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シエナ

 


「シエナ、お前は行かないのか?」


 青年の声。


 それは小柄な少女に向けられたもので。


 その少女は今、畑で採れた野菜を、河で洗っている所だった。

 小石や岩で敷き詰められた地面に座り込み、澄み切った流水でイモの泥を落としながら。

 

 金髪の少女は振り向きもせずに。

 

「行かないよ。うちは、守人(もりびと)の家系だし。この森と、私たちの村を守らないといけないからね」


 どこか使命感と、正義感が籠る少女の口調は、明朗で。

 傍らに置いた籠から、次にトマトを掴んだ少女に。


 青年は、「でもさ」、と呟く。


「……幾つかの集落はもうやられたって噂じゃんか。応援に向かったお前の父親(おやじ)だって、まだ……」


 少女が立ち上がる。

 まだ、作業は途中だ。


 でも、少女は立った。

 青年に身体を向ける。


 耳長の、金髪碧眼の青年、その身長差を見上げて。


「だからだよ、ユーリ。……お父さんが戻ってきた時に家に誰も居ないんじゃ、寂しいでしょ」


 大きな植物の葉を加工した衣服。

 長い耳。

 押し花の髪飾り。


 青年も、少女もそんな自然を生きる、耳長の種族。 

 深い森林を吹き抜ける風に、少女はなびく長い金髪を弄ばれながら。

 少女は言う。


「キミは、行けばいい。キミの家は音楽を奏でるのが仕事の家系でしょ? 私は、村を守るのが仕事の家系なの」 

 


「でも、今は、シエナがイモ洗ってるじゃないか。それにまだ守人(もりびと)も見習いだろ?」

 ユーリという名の青年の揚げ足取りは最もだ。

 

 今では畑の仕事も、水汲みの仕事も、洗濯も、食事も。

 すべて少女がこなしていた。

 集落を離れた家族の仕事を肩代わりしているのだ。


 シエナがまだ守人(もりびと)見習いだというのも本当だ。


 けど少女は、ニコリと笑顔を向けて。

「それはしょうがないでしょ。お腹がすいたら戦えない。私はまだ育ちざかりなんだから」


 そう言いつつ、少女はまた座り込み、作業に戻る。


「手伝うよ。この後魔術の練習だってするんだろ?」 


 青年が少女の傍に座って、籠からイモを掴み取った。


「うん。助かる」


「でもそろそろシエナも80歳くらいだろ、さすがにもう背は育たないんじゃないか」


「うるさい。……ユーリは知らないだろうけど、村長の家には200歳でも背が伸びたって書かれてる文献だってあるんだよ。いつか背の高さだってユーリを追い越すかもしれないじゃないか」 


「それはないな」


「いいや、あるよ。絶対にある。エルフの寿命は5000歳くらいらしいからね、80歳はまだ子供だよ」


「途方もない話だ。本当にそんなに生きたヤツ居るのか?」


「信じることは大事なことだよ、ユーリ」

 

「……そうか。じゃあ、死ぬなよ。育つんだろ?」


「無論だよ。見ているがいい」


 そんな他愛の無い話を続けながら、若いエルフの二人は、野菜を洗う作業を続けるのだった。



 



 

 ――人類が魔族の王と戦いを始めて数年が経過している。

 今は、森林地帯のエルフ集落は、魔王軍の戦線に少しずつ侵略されていっていた。


 森の外へ逃げる者、他の森へ疎開する者、自分の村に残る者。

 今、エルフたちは選択を迫られていた。




 それは、シエナが住む村も例外ではない。

 

 シエナが住む集落のエルフたちは、代々決められた役職を担って来たが、シエナは村の警備を担う守人(もりびと)の家系――その中でも戦士の家系だった。



 けど。

 エルフの中では小柄すぎる体格から、シエナは白兵戦闘以外の技術も併せて修練している。


 その一つが魔術だ。


 シエナは 精神を集中させる。


 そして精神エネルギーである、『魔気オド』を体外へ導き出し。

 大気に満ちる元素――『魔素(マナ)』と、万物万象に宿る『現象核(オリジン)』を結合する。


 そうして、『魔気オド』『魔素(マナ)』『現象核(オリジン)』のそれら3種を合成する技術をもって生成する、魔力の粒子を積み重ね、大きな力にしていく。


 魔法とは、魔力を扱う事象であり。

 魔術とは、術式という命令書式によって、魔力を働かせる術であり。



 今、シエナの掌の中に、木属性の魔力塊が生成される――。


 森林の切り株だらけの開けた一帯に。


 シエナの声が高らかに歌う。 


「――水で、生き、火に死する――傾聴せよ、心無き刃――」 

 

 練り上げた魔力に、言霊を乗せた術式命令を施し、その作用を変質させる。



 木属性・汎用術式――

「『木葉の短剣(フォリッジ・ダート)』!!」



 硬く鋭く、変質させた木葉はまるでナイフのようで。

 作り出した、それを抜群の精度で、ぶん投げる。



 ズドン、と重々しい音が鳴って、手作りの木の的にそれは真っ直ぐに突き刺さった。 

 さらにじわりと、的に小さな染みが滲み込む。 


「よし。少しだけど毒も籠められるようになったし……小さい相手ならこれでなんとかできるかな。……あとは大物相手の術も練習しないと……」


 シエナは、腰の鞄からボロボロの魔術書を取り出してページをめくる。

 村長の書棚で見つけたソレは、古臭い文字と文体で書かれ、どのページも所々破れていたり、シミで読めなくなっている。

 『マナの書』というタイトルのそれは、まるで年代物の古文書のようで。

 しかし、良くできた魔術指南書でもあった。


 シエナはそれを、独自に読み解き、50年かけてやっと魔術を習得した。

 村に住んでいたエルフの術師は、100年ほど前に村から出て行ったそうで、教えてくれる者も居なく、高齢の術師が居るという隣の村までは徒歩で数週間もかかる距離だったから、仕方なかったのだ。

 

 

 今ではシエナの魔術の練習は、村でも結構な見世物になっていて。

 しばらく前までは、ギャラリーもそこそこいたが、今は皆村を出て行ってしまい。


 

 現在は一人だけだった。

 その者が、シエナのところへ歩み寄る。 


「ずいぶん様になってきたな、シエナ」


 賛辞を送るのは、訓練の様子を見ていたエルフの女性だ。

 簡易な木製の鎧を身に着け、手には長めの木剣を携えている。


「ありがとう、リギー。でもまだまだだよ」

「まだまだか……――」

 シエナの尽きない向上心に、リギーは肩をすくめ。

 的に突き刺さったまま、霧散する魔力と共に消え失せる魔術の短剣を見つつ。

 リギーは、「しかし」、と続ける。

「――最初の頃とは、術が完成する速度が段違いに早くなったな」


「術は、完成しなければ、無意味だからね。ところでリギー、もしかしてそろそろ守人(もりびと)の訓練の時間? 私を呼びに来たんだよね?」


「ああ。人数が減っている分、訓練だけはしっかりしないとな。いつもの広場に集合だ、いくぞシエナ」

 

「うん」


「魔術の次は剣術の稽古か、お前も忙しいな」


「それが、仕事だからね。でも剣術は師匠が居る分、まだ楽なほうだよ」


「今日もしごき倒してやるからな?」

「お手柔らかに頼むよ……」

手に取ってくださりありがとうございます。

よろしければ、続きもどうぞよろしくお願いします。


一応、書籍化を目指しています。

応援、レビュー、ブックマーク等して頂ければ嬉しいです。


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