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博士の秘密兵器

山岳地帯を過ぎると平野に入り、目指す場所は目前だった。

「見えたぞ。あのコンクリート家屋だ」ラッセルが指さして張り上げた声で言った。

 丸い古墳のような外郭をした、一見粗末な建物だ。水平に広がる野原にポツンと一点孤立した古風なそれは、寂しげながら自立を主張するかの如く尖鋭な煙突を衝き上げて存在している。

 その家主の名はハロイド。アンダーグラウンドの科学者で、ラッセルとは末永い腐れ縁だ。

「ラッセル!また会えたのう!よく生きとった!」髪を肩まで垂らして、着古した白衣を羽織った井手達はマニアックな人間像を連想させる。

「久しぶりだな。景気はどうだ?」

「お主こそ、何用だ?ほう、若い弟子じゃな」

フェルナンとケイトは簡単な挨拶をして自己紹介を済ませた。

 一同は旅の顛末を語ろうとしたが、その必要はないとハロイドが遮った。

 老科学者は目を閉じ精神統一をした。

「なるほどな。過酷であったのう」言うなり、一同の冒険の経緯を事細かに言い当てて見せた。

「どうしてそんな事まで!何も喋ってないんですよ!」フェルナンが驚嘆する。

「この爺さんは目に見えないものを見抜くんだ」ラッセルが懐かしそうに安堵して言う。

「それって霊能者?チャネラー?」ケイトが興味深く問う。

「まあそんなとこじゃ」ハロイドは腹で高らかに笑った。

そしてラッセルが龍玄水を見せた。

「龍の聖水。伝説は真であったか」

「この研究所で保管して貰いたい」病人や高齢者のために使いたい旨を吐露した。

「分かった。これは世の中で最も苦しい立場にある者のために使おう」

 一同はハロイドから研究所自家製のドリンクをもてなされた。奇妙な香りがしたが、舌に馴染む軽やかな美味しさだった。

「そうじゃ。旅に戦闘アイテムは必須だ。いくつか持っていけ」

「ハロイドさん、僕たちには究極のアイテムがあります」フェルナンが誇らしく龍の鱗を出した。しかしその感触がおかしかった。軟らかくなっていたのだ。

 途端、あろうことか鱗が灰粕になってボロボロと砕け散ってしまった。

「わー、どうして!」

「フェルナン、あなたちゃんと仕舞ってたの?」

 ラッセルとハロイドは沈思して床に積もった鱗の残骸を見つめる。

「おそらく宿主が死んだんじゃ。鱗の魔力が霧散したんじゃろう」ハロイドが真贋を見通すような双眸で言う。

 もう一つのアイテム魔石は無事だったが、若い二人はすっかり意気消沈した。

「気にするでない。代わりのアイテムをやろう」

 言われて、二人が覇気を取り戻す。

「ただでとは言わん。何かできることはないか?」

 ラッセルの好意に、ハロイドは幾らかシリアスな面貌になった。

「ラッセル。実は何だが、この悪友の頼みを一つだけ聞いてくれるか」

 現在地から東に三日ほどの場所に、バルマーという王立研究機関があった。

 ハロイドも独立する以前、付き合いのあった組織だ。

 しかし、最近になって通信が途絶え、物品の取引もストップしているのだった。ゆえに不測の事態が研究施設に生じている可能性があった。

「だからして、様子を探って来てほしいのじゃ」

 旧友の懇願にラッセルは快く承諾した。

「バルマーへは鉄道がある。じゃが万一のためにアイテムをやろう。さあ、地下へ参ろう」ハロイドが揚々と歩き出す。 

そこは秘密基地という表現がまさにピッタリの部屋だった。

 開発途上と思われる機械や薬品が所狭しと散在し、残存の刺激臭が室内全体を淡く漂っている。

 また、猛禽類などの獣骨がアトランダムに厳めしく並び、来訪者を今にも襲わんとするような猛々しさを醸し出している。

「威圧感が凄いですね。一体毎日何の実験をしてるんですか?」フェルナンが部屋の面妖さに圧倒されて言う。

「世のためになる実験じゃ。此処にあるものはどれも人が喜び楽しみ、生きる助けとなる発明品でな」

「ハロイドさんは自分の野心じゃなく、人を助けるための仕事をしているのね」ケイトが目の遣り場に困ったように視線を回しながら尋ねる。

「その通り。私欲で研究するつもりは毛頭ない。

捻出した資金で生み出した物は残らず社会に還元しておる」

 ハロイドは自信に溢れた所作と表情でガラリと倉庫のドアを開けると、中に上半身を突っ込んで、物を幾つか取り出した。

「まずはこれじゃ。ゴーレムのマント。最大の防御アイテムじゃな」茶色く頑丈そうな年季の入った代物らしかった。

「へー、長持ちしそうだ」

「フェルナン君だったかな?マントは三回使うと役目を終えて消える」

「三回ですか。心細いなあ」

「次は朱雀の翡翠じゃ。業火を発生させる破壊力抜群の逸品」緑の透明な凝灰岩のような形状をしている。

「これは何回まで?」ケイトがそっと手に取って言う。

「二回。魔力は最高の魔法使い級じゃ。くれぐれも火傷せぬようにな。それから、これが羅王丸。かまいたちのような烈風竜巻で敵は一網打尽。必殺アイテムゆえ、使えるのは翡翠と同じく二度まで」

 楕円型で砲弾のような火薬玉のような軽量の鉄球だ。

「これらは至ってノーマルな武器じゃ。だが最後がとっておきのグレート!」ハロイドはそう言うなり、倉庫の奥に入り込んでから、秘密兵器とばかりに掻き出した。

「これぞ魔法界最高傑作の一つ。菩薩の勾玉」それは眩く七色に光り、あたかも黄泉の神域から放たれた威風を思わせる。ワンランク頭の抜けた荘厳な質感の品だ。

「大した作品らしいな。で、その心は?」ラッセルが面白半分な調子で詰問する。

「次元を斬る烈光じゃ」

「はっ?何ですか?」フェルナンが理解できずにたじろぐ。

「次元じゃよ。世界の時間と空間を斬り裂く超越アイテムじゃ。伝家の宝刀じゃからして、使えるのは一度きり」

 一同は皆科学者であるが、そんな物が存在し、またそんな現象が起こることが信じられなかった。

 とは言うものの、神がかりな心強い旅の友を授かった三人は、気炎を吐かんばかりに気合いを高め、新たな門出の支度を整えるのだった。



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