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闇底の聖剣エクスカリバー

「よく邪心を拭い去ったな。お前たちこそ、秘力を授かるにふさわしい」

 闇の声が一同を讃えると、闇の先に光の線が走り、見る間に長い吊り橋が出来上がった。

「恐怖を克服するのだ。そうすれば、反対岸に到達できる」そう予告するなり、声は消えた。

 一行は立て続けに現れる試練にすっかり疲弊した。

「何でまた、翔狼族の人たちはこんな迷宮に武器を隠したんだろうなあ。まったく、回収する人の身にもなってよ」

「秘剣を手にするに値する者がどうかを試すためでしょ」

 吊り橋は不安定で足元がユラユラと揺れ軋む。

「あーあ。僕の大学の同期は、もう結婚して子供がいる奴もいるんですよ。安定給で、時々旅で歴史探訪なんかして、楽しそうなんだよな。僕たちみたいに旅が仕事だと、バカンスで旅なんかしても楽しくないし。やっぱホワイトカラーのままで、冒険は趣味にとっておけばよかった」

「私だって、後悔がないわけじゃないわ。歴史研究員を続けて平穏に過ごしていれば、こんな埃だらけにならずに済んだもの」

「もう遅い。君たちはロマンと叡智を求めて、私に付いて来たんだろう。もうどっぷり冒険家に染まっているではないか」

 窮境に直面して、学者三人は自分が通れなかったもう一つの人生街道に思いを焦がした。

 冒険家など、普通人がなりたくてもなれる職業ではない。

 未来には何の保障もない厳しい人生が立ちはだかる。それでも彼らは腹を括り勇断した。

 世界が自分たちを待っているという確信があったからだ。

 木製の橋桁に身を委ねながらしばらく行くと、闇の中を白い幽体が思惑ありげに、一同の上を行きつ戻りつして様子を伺いにやって来た。

「わあっ!逃げ場がないよ!」

 その動きはどんどん素早く活発になる。丸い頭に細い下肢のオタマジャクシを思わせる何かは、しきりに一同を惑わそうと旋空を続ける。

「課題は恐怖か」ラッセルが謎を解読するように呟く。

「いかにも。これは恐れというマイナスの想念が発露したものだな」ユンケルが目尻を尖らせる。

「どういう事ですか?」フェルナンは及び腰で臆病顔になっている。

「あなたが怯えるからじゃない?だからあの白いお化けが元気になるのよ」

「ケイトちゃんの言う通り。フェルナン君、君が足を引っ張っている。君だけ恐怖心が群を抜いて強い。何とかし給え」

「な、何とかって、どうしたらいいんですか!」

 するともう一体、白骨化した風貌のおぞましいデスモンスターが漂い出て来た。

 デスモンスターは高速滑空しながら吊り橋に体当たりをし、また橋板に噛みついたり揺すぶったりと、一同を闇底に落とそうとする。

「やめろ!落ちる!」

「フェルナンよ。恐れを鎮めるのだ。ここは魂の霊的世界であることを忘れてはならん」

「教授!鎮めろったって、怖いものは怖いんだから!」

「他の者は皆鎮めている。落第坊主はお前だけだな」ユンケルが突き放すように鼻で笑う。

「そんなー。僕だけ?」

「そうよ。今こそ、過去への哀愁を断ち切るチャンスじゃない」ケイトは含み笑いで叱咤する。

 魔物の幻影体は、疾風怒濤の舞空でさらに執拗にフェルナンへ襲いかからんとする。

 吊り橋は一層烈しく振れ、一同はどうにか辛抱して落橋を免れる。

 追い詰められたフェルナンは、目を閉じ深呼吸をする。

 やってられない。行くとこ触るとこ、危険危険ばかりだ。自分はトレジャーハンターには向いていないのか。

 リストラされた後、別の出版社を探して編集者をやっているべきだったか。

 いや、自分は冒険学者になったんだ。何を今更。これからも世界中を冒険して、世にも珍しい宝物や財宝をじゃんじゃん発見しなきゃならない。大丈夫だ。仲間も用心棒もいる。死ぬことなんて絶対ない。ないないない!

「もう怖くなんかないぞ!ヘボ幽霊!勝手に飛んでろってんだ!」フェルナンが闇を引き裂くように気合い全開で叫んだ。

 すると、白い幽体とデスモンスターの動きが散漫になり、その姿が霞のようにぼんやりとなった。

「いいぞ、フェルナン。これぞ、真の冒険者への覚醒だ」ラッセルが感嘆して褒めちぎる。

「どうだ!僕だって勇気ぐらいあるんだからね!」フェルナンはすっかり舞い上がって恍惚となる。

 やがて、迷い飛ぶ幻影は闇に溶けていなくなった。

 

 吊り橋を渡り切ると、行く手から何故か芳しい薫りが立ち込めてきて、一行の鼻を愛でた。

「これは神々しい霊臭。宝は近いぞ」ユンケルが肥えた嗅覚でその意味を感じ取る。

 芳香に誘われるようにして、しばらく岩路を歩くと、地表から巨大な氷柱が針山の如くに生え連なる空間にたどり着いた。

「一体どこにあるのかなあ。これじゃ歩けないよ」

「炎で溶かせばいいけど、魔法は効かないからね」

「ケイトちゃん。手段は一つだよ。念力で氷を融解するしかない」ユンケルが氷柱に触れて言う。

「ならば、やるまでだ。全員が念を放射すれば突破できるカラクリになっているのだな」ラッセルは早速深呼吸をして合掌すると、黙念を送り始めた。

 他の四人も集中力を高めて想念を放出する。

 しかし、なかなか氷柱はびくともしない。

「漠然とした思念では駄目だ。頭の中で炎をありありと想像するのだ。同時に氷が氷解するイメージもな」ユンケルが強い念波を出しながら、余念なくアドバイスする。

「難しいなあ。火山をイメージすればいいのかな」

「他事考えちゃ駄目よ、フェルナン。シンプルに、具体的に想像するの」

 ラッセルは没我の境地に入っている。

 ユンケルとバルトスは潜在霊力を如何なく発揮して、甚大な波濤の想念を搾り出している。

 すると、氷柱の上にぼっと火花が散り、それが少しずつ大きくなって炎が出現した。

 その火柱は氷柱に広がり、ドロドロと氷が液体化していく。

 数十分後、一面に突き出ていた氷柱の隊列は悉くなくなった。

 そして視界の開けた先に、黄金色の宝箱が見えた。 

 一行はさらなる罠を警戒し、慎重に歩み寄り、箱を開けた。

 そこには、翔狼族が秘匿したという秘剣が、この世のどんな剣よりも神々しく壮麗な光を放っていた。

「古の神剣、エクスカリバーに間違いない」ラッセルが心を奪われたかのような面相で覗き込む。

 


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