解読
暗号解読。
ネット界隈で、でまことしやかに囁かれている。
謎の暗号解読。
それは絶対に解けないという噂だった。
「この暗号を解いた者には、素晴しいことが待っている」
最初の一文にはそう記載されていた。
いかにもだが、夢のある話だし、もし解読出来たのなら、一躍この界隈のヒーローになれる。
多くのネット民がトライしてみるも、悉く解読は出来なかった。
というのも、ひとつの暗号を解読すると、次、また次と芋づる式に暗号が増えていくのである。
確認されているだけでも30問は突破しなくてはいけない・・・この暗号解読にどれだけの時間を浪費するのだろうか、書き込みには「もう答えなどはない」「チームを組んでやってみたが、もう限界、このエンドレスゲームから離脱する」「最初っから問題数くらい教えろや」「無理ゲー」「時間の浪費ワロス」「いつか解き明かす勇者に期待する」等々、リタイヤする者達が続出し、いつしか、この暗号の存在も忘れ去られようとしていた。
だが、人知れず暗号を解き続ける者がいた。
高梨は50問を突破し、ついにファイナルと銘打たれた暗号へと辿り着いた。
「おめでとうございます。これで最後の問題です。解き明かした暁には、お約束の素晴らしいことがまっています」
暗号の前文はそう書かれていた。
彼はコーヒーを啜り、パソコンと向き合った。
大量のノートと、演算する為に自作したコンピュータ、3日3晩一心不乱に暗号と向き合った。
そしてついに彼の執念が実り、奇跡的に最後の暗号が解読されたのだ。
「やった!」
高梨は両手を挙げて喜んだ。
「おめでとう」
彼の全身を鳥肌が襲った。
おめでとうと言った声は、パソコンからではなく、右の耳元から聞こえたのだ。
人の気配と息遣い。
(いつのまに)
そんな疑問に、
「君が夢中になっている間にね」
彼の知らない者は答えた。
「・・・・・・」
「さ、約束の素晴らしい事をプレゼントするよ」
「え」
「おやすみ」
高梨の視界は暗転した。
「さ、この世の苦しみのない。素晴らしい世界へいってらっしゃい」
彼の耳元に微かにそう聞こえ消えた。
ダークやね。