うわさの物件
ちょっぴり。
俺は不動産屋の張り紙を見て、駅近の格安物件のアパートに決めた。
賃貸契約の際、不動産屋の社員は、俺の事をちらりちらりと上目遣いに見つめ(分かっていますよね)、目線で伝えながら手続きを進めている。
俺は一刻も早く、この作業を終えたかったので、黙っていて必要な時に頷いていた。
すると、向こうが痺れをきらしたのか、説明の終り頃に、
「あのう」
と、こちらを伺う。
「なにか」
と、俺。
「わかってますよね」
社員は念を押す。
「わかっていますよ。ここで女性の方が・・・ですよね」
俺は面倒くさそうに答えた。
「なんで、それを・・・まあ、事故物件であることに了承していただいているんなら、よろしいのですが」
「何を今更」
「それでは、ありがとうございます」
「では、入居日は・・・」
最短で3日だと言われたので、3日後、俺はアパートへ引っ越した。
見慣れた部屋に天井、忘れようと思って飛だしたこの部屋。
だけど、ほどなくして、ここはでるという噂をきいた。
でるのか。
でてくれたのか。
俺はがらんどうの畳の部屋に胡坐をかいた。
いるのか?
いるのなら。
「でておいでよ」
俺は呟いた。
(あなた)
愛しい人の声が聴こえる。
俺は声のした方へ振り返った。
切なめ。