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決意


「で。まずはそっちよ。なんか、私に言いたいことがある分け?」


 プリムティスが、フォークの先でエルフを示す。

 その面倒くさそうな顔は今、兜に包まれてはいない。

 ここは。

 真昼間、人気の少ない街の片隅の酒場だ。

 ――だけどここは、英雄プリムティスの穴場的な酒場なのだ。

 昔から――まだ鉄等級の傭兵として魔物を狩っていた時代から、出入りしていて、だれもプリムティスのことを勇者だの英雄だのと騒がない。

 そういう、プライベートの一つだった。


 壁際の隅っこのテーブルに3人は座り。

 プリムティスは、度の強い火酒と、肉料理。

 エルフは、清涼水と、キノコや野菜のソテー。

 魔法使いは、ミルクと、パンケーキ。


 それぞれの料理が置かれている。

 無論、それは勇者様のおごりだ。


 魔法使いは黙って、エルフを睨みつつ。

 大きめに切ったパンケーキを、ばくりと頬張った。

 あ、おいしい。


 そんな呟きとともに、魔法使いが少しほだされていると。

 エルフがゆっくりと話し出す――。


「――10年前。私の村は、魔王軍の手先の侵攻を受けた……。村は壊滅し、焦土と化し……、村人を守る役目であったはずの私は、何も守れぬまま……」

 

 言葉が途切れる。

 こみ上げる悔しさ、悲しさ。

 それらを噛み締めるような表情。

 けれど、

 エルフはパッと面持ちを真剣なものに変え、プリムティスを真っ直ぐに見る。


「そこに現れ、村を救ってくれたのが、プリムティス様、あなただった……」


 それで、プリムティスは思い出す。

 フォークでミディアムレアに焼かれた分厚い肉を弄びながら。


「……そうか。確かに、それぐらいの時にエルフの集落5カ所が同時に攻められるって情報を掴んでね。うちのパーティーの面々がそれぞれエルフの村に一人づつ向かったわ。私の担当した村が、あんたの村だったのね」


「はい。――だからまず、私の友人と、村の皆に託された言葉を言わせてほしい」


 ガタリ、とエルフは立ち上がる。

 そして深々と頭を下げた。

 ハラリと散った艶のある金色の髪が、ソテーに降りかかりそうな程。


「――ありがとうございました。村を救って頂いて」


 プリムティスは、満更でもないけれども。

 しかしながら複雑そうな表情で、「そう」、という簡素な反応だ。

 続く言葉は淡々と。


「でも、救えなかった者も多かった筈。悪かったわね、遅れて」


 エルフの脳裏に、死んだ友人の事がよぎる。

 けど。

「違う。違うよ……アレは、私のせい。だから……」


 実力が足りなかった。

 準備が足りなかった。

 今も、エルフのカバンには、『横笛』が何も言わずに眠っている。

 そんな小柄なエルフは、感謝と後悔と無念に肩を震わせ。

 涙が溢れた。


 ポタリと落ちる。


 ポタリ、ポタリ。

 どんどん溢れる。


 その雫を見て。


 やがてドワーフは口をひらく。

「頭を上げて、座りなさいな。それ以上、ソテーを塩っ辛くするつもりなわけ?」


 その言葉にエルフは、涙をぬぐい。

 はい、と枯れた声で答えた。

 エルフがゆっくり顔をあげると。

 

 勇者は申し訳なさそうに微笑んでいた。



 ドワーフは息を吐き。

 気を取り直す。

「なるほどね。それでアンタの用事は私にお礼を言いに来た、というわけ?」


 エルフは言いよどむ。

 確かにそれ以外の用事は持ち合わせていない。

 会ってどうするのか。

 会えば、不甲斐ない自分をどうにかできるヒントが降ってくる。

 そんな思いでいたけれども。


 結果、エルフは無言になってしまった。


 だから。

 プリムティスは火酒をあおり、肉をひと切れ口に入れ。

 既にパンケーキを平らげ終えている魔法使いを指し示す。


「じゃあ、次はアンタね。私に何か用だったわけ?」


 おほん。

 と、口にシロップを付けたまま咳払いする魔法使いが口をひらく。


「助けていただいたお礼を、まだ言っていなかったので」


 その……。と一瞬口ごもり。

 目を泳がせたまま、ボソリと「ありがとうございました」、と魔法使いは言う。

 「あと、パンケーキも」。

 とお礼を付け加えて。


 ふん。

 とプリムティスは鼻息荒く。

「アンタは身に染みたわね。規律を重んじないヤツは痛い目を見るって」

 うっ、と魔法使いはバツが悪そうな唸りをあげる。

 魔法使いの少女はあと一歩のところで、身ぐるみを剥がされ、食われるところだった。

 そして、三日三晩、隣で神官の女性が酷い目にあっているのを見ていた。

 

 ――その時の恐怖が蘇り、ハルハに冷たい汗が滲んでくる。 

 

「そもそも、なんであんなことしたの?」

 

「わ……私には、鉄等級(アイアン)くらいの実力はあるって、思っていて……」

 ぎゅっ、と魔法使いはテーブルの下で自分の服を、強く握る。


「なるほど? 魔術には(・・)自信があるわけ?」


 無言。

 それは肯定だ。


「けど、負けた。あやうくアンタの人生棒に振る所だったじゃない」


 思わず魔法使いは反論する。

「でも! もう少しあの時の前衛が耐えれてたら……!」


 ふん。

 ドワーフは眉を顰める。

 今度は、怒気を孕む息だ。


「まず、あんたには冒険者としての考え方から叩き込むべきね」


 プリムティスは決意した。

 目の前のヒヨッコは放っておけない。


 それと……。

 手にした空になった火酒のグラスをテーブルに置き。

 指をさす。

 

「アンタ、名前は?」


「シエナ……だけど」


「そっちは?」


「ハルハ・リンクスです」


「そ。――二人とも、食べ終えたらついてきなさい」


「え?」

 とシエナが驚いた。


「……アンタ、強くなりたいんじゃないの? 顔にそう書いてあるわよ」


 そうして、プリムティスは決意した。

 まず、この二人を育て上げようと。



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