ハルハ
大陸でも名高い大都市『グラン=ロザリア』の冒険者ギルドは、今日も盛況だった。
大きな建物の外にまで、犇めく人々の声が漏れるほどに。
そんな冒険者ギルドは、街の中央地区にあり。
それなりにお洒落な見た目をしている。
煉瓦や木造建築の古風で伝統的な建物は、少し豪華な宿のような出で立ちで。
2階から上は、事務所や宿泊施設。
1階は、冒険者の集うメインのフロアとなっている。
2階へ続く中央階段を境目に。
片側は飲食店でありその雰囲気は、ちょっとむさ苦しいカフェ。あるいは、いわくありげな連中の集う酒場。
そして残りのもう片側は、冒険者の仕事を斡旋する仲介所だ。
その依頼の受付カウンターでは、張り出された依頼を提出する冒険者と、それをさばく受付嬢が忙しくしており、張り紙の掲示板の前では、今日冒険に行く即席の仲間を探しているパーティー等がたくさんいる。
その建物の入り口に立つ、漆黒の装い。
見るからに『魔法使いだ』と言わんばかりの格好をしているのは、人間族の少女、ハルハ・リンクスだ。
黒い魔術帽子に、黒い魔術ローブ、そして杖。
初心者魔術師が、やってしまう恰好ランキング1位の格好は、何かと目立ち。
「邪魔よ!」「入り口に突っ立ってんじゃねえ!」「どきな、ヒヨッコ!」
出入りする連中に、がつんがつん当たられつつも。
本人は、活気ある様子に見惚れていた。
「ここが、冒険者の集まる場所……」
ハルハは、板張りの床をきしませ、歩き出す。
人混みを縫って。
やがて、依頼書を張り出してある掲示板に目を止める。
150台の身長で、一生懸命背伸びをして、ハルハは大男や大女達の隙間から内容を覗き見た。
依頼書が貼られている掲示板は、3箇所に区切られていて、鉄等級、銅等級、銀等級で分けられていた。
「いちばん下はアイアンか……。ゴールド以上の依頼はどうするんだろ?」
冒険者は依頼の受諾の是非は自己責任というのが鉄則だ。
しかし、一応の対策として、力量を超えた依頼を誤って受けないよう、6つの等級、15段階でランク分けされている。
つまり。
鉄等級=ランクG、F、Eの冒険者
銅等級=ランクD、C、Bの冒険者
銀等級=ランクAの冒険者
金等級=国家指定5級、4級、3級、2級、1級
そして、宝石の名を冠す、それ以上の英雄。
冒険者の身分を示すプレートは、それにより材質、刻まれる記号が決まり、印字される名前と一緒に様々な所で証明書として機能することになる。
だが、ハルハはそのどれでも無かった。
ハルハの懐に隠された等級を示すプレートの材質は、『木製』。
『木等級:△』という、依頼を受ける資格のない、それどころかギルドへの自由な出入りさえ許されていない、見習いの身分だ。
けど。
冒険者ギルドに居るというならば、周囲からは少なくとも、ランクGの鉄等級であると思われるのは当然のことで。
突然。
ぽん、とハルハの肩に誰かの手が載せられる。
背後からの男の声が、言う。
「よぉ、アンタ。その成りってことは、駆け出しの魔法使いってことだろ? どうだ、討伐依頼一緒に受けてみないか?」
「えっ?」
振り返ると若い冒険者の剣士が居て、その後ろには同年代くらいの同じパーティと思わしき人達が3人立っていた。
弓使い、斥候、神官。
男2人、女1人。
首から下げているプレートは皆鉄等級だ。
そして振り返ったハルハをみて、剣士と冒険者達は、同じセリフで驚く。
「若かっ!?」
「エルフ……? いや、耳は尖ってねぇよな」
「普通、魔法使いってもっと歳食ってるよね……?」
そんなことを口々に言う中。
剣士がハルハに問う。
「アンタ、名前は? 歳は? 人間か? どんな魔法が使えるんだ、アンタ?」
「ハルハ・リンクス。15歳。人間です。魔法は、無属性魔術。あと、状態中立化と、解呪ですね」
「無属性魔術!? 15歳だと!? すげぇじゃねえか。おい、逸材見つけちまったぜ?」
「おぉー!」
バシバシ、とハルハの肩を叩きながら。
剣士が、他の仲間とともに歓声をあげる。
そんななかハルハは、ローブ越しに自分の木で出来たプレートを握りしめていた。
ランク的には見習いだ。依頼を受ける資格など無い。
けど……、ハルハは自分の魔術に自信があった。
「よし実力は十分だな。いこうぜ。受付を済ませたら、1刻後に西門に集合だ。まずは、依頼主に詳しい話を聞きに行かねえとな」
だから。
「解りました」
ハルハは流されるまま、いけない事だと知っていながら。
しかして、自分の意志でパーティーに加わった。
絶対に、自分の魔法は、鉄等級くらいの実力があるはずだ。
そんな考えと共に。
「おう、よろしくな。ちゃんと往復6日分の用意をしてくるんだぜ」
「はい」




