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勇者の家庭教師?




 ギルドの2階。

 その応接室の長椅子に、受付の女性、ギルド長。

 そして、テーブルを挟んだ対岸に冒険者の等級で言う所の金剛石(ダイヤ)等級の小柄な人物が座っている。


「もう、驚きましたよ。プリムさん、いつもと恰好が違うんですから、最初気づきませんでしたよ?」


 そう話すのは受付嬢で。

 プリム――つまり、プリムティスという名のドワーフは今、いつもの甲冑ではなく、革鎧などの良く居る冒険者的な恰好をしている。

 しかも受付に来た時は兜をかぶり、なんなら超厚底のブーツで身長まで上げてあった。


「しょうがないでしょ。今やどこに行っても、アレがあるんだから……。バレない格好じゃないと、おいそれと買い物にだって行けやしないわ」


 アレ、と顎で示すのは応接室に飾られた小さな5体のオブジェだ。

 それは、魔王討伐パーティーを象った偶像で、銅像の縮小版のようなもの。

 無論プリムティスの偶像も健在だ。


「確かに、ここの1階をうろつくなら、その格好がベストに違いない。木を隠すなら、森というわけだな」


「あはは。それで髪型も、そんななんですね」

 テーブルの上には、現在は外された兜が置いてあり、素顔のプリムティスの長い桃色の髪は、ボサボサだった。


「これは、兜のせいよ」


 急に調達した兜は、ドワーフのスケールに合っていないせいでブカブカで、その中に縛って突っ込んであった髪は、勝手に無残な状態になってしまうのだ。


「それより、話があると言っていたが、どういった用件かな?」


 ここからが本題だ。

 そうね、ええ。

 と、咳ばらいを一つし、ドワーフは用件を話し出す。

 それに、ギルド長と受付嬢は傾聴を始めた――。

「ねぇ、ギルド長。アンタなら気づいていると思うけれど、以前よりも冒険者を志望する女の子が増えているわよね? 今割合的には、男女比で、3:7ってところじゃない?」


「それは確かに感じます。昨今では男性冒険者の方が、目に見えて少ないですものね」


 受付嬢に続き、ギルド長は溜息を混じらせる。

「――ああ、先の魔王軍との戦いで男どもは、優先して駆り出されて行っていたからな……。しかし、治安維持のためには戦力は必要だ。それが例え、女子供でもな……」


 受付嬢も、思い当たる節があるのか。


「昨今では、魔王軍の統率から解放された、魔族や魔物が好き勝手やり始めていると聞きますから。今は小さな規模の問題事が多くなっていて、冒険者への依頼も増えているのが現状です」


 そう。

 戦争で多くの男性は命を落とした。

 けれど、それでも対抗手段を維持するために、自然と男女比が傾いていってしまった。


 プリムティスは、ドワーフだ。

 エルフ程ではないが、それなりに長寿の種族。

 姿形は10年前と変わらない。

 でも、10年の間で、時代は変化してきた。


 プリムティスは言う。

「私も。ここ数年、あちこちを旅してまわっていて、女の子の冒険者が被害にあう事が多くなってると思うのよ。比率の割合が高いのだから、当然ではあるけど。……特に、ここ最近で妖魔や食人鬼(オーガ)たちは、食料としてよりも――その……」


 ドワーフの少女は言いよどむ。

 両の手の指を絡め、おずおずと。


「……まぁ、なんていうか、遊ぶ事を覚えてしまったきらいがあるって言うか、ね」 


「ああ……」

 受付嬢は、少し前に救出された鉄等級の女神官が、心を殺されて帰ってきたのを思い出した。あの娘は、今は冒険者は引退し、聖堂に保護されたと聞いている。


 とても気まずい。

 重々しい雰囲気になってしまった会議室。

 

「それで、アルフヴェイン殿は、それをどうにかしたいというわけかな?」


「ええ、端的言うとそうなるかな?」


「手段は?」


「塾よ」


「塾?」

 ギルド長と受付嬢が驚く。


「そう。駆け出しの冒険者は、死亡率が高いでしょ。つまり、被害に合う率も高い。幾ら準備して挑んでも、山でも洞窟でも、常に地の利は魔物側にある。一つの見落としや油断で、ベテランの冒険者だってあっという間に瓦解する。――それが冒険者。……違う?」


 ずっとギルドを見て来たギルド長も。

 ずっと冒険者を送り出してきた受付嬢も。


 言葉が出なかった。


 無言は肯定だ。


 バン、と机を叩き。

 プリムティスは勢いで立ち上がる。

「……だから、教えるのよ。戦い方、難しい場面の突破の手段、生き残るための考え方……! そうすれば、もっと生きられる。悔しい思いや、辛い思いを減らせる。そしたら冒険者の引退率を減らせるじゃない。――今は必要なんでしょ? 冒険者の力が!」


「そ、それは……そうですけど。でも、その塾は、プリムさんが?」


 狼狽気味の受付嬢の問いかけに。

 プリムティスは腰に手を当てて胸を張った。

「そうよ? 何か問題?」


「いや……」

 ギルド長は知っている。

 プリムティスという人物は、当時冒険者ギルドの前身である勇士選出機関で、魔物討伐の仕事で武勲を積み上げ、鉄、銅、銀、金――と階級を上げていった、所謂たたき上げの英雄だ。


 先生としてこれ以上の人材は居まい。

 それに理にかなった話であることも事実だ。

 しかし、ギルド長には懸念がある。


「どこでやるんだね? 準備は? 我々は何を協力したらいいんだね?」


「場所は、少し町はずれに修道院が立ってたでしょ、今は壊されて空き地になってるけど。あそこに掘っ立て小屋でも立てて使うわ。国と街にも申請を出してある」


「では、我々は? 資金援助かね? それとも……」


「何いってんの、ここは冒険者ギルドでしょ。手始めにちょっと心配な冒険者を幾人か紹介してよ。――私も先生は初めてだからね、いきなり大勢は見れないと思うから、2,3人から始めてみるつもりなのよ」


 なるほどな。

 とギルド長は納得した。


「良いだろう。協力しよう。――こちらで選りすぐりの問題児を送りつけてやる」


 ドワーフは苦笑して。


「……あんまり意地悪はしないでよ?」 

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