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大魔法使いの肩慣らし

 そして日が明け、新パーティーによる旅が始まった。

「いやあー、あそこを出るのは何年ぶりだろう。せいせいするなあ。この時を待ってたんですよ」城を発つや、バクシンが急に口調態度を変化させた。城廓にいた時はかなり善人を演じていたようだ。

 あまりに露骨な変貌ぶりに、一同は唖然とする。

「あそこ、食べ物も住居も最低でしょ?武芸は自己修養って、平和ボケですよね。世界を知らなきゃ、あの国は置いてけぼりだ。私は国と一緒に自滅埋没するのは嫌ですからね。いつ出て行こうかずっと悩んでたんですよ」

「何だそれ。てっきり全員国に忠誠を誓ってると思ってた」

「あなた、建前でずっと我慢してたの?」

「はい。誰にも言えなかったけど、我慢してるのは私だけじゃないと思います。煩悩を捨て去るなんて、若者にはできませんから」

 素顔を晒したバクシンに、ユンケルが切り込む。

「分かるねえ。青年があんな籠の中にとじ込もっていたら、おかしくなるだろう。お主のような若輩は外の世界をとくと見聞し、異文化から多様なものを学び取らなくてはな」

「ありがとうございます。魔法使いさんは度量が広くていらっしゃる」

 ラッセルも納得顔で付言する。

「そなたは、いずれ国の中枢で働く人材だ。我々も手荒な扱いはできぬ。くれぐれも無理はせんでくれ給え」

「護衛に無理は付き物ですけど。まあ、マイペースで行かせてもらいます」

 そうして、ずんずん山を下ると、林木の群れが眼前に立ち現れた。

 その中を進んでしばらくした時。

「誰かが後をつけている。人だな」ユンケルが鼻を効かせて言う。

「私も感じてました。魔物ではなく人ですね」バクシンが同言する。

 周囲の木々には微かな木の葉擦れのそよめき以外、一切動物の鳴き声も足音も聞こえない。

 一行は気付かないふりをして、そのまま先へと踏み入って行く。

 すると、木立の切れ間に粗末な山小屋が建っていた。

「いい所に家がありますね。丁度疲れたとこだし。木樵さんかな」

「何か情報が欲しいわね。犬狗族の居場所は近いはずだし」

 そんな期待を込めて一同が戸を叩くと、目尻に痣がある小柄な男が出て来た。

「なんでしょか?おや、お仲間で山登りですか。よくこんな剣山に。珍しいですなあ」

 荒屋ですがどうぞと、男は親切に休憩を勧めてくれた。

 屋内にはもう一人似たような背丈の男がいた。こちらも頬に痣が浮いている。

 二人は猟師らしく、ここは狩猟遠征時の仮宿なのだと言った。

「聞き苦しいが、お二方。ただの旅人じゃあるめえ。魔術師に拳法家。違いますかな?」頬痣の男が尋ねる。

「よく分かりましたね。私は此処から少し離れた汎空国の修行者でして」

「そうでしたか。さぞ、腕が立つんでしょうねえ?」

「それほどでも」

 犬狗族のことは二人とも知らなかった。

 進展がなくがっかりしたが、猟師の歓待に一同は神経を休める。

 しかし何故かユンケルは、一人気を許さぬ表情だった。

「あんた方、いつからこの小屋にいるんだ?」

「はて、昨日の晩からですが」目尻痣の男が答える。

「じゃあ、いつまで滞在するんだ?」

「はて、いつまでか。決めておりません。魔術師様、それが何か?」

「あんたら、どうも猟師の人相じゃないな」

 言われて、男たちはさっと真顔になる。

「ハッハッハ。よく言われますだ。この痣があるからでござんしょ」

「ユンケルさん、失礼ですよ。せっかく休ませて貰ってるのに」フェルナンが丸太椅子に肘を付いて欠伸をする。

 他の三人もリラックスして緊張を解いている。

 日も暮れ、今夜は小屋で一夜を明かすことになった。

「寝床は悪いですが、山の清澄な空気で気持ち良い睡眠ができますで」目尻痣の男が優しく教える。

 一同が寝静まった頃、山小屋の外に出た猟師の男たちは嘘の仮面を脱ぎ取った。

「ヒッヒッヒ。最高の実験台が見つかったな。バルガ様の悲願がついに叶うぞ」目尻痣が卑猥な笑いを漏らす。

「そうとも。学者どもはザコにしても、あの二人はとびきりの上物だ。傑作品が出来上がること請け合いだぜ」頬痣が自分たちの手柄にウキウキする。

「だけど、かなりの手練だ。油断はできんな」

「なーに。俺たちはバルガ様の妖術で超人になってるんだ。負けるわけがねえ」

「しかし念には念を入れた方が賢明よ。夜襲で一気にお縄にしちまおう」

「そうだな。暁の褒美には、何くれるかな?」

「そりゃおめえ、食い物たらふくに、金貨百枚は堅いんじゃねえか」

 男たちは口を押さえて笑い転げるのだった。

「お馬鹿さんたち。この大賢人ユンケル様を欺き通せると思っていたのか?」

 小屋の中から敢然と放たれる声に、男たちは慌てて振り返る。

「てめえ!分かってたのか!」頬痣が悪態をつく。

「あんな下らない演技に、ユンケル様が騙されるわけなかろう」

「ちくしょう!おい、こうなったら俺たちの怖さを思い知らせてやろうぜ!」

「よし。へなちょこ魔術師め。俺たちの動きを見切れるか!」目尻痣が言い放つ。

 すると、男たちの身体がメキメキと膨らみ、服を破って筋肉が露出した。

 二人は怪物じみた熊のような剛体になり、狂おしい呼気を発する。

 そして、弾丸のような速さで夜の暗がりを四方八方に飛び回り始めた。それは流星のような光速で、視力で捉えるのは困難だ。

「ふん。中々のスピードだな。だがそれがどうした?」

「強がるな阿呆が!とても見切れまい!」目尻痣が侮蔑をぶつける。

「かなり自信がおありのようだが、取り柄はすばしっこさだけかな?」ユンケルは耳たぶを掻きながら質問する。

「スピードだけじゃねえ。パワーもメガトン級よ!」頬痣が豪語する。

 男たちは互いに四肢を絡ませて、その肉弾ごとユンケルに突撃してきた。

 あまりの速さと衝撃で、ユンケルは大きく突き飛ばされる。

 すぐに立ち上がるも、間を開けさせずに、肉弾が彗星のように飛来して、その度毎に体当たりをお見舞いする。

 ユンケルは起き上がり小法師の如くに翻弄されてしまう。

「もう時間の問題だぜ」頬痣が勝ち誇る。

「頭に当たった時がてめえの最期だ。大丈夫さ、殺しはしない。大事な試作品だからな」目尻痣が嘲笑う。

 しかし当の魔法使いは平然と眠たそうな口調で反問する。

「あれ?おたくさんたち、勝った気でいるの?まだ俺様は何もやってないのにさ?」ユンケルが惚けた顔で通達する。

「もうこれで、そっちの手の内は全部かい?なら、そろそろ真面目に行こうかな」ユンケルは例の杖を取り出し、渦風を発現させた。

「いいかな?チョイ強めの魔法だから気をつけなさいよー」究極の猛風が、空中で組み合わさった肉弾に向け発射された。

「な、何なんだ!この風は!」一転、目尻痣が慄く。

「おい!や、やばいぜ、これ!」頬痣も動転して真っ白になる。

 敢え無く男たちは、肉塊として重なったまま、闇空の彼方に吹き飛ばされて見えなくなった。

「ご愁傷さまー!己の能力を見誤ったのが災いしたようだねえ。まあ、これで当分悪さはできんだろう」

 大轟音に、四人が小屋から飛び出して来た。

「ユンケルさん?こんな夜更けに何してんの?」フェルナンがトロンとした目を擦る。

「あれ?猟師さんたちはどこよ?」

 まだ夢の中の助手たち。だがバクシンは事を了解した。

「ユンケルさん。やっぱりあの二人、人間ではなかったんですね?」

「妖術師に御魂を売った愚か者だ。まだ掃除が必要みたいだな。この山に宿主が潜んでいるらしい」

「何と。まんまと誑かされたか。山間至るところに鬼あり。参った参った」ラッセルが髪を掻きながら吐息を零す。

 


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