かくして人類は救われた
「やったー!御三方、久しぶり!」
「よかったわ。やっと自由になれたのね」
覇者たちは永き牢獄生活だったにもかかわらず、少しも動揺や安堵を見せず、凛々しく佇む。
「我々が封じ込められるとはな。不思議な事もあるものだ」海の覇者ルシードが率直に言う。
「まさに永遠の不覚。名誉を挽回せねばなるまい」空の覇者ゼロンが憮然と大空に声を伝播させる。
「いかにも。しかしながら、これもいい経験だ。覇者と言えど、一寸先は闇とはよく言ったものじゃ」地底の覇者コゲスは教訓めいた語勢で笑い声を放つ。
「貴様たちが覇者たるこの世の神獣か。今こそ悪の神力を思い知るがいい」イビルゴルゴンが全身から紫紺の波動を迸らせる。
「お前はイビルゴルゴン。またラングルに狂乱をもたらしに来たか?」ルシードが唸り声を上げて訊く。
ゼロンとコゲスも用心深く凶神を睨みつける。
「いかに悪のゴルゴンが強くとも、善の使い手が三人では歯が立ちませんね」バクシンが自信ありげに寸評する。
「そうとも言い切れん。善悪不明の不埒者もいるからな。ハッハッハ。来たぞ。奴がこのどデカい霊気を見過ごすわけはない」ユンケルが不敵に笑う。
「やっぱり!アイツに会うのは久しぶりね。もう何だか良いも悪いも、世界はグチャグチャだわ」ケイトが手を額に当てて、うつけ者の到着を待つ。
「三方三つ巴だ。今度ばかりは、ただの喧嘩では終わりそうもないな。予言通り、世界は終末を迎えるのか」ラッセルは行く末を憂慮し、溜息をつく。
その超然的うつけ不埒者は西の彼方からやって来た。
豪速の光弾ロケットが、三覇者と凶神の前で急停止する。
「へえ。やっとあのガラスボールから出られたのか。何にもやる事ねえから、遊び尽くしてたけどよ。あれ?また変なのが一匹出てきたな。見たとこ、お前らと同じぐらい強そうじゃねえかよ」アルヌスが興味深そうにゴルゴンを見つめる。
「人間に用はない。引っ込め」ゴルゴンはその甚大な殺気に気づいたが、苛立たしげに一喝する。
「誰が人間だと!そんな低能な種族と一緒にするんじゃねえ!醜いゲテモノ細工野郎が!俺様はな。惑星マズダの天上至上無上の最高神アルヌス様よ。暇潰しにてめえの喧嘩を買ってやるぜ。しかもタダでな。釣り銭もいらねえ。俺様は宇宙一寛大なんだ。感謝しやがれ」アルヌスは両手を腰に当て、高らかに笑う。
「貴様は善か悪か?」ゴルゴンが問い質す。
「どっちでもねえな。そんな概念、俺にはないぜ。ただ気の向くままに戦うだけよ。善悪なんていうヘボい考えは好かねえ」
「ならば、貴様も敵。覚悟はいいか?」
「ああ。何時でも構わないぜ。かかって来な」
ゴルゴンは熱風のような鼻息を放出して、闘争心を露わにする。
全身から紫紺の邪気が濛々と吹き荒れる。
「それで最大出力か?大したことない奴だな。じゃあ、おっ始めるか」アルヌスがミサイルのような超速で、ゴルゴンの間合いに突っ込んだ。
そして、マシンガンの如き連続ミラクルパンチを繰り出した。
あまりの衝撃で、ゴルゴンの胸腹にクレーター状の凹みがどんどんできていく。
「いつ見ても最強だ。どこにあんなパワーがあるのかな?」フェルナンが口を開けて驚愕する。
「全宇宙の神を呼んでも、アイツは逮捕できないわね」ケイトも諦観して嘆息する。
三大覇者たちも、毅然とその戦いぶりを洞察している。
アルヌスは脅威のラストパンチで、ゴルゴンを後方に殴り飛ばしてしまった。
「何と言う驚くべき力。善ならずとも生かしてはおけん」ゴルゴンは反っくり返った身体を立て直し反撃に出る。
まず猛烈な気合いとともに、体中に埋まり凝集した魔性の夾雑物を弾丸化して打ち放った。
しかしアルヌスは無造作に飛んでくるその魔弾を、手刀、足蹴りで片っ端から砕いていく。
また波動の膜を発現させて、砕片による被弾を防いだ。
ジオイド石のように飛び交う轢弾を、面白いように砕き落としていくアルヌス。
その威容に辟易したゴルゴンは、身体を回転させて巨大な紫紺の邪気エネルギー波を捻り出した。
「おっと、いよいよ必殺技が来たか」莫大な霊力に、アルヌスも警戒感を示す。
「貴様がいかに優れた夜叉者でも、これは防げまい。粉々の露クズとなれ」
「凄まじい。あれでは逃げるしかない」バクシンが放心した面貌で言う。
「いいや。あのプライドの権化が逃げることなどない。真っ向勝負よ」ユンケルが好奇と驚嘆の心持ちで唇を引き結ぶ。
絶大な邪気の大球が、アルヌスめがけて直進する。
そして眼の前に迫ると、アルヌスは片手でそれを受け止め、同等の霊気を球に流し込んだ。
紫紺の球体に黄金色の光波が混じり、それは何やら異様なエネルギー体に変容した。
それでも邪気の威風は強烈で、アルヌスを圧迫し後退させていく。
「無駄だ。魔邪の全てが積まった究極の霊弾だからな。打ち消すことはできぬわ」ゴルゴンは絶対の自信を表明する。
「そうかな?生憎、このアルヌス様に不可能はないんだよな」
そう言うと、フリーのもう片方の手に念力を込めて、猛然と邪気の塊を切り裂き始めたのだった。
すると、見る見る大球に裂孔が刻まれ、邪気がどんどん斬り削がれていく。
やがてエネルギー体は綺麗サッパリ細切れに消し飛び、跡形もなくなってしまった。
「何故だ?このイビルゴルゴン様会心の邪気が」動揺を隠しきれないゴルゴンは、アルヌスの超絶なる実力に舌を巻く。
「どうだ?これでてめえも自分の卑小さを理解したかな?ハッハッハ」
「悪の頂きに君臨するイビルゴルゴン様が、どこの馬の骨とも分からぬ無法者に負ける訳がない!」
ゴルゴンは狂乱の咆哮を上げて、体表の夾雑物を矢継ぎ早に分離した。
見ると、その雑物は醜悪な猟奇生物へと変身した。
「何だあれ!無機物から怪物が現れた!」
「悪の全てを結集した神は相当手強いわね」
ゴルゴンの身体から生み出た得体の知れない悪鬼魍魎のような生物が、次々にアルヌスへと突進する。
目が四つ、口が三つ、手が背中から生えた、足が首から飛び出た、というような様々な奇形魔獣がゴルゴンの身体から出現して来る。
「ウザい奴め。てめえは生殖器ってわけか」
アルヌスは剛腕パンチとスーパー跳び蹴りで、魔獣どもを捻じ伏せていく。
ゴルゴンは底無しに猟奇生物を産み出し、当て所もない攻防が続いた。
やがてどれくらい経過した時だったか。
アルヌスが痺れを切らして言った。
「弱っちい奴ばっかと喧嘩するのはしんどいな。そろそろ大詰めにするぞ」
すると、アルヌスは口笛を吹き、天空の雲をいとも簡易に呼び集めた。そして、腕をグルグル回し、雲を綿菓子のように捏ねくり回すと、特大の渦巻きを拵えた。
「何を、何をするつもりだ?」ゴルゴンが畏怖の眼差しで問う。
「分からねえのか、能無しめ。てめえの、その見苦しい生殖器を根こそぎぶっ潰すんだよ!」
そう豪語すると、アルヌスは雲の爆風をホラよっと投げつけた。
見事なまでにゴルゴンの体皮の夾雑物は渦に呑み込まれていく。
全て掻き集めると、それをアルヌスが豪快に東空の彼方へ蹴り飛ばした。
「あばよ。さあ、後は本体だけだな。てめえ、死にたいか?悪神だからな。執着は強いだろうから、生きたいだろうな?てめえは嫌いだが、いい喧嘩仲間を殺すのは惜しいからよ」
イビルゴルゴンはその意味を了解し、負けを認めたのか、無言のうちに去っていった。
「と、まあこんなもんだ。待たせたな、御三方さんよ」アルヌスが三大覇者のもとにやって来る。
「さてどんな戦いになるか、楽しみだぜ。と、言いたい所だが」超オメガの無敵寵児は、高価な衣装に付いた塵埃を面倒くさそうに払い、僅かに乱れた髪型を整えて言葉を継いだ。
「実はよ。俺様はある地球の女に懸想しちまってな。で、その女にお願いされたのよ。地球は支配しないでくれと。お前たちとも喧嘩しないでくれとな。女との約束は破るわけにはいかねえからよ。俺は星に一旦帰ることにする」
「えっ!本当!支配しない、喧嘩しない!」
「嘘っ。夢じゃないわよね?あの暴れん坊男が?」
一同、重大発言に驚喜驚倒してしまった。
「だろうなあ。女はどんな魔物よりも強いからして。アイツにも私と同じ弱点があるのか。何とも、男とは哀れな存在よ」ユンケルが染みじみと共感する。
「だが偶に遊びに来るからな。その時に退屈しねえように、てめえら三匹は生かしておいた方が面白いってもんだ。んじゃ、てめえらも元気でな」
アルヌスが一同を見下ろして言う。
そして、手に強い念波を滾らせて、空間を斬り裂いた。
漆黒の異次元が扉を開ける。
「あの時と同じだな。異空間が異星の出入り口なのだ」ラッセルが思い出したように呟く。
「また会おうぜ、弱き人間ども。さらばだ」
アルヌスは時空の裂け目に飛び込み見えなくなった。
そんな顛末の果てに、ラングルは救われた。
三大覇者たちは、配下の魔物たちを説得し、人間との無益な争いを禁じる御触書きを発布した。
最大の脅威であったアルヌスも母星に帰り、ラングルは滅亡の危機を脱却した。
「エクスカリバーと飛鷹拳。史上最強になりましたね」フェルナンが肉切れを頬張りながら賞嘆する。
剣士バルトスが今朝、修行を終えて汎空国から帰還した。
「腕を試す機会はもうなくなったようだな」バルトスが平和安寧を愛でるように言う。
「ホントね。もう貴方たち用心棒の時代も一休みだわ」ケイトがナプキンで口元を拭く。
「私も国に戻って、また修養に励みますよ。いつまた、武芸が求められる時勢が来てもいいように」バクシンが些か肥え太った顔で、料理を片っ端から口に運ぶ。
「一時はこの世の終わりかと思ったが。何とか丸く片付いたな。さあ、そうとなればケイトちゃん。じっくりとデートを楽しもうじゃない?」ユンケルが喜色満面でウインクする。
「何度も言わせないで。遊び人浮気者に興味はないの。夜の街の尻軽女でも口説けば?」
「そんな事言っちゃって。年上男が好きなのは分かってるんだから。発情期の女の子だし、ムラムラはかなり溜まってるでしょ?」
エロ事師の誘惑が続いたが、ケイトは無視を決め込む。
一同がラングル平和樹立パーティーを催しているのは、世紀のアンダーグラウンド天才研究者ハロイドの家だった。
「いやはや。それにしても皆の者、よく世界のために心血身命を捧げてくれたな。世界各地から蒐集した美味い食材の数々。たっぷり賞味してくれ給え」ハロイド自らが、この日のために豪華な料理を振る舞った。
勿論、唯一の女性であるケイトも腕を捲って手伝った。
そして世界救済旅団の長、ラッセルが全員に謝恩の言葉を述べた。
「諸君、誠にご苦労であった。貴方たち一人一人の尽力がなければ、世界は予言通り滅亡していただろう。だが未来は変わった。ラングルは救われたのだ。我々だけでなく、行く先々で世界中の様々な人々が協力してくれた。幾つもの町を訪れ、別れを告げ、長い旅路を踏破した。喜怒哀楽と感動が無限に詰まった冒険だった。では諸君、また会う時まで。しばらくの休憩だ」
一同は人生最高の饗応をとことん楽しみ、いつ果てることなく談笑に興じた。
これにて、三人組のドタバタ冒険譚はひとまず区切りとなりました。
楽しんで頂けましたでしょうか。
また続編の執筆を考えていますので、その時はまたよろしくお願いします。ではまたお会いしましょう。
皆様、本当にありがとうございました。




