お姫様日記
「アツ様、琴のお稽古の時間です」
「行かぬ」
「アツ様」
「シマが行けばよい」
「私が行ってどうするのです。アツ様はいずれ江戸城の奥へ上がるお方になるのですよ」
「江戸は好かん」
「アツ様」
「シマが行けばよい」
「私だけ行っても意味はありません。アツ様はいずれ日の本を背負って立つ女性になるのですよ」
「そんなもんは背負いとうない。シマが背負えばよい」
「アツ様!」
「なーんーでーおーこーるーのー」
「アツ様が琴のお稽古に行かないからです」
「わかった行けばいいんでしょ行けば、あっそうだ」
「なんですか」
「蜜柑食べてから行く」
「アツ様」
「わーかーあーったーよー食べながら行くから」
「なりませんアツ様。いずれ日の本を背負って立つ女性が食べ歩きなど」
「食べる!」
「アツ様!」
「なーんーでーおーこーるーのー」
「アツ様が蜜柑の食べ歩きをなさろうとするからです」
「皮なら袖に入れとくから」
「いずれ日の本を背負って立つ女性が蜜柑の皮を袖に入れて歩いてはなりません」
「いい匂いするよ?」
「アツ様」
「ちぇー。あっそうだ」
「なんですか」
「ぺスを連れていく」
「なりません」
「じゃあジョン」
「なりません」
「ラッキーおいで」
「アツ様!」
「なーんーでーおーこーるーのー」
「いずれ日の本を背負って立つ女性が懐に狆を入れて琴を鳴らしてはなりません」
「あったかいよ?」
「ならぬものはなりません」
「ごめんねおまえたち。あっそうだ」
「今度はなんですか」
「シマ、愛しているぞ」
「アツ様!」
「なーんーでーおーこーるーのー」
「アツ様がそのようなお言葉ですべて帳消しになさろうとしたからです!」
「バレたか」
「いずれ日の本を背負って立つ女性が御年寄をたぶらかしてはなりません!」
「わーかーあーったーよー」
「これ! アツ様! 蜜柑を食べながら狆を懐に入れたまま、琴のお稽古を、アツ様!」
了




