襲撃
そんなエルフの村に、魔王の手先がやってきたのは、数日後のことだった――。
シエナが物見やぐらで、見張り番をしていた時。
森の奥から漂う臭いに、目を向けた。
緑を染め上げる黒の波。
エルフの、そして、シエナの高い視力がそれを捉える。
足の速い魔獣の類が、押し寄せてきているのが目に入る。
「敵襲! ……魔王軍!?」
急いで、やぐらに備え付けの鐘を鳴らす。
カン、カン、カン。
警鐘が村中に響き渡った。
村人は奥の岩洞窟に避難を開始し。
戦士は、武器を手に駆け付け、弓兵は矢倉に駆けのぼる。
「数は……!?」
シエナの居る矢倉に跳び入ってきた弓兵に、シエナは首を振る。
「解らない……100、で済めばいいけど……」
鬼気迫る表情で、押し寄せてくる異形達をその眼で確認した弓兵が絶句する。
けど、すぐに弓兵は覚悟を決めた。
背の矢筒から、矢を取り、コンポジットボウに番え。
突っ込んできた獣の一番槍を、その矢で射貫きながら。
魔術を練り上げるシエナに、弓兵は告げる。
「シエナ――……あなたは、洞窟の皆を守りに行って」
「でも……、ここは……?」
「ここは、なんとかなる。大丈夫」
その最中、別の弓兵も駆けつける。
「そうだぜ。見習いは黙って、先輩にまかせな!」
「解った」
シエナは、魔術で作り出した毒短剣を、投擲で魔物の額に命中させ。
それを最後に、矢倉から離脱する。
村の入り口では、エルフの戦士達が、魔物達と相まみえようとしていた。
シエナは、鞘から短剣を引き抜きつつ、先輩の指示に従って、後方の洞窟まで、走る。
けど。
振り返った視界。
それが、真っ赤に染め上がる。
「……火の魔術……!?」
瞬く間に、大量に降り注ぐ火球。
その一つが、シエナの足元に着弾し、大爆発を巻き起こす。
「――!」
その爆風に、シエナは吹き飛ばされた。
真っ白に染め上がった視界。
衝撃を浴び、地面に身体を打ち付けて転がった所に、家屋の残骸が降り注ぐ。
そしてその意識も、緩やかに消え失せて行った。
数秒後か、数分後か、数時間後か。
シエナは目覚めた。
鼻を突く焼けた匂いに、濛々と立ち込める熱気と鉄錆の香り。
視界はまだ朦朧とぼやけたまま。
ぽたりぽたり、と上部からは水滴が零れ落ちてくる。
シエナは自分の状態を確認する。
幸運にも、降り注いだ瓦礫が空間を作り、その間に居たせいで追撃の爆発や攻撃をしのげていたらしい。
五体がまだ動くことを確認し。
ひときわ重い瓦礫を、力づくで退け、シエナは立ち上がる。
ごろごろと、瓦礫が転がって。
コトンと、音が鳴った。
……?
音を辿り、見れば見慣れた横笛が落ちていた。
なぜ横笛が?
そう思い、シエナは視線を巡らせる。
そうして。
転がった瓦礫の正体に、シエナはハッとする。
それは人だった。
目の前に転がったのは瓦礫では無くて、人で。
青年だった。金髪の。
うつ伏せのその後ろ姿に、シエナは見覚えがある。
「……ゆーり?」
けど。
その身体の下から半分は無かった。
切断されたか、爆風で持って行かれたか。
それが、シエナを守っていた瓦礫に乗っていたらしい。
いや、むしろ、瓦礫で空間を作ったのは幸運なんかではなく、ユーリの仕業だったかもしれなかった。
瞳に染みこんで視界を奪う液体を拭うと、シエナの掌が、真っ赤に染まる。
見れば、退けた瓦礫も真っ赤で。
きっとシエナの所々も真っ赤だった。
ユーリから零れた、赤で、染まっていた。
……これじゃ、守人失格だ。
何も、守れてやしない。
誰も、救えてやしない。




