深夜の合わせ鏡
噂の・・・。
まことしやかに囁かれる。
深夜の合わせ鏡の噂。
その時間帯に合わせ鏡をすると、鏡の中の自分にどっかに連れていかれる・・・または入れ替わるなど。
ただの噂の都市伝説、そんなもの信じるのはどうかしている。
俺はずっとそう思っていた。
だけど、鏡の向こうにもし異世界があるのなら行ってみたい。
こんなクソったれな、リアルとはおさらばして、新たな可能性を見出したい。
人生を謳歌しワクワクしたい。
同じことの繰り返し、変わらない、苦行に似た世界はもう御免だ。
俺はその日、酒を食らい、横になっていた。
スマホのアラームがその時刻を告げる。
俺はのっそりと立ち上がり、手鏡を持って、脱衣所へと向かった。
酔った勢いというテイにすれば、笑い話で済ませる事が出来る。
どうせ何も変わらない、変わることもないから。
脱衣所に立ち、手鏡を背の後ろに回す。
それから閉じた目をゆっくりと開く。
鏡の向こうの俺が笑っている。
手まねきをしている。
後ろの俺が近づいて来る。
どういうことだ。
どうなるんだ。
・・・・・・。
・・・・・・。
俺は脱衣所で目を覚ました。
どうやら、ここで酔いつぶれてしまったらしい。
ぼんやりとする頭で周りを見た。
手には手鏡を持っていないし、近くには落ちてもいない。
合わせ鏡はどうやらしなかったようだ。
どうせしたところで・・・だ。
はは、馬鹿馬鹿しい。
俺は溜息をついて立ち上がる。
脱衣所をでようとすると、そこは・・・。
はなし。