旅立ち
――10年後――
とある耳長族の村の墓地で、跪き、少女は祈りをささげていた。
木を組み合わせて出来た墓標の回りには、色とりどりの花が咲き誇り。
故人の新たな旅路を彩っている。
そんな墓標が、そこにはいくつもあった。
だが、命を救われた村人も多く。
ほぼ焦土と化していた村は、この10年でおよそ復興を遂げた。
エルフの少女が、祈りを終えて立ち上がる。
そこに歩み寄る、もう一人の長身なエルフの女戦士。
木の墓標に花冠をかける少女に、戦士は声をかける。
「本当に行くのか、シエナ」
「うん、私は行くよ、リギー。探したいんだ、あの人を」
あの一瞬いらい、シエナはあの英雄の姿を見ていない。
シエナが目覚めた時、既に村人は救出され、全ての魔物も魔族も事切れていた。
あの英雄は、ほとんど一人で村を救ったのだ。
そうして、何も言わずに颯爽と姿を消した。
村に、英雄の銅像を建てたい、と皆が思っても姿形の詳細すら曖昧なままだ。
「会ってどうする?」
「さぁ。解らない」
別に会ってどうする、という事も決まっていないが。
シエナはとにかく、あの者にもう一度会いたかった。
鮮烈に焼き付いたあの後姿。
目を閉じれば、シエナの脳裏にはいつでもそれが蘇る。
「でもたぶん……私はこのままじゃダメだと思う。そして、その解決のヒントはきっと、あの人だと思うんだよね」
「そうか」
シエナは、リギーを見る。
「何年も前に魔王は倒されて、魔王軍だって散り散りになったらしいからね。もうこの村に押し寄せることは無いだろうし、私みたいな役立たずが一人居なくなっても、何とも無いでしょ?」
「バカを言うな。お前だって、この10年で魔術を磨いて来たじゃないか。役に立たないはずないだろ?」
「どうかな」
シエナは自分の掌を見る。
10年前。村を襲った魔物の群れを退けるだけの力が、今の自分にあるのか。
そう自問しても、無理なことは明白だった。
「まだ、全然足りないよ。私は未だ、全然育ってない……そうとしか思えないんだ」
「だから、村を出るのか」
「そうかもね」
リギーは、引き止めることは無理だと悟って。
嘆息する。
そして。
「持って行け。きっと一緒に行きたがってる」
ひゅるひゅると、回転するそれをシエナが掴み取る。
横笛だった。
「これは……」
すぐに分かる。
ユーリの横笛だった。
「……英雄様に会ったら言っておいてくれ。『村を救ってくれてありがとう』ってな」
「うん、当然だよ」
そうして、シエナは90年を過ごした自分の村を後にした。




