小柄に、間に合わせで振るわれる、食人鬼の丸太のような拳――。
それを、大盾でいなし。
「……問答無用――。死ね!」
守護神の力を宿し。
戦気を宿し。
プリムティスは、輝きに満ちた戦槌の先端で突き穿つ。
「――神技・無想破天突き!!」
螺旋状に渦巻く閃光と奔流に、オーガの腹部が粉砕され、背後の石壁ごと、かき回され、臓物すら戦気に滅されてくずくずになって崩れ落ちて行った。
がらがらと、大穴が開いて崩れた瓦礫の一部が崩落する。
足元に散らばる肉片を蹴り飛ばし。
「……あ~あ、最悪だわ」
場所も、惨状も、気分も何もかも。
最低の気分だと愚痴りつつも、ドワーフの少女はマントをひるがえし、最後の牢屋の内部を見た。
そこには、今にも服をひん剥かれそうになって、ガタガタと震えている少女がいて。
その傍らには、玩具にされて眼の光を失った伽藍洞のような女性が、鎖につながれていた。
でもまだ二人とも生きている。
「良かった……、間に合ったようね」
これで、5人。
村で聞いた冒険者は全員発見できた。
ほとんど生存を諦めていたプリムティスは、安堵する。
女性の鎖を叩き壊し。
自分のマントを解いて、一糸まとわぬままの女性に羽織らせる。
ただ、唯一首から提げられているプレートを見るに、女性は鉄等級の神官。
そして、隣でまだ震えている典型的な魔術師服の小柄な少女は――。
プリムティスは、思わず少女に歩み寄る。
なぜなら、その首に下げられているプレートの材質は『木製』だったからだ。
「あんた……」
何故、正規の冒険者ではない者が。
そう思い、問いただしたい衝動に駆られるが。
当の少女の心身はそれどころではなさそうだ。
プリムティスは、少女の前に跪く。
今はくすんでしまっているが、銀色の髪の少女の前に。
恐怖のあまり焦点のぼやけている顔を、指でそっと正面に向けさせる。
それは、女性神官にも向けられる言葉だ。
「――大丈夫。私は、食人鬼じゃない、助けに来たのよ。しっかりして」
しかし、ショックが大きかったのだろう。
すぐには無理そうだった。
致し方が無い。
「守護神アティスに願う……かの者達を癒したまえ――『標的数増大・治癒の天恵』」
念のために、治癒を施し。
プリムティスは立ち上がる。
どちらにせよ、ヒト二人を運ばねばならない。
運搬に使える魔術は使えないので、あの落ちたつり橋の渓谷を二人運ぶのは難しい。
一度、引き返し、倒したゴブリンから金目のもの――シャーマンが使っていた属性結晶の嵌められた杖が一番高価だろう――を頂いて、この砦の部分から外に出られないか探索しに行こう。ついでに、荷車などを見つけられたら言うことは無い。
ドワーフはそう考えたが。
離れようとする所を、背中から魔術師に抱きとめられる。
言葉はない。
けれど、行くなという事か。
「――……あんた達を運ぶ手立てを探しに行くだけよ。すぐに戻るわ」
ダメだった。
さらに強くホールドされて動けそうにない。
溜息。そして諦めた。
「もう。……しょうがないな。……脱出用アイテム使うしかないわね」
そうして、3人は、脱出用魔術を封じ込めたスクロールを使用して、その場を後にしたのだった。
ただし、そのスクロールは金等級以上の冒険者からしてもとても高価な代物だ。
最寄りの村に帰還した後で。
プリムティスは一人ごちていた。
――やっぱり、杖、拾っとくんだったわ、5本もあれば良いお金になったのにな、と。




