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第4話 香りが紡ぐ出会い

冷たく澄んだ空気が肌を刺すような寒さの中、涼音は情報屋の男と共に北へ向かう道を進んでいた。

彼の名を尋ねても、答えは軽い笑みと「名前なんて必要ないさ」という一言だけだった。

「必要以上に背負わないほうが、旅は楽だよ。」

その態度に半ば呆れながらも、彼の軽快な足取りが案内役として信頼に値することを涼音は認めざるを得なかった。


旅の道中、彼女はふと問いかけた。

「なぜあなたは、シルバーミストの情報を持っているの?」


彼は振り返りもせず、歩きながら答える。

「いろんな仕事をしてきたからさ。中には、危険な場所でしか手に入らないものを探してくれって依頼もある。けど……。」

そこで彼は足を止め、振り返る。

「ここまで行こうって決意する人は珍しいね。君もただの調香師じゃないだろう?」


涼音はその言葉に答えず、ただ前を向き直した。

「私にはこの香りが必要なの。それだけ。」


旅を続けるうちに、氷の谷の入口が見えてきた。

遠目に見えるその地形は、鋭利な刃のようにそびえ立つ岩壁と、その隙間を埋め尽くす霧で満ちていた。

霧が青白く光を放つ様子は、幻想的でありながら、どこか不気味な印象を与える。


「ここだよ、氷の谷は。」

男はポケットから小さなガラス瓶を取り出し、中に入った液体を一滴飲み込む。

「寒さに慣れていない人間にはここで動けなくなる。これを飲めば少しは楽になる。」


涼音は無言で彼の差し出した瓶を受け取り、一滴を飲んだ。

途端に、体が暖かさに包まれる感覚が広がる。

「ありがとう。」

短い言葉を返し、二人は霧の中へと足を踏み入れた。


谷の中は、まるで別世界だった。

霧がまとわりつくように体を包み込み、視界を遮る。

足元には氷の結晶がびっしりと敷き詰められ、時折聞こえる風の音が静寂を破るだけ。


涼音は嗅覚を頼りに進む。

空気に微かに漂う植物の香りが、シルバーミストの居場所を示しているかのようだった。

「この方向……間違いないわ。」


しかし、その進む先に突然響いたのは、低い唸り声だった。

霧の向こうから現れたのは、巨大な獣。

毛皮が白銀に輝き、氷のような瞳を持つ狼の姿だった。


「アイスパンサーか……こいつは厄介だ。」

情報屋の男は冷静に呟くと、腰から短剣を引き抜いた。

「時間稼ぎは任せてくれ。その間に目的の香料を探せ。」


涼音は一瞬迷ったが、彼の目を見て頷く。

「分かった。必ず戻る。」


涼音は足を止めることなく、香りの方向へと駆け出した。


狼の咆哮と

男の足音が遠ざかる中

彼女の嗅覚は

ますます

鋭くなる


ついに、その香りの源となる植物を見つける。


シルバーミスト――それは霧の中に溶け込むように咲いていた青白い花だった。

涼音は慎重にその花を摘み、小瓶に封じ込める。

「これで……。」

息をつく間もなく、背後から再び低い唸り声が聞こえる。


振り返ると、そこには別の狼が立ちはだかっていた。

冷たい瞳が涼音を射抜き、一歩一歩近づいてくる。

涼音は咄嗟に懐から試作した香水を取り出し、狼の前に振りかけた。


途端に狼の動きが止まり、鼻をひくつかせる。

涼音はその隙を逃さず、再び駆け出した。


再び男の元に戻ると、彼は傷を負いながらも立っていた。

「手に入ったのか?」

彼の問いに、涼音は静かに頷く。

「ええ。これで必要なものは揃った。」


男は苦笑しながら肩をすくめた。

「危険な旅に付き合うのも一苦労だ。」


二人は氷の谷を後にし、霧の外へと足を運んだ。

しかし、その背後で狼たちの遠吠えが響き渡る。


涼音はその音を聞きながら、再び香りの力を信じる決意を固めていた。

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