むかしのはなし
怖い噂。
ずいぶん昔の話でな。
水道も電気もガスも無かった不便な時代のこっちゃ。
これはじい様から聞いた話でな、だいぶ耄碌していたんで、作り話かも知れんけど、おめさがそこまで言うなら話そうかい。
この村であった神隠しを・・・。
じい様は、この村の庄屋の息子として生まれたそうで、食うに困らず、なに不自由なく暮らしていたそうだ。
優しい父様と母様に蝶よ花よと育てられ、じい様はこの暮らしがずっとずっと続くと思っていたんだと。
この村は数年前から、村の子どもたちが神隠しにあっていると噂になっていた。
「あくまでも噂だよ。噂」父様はそう言って、不安がるじい様の頭を撫でたそうだ。
だけど、じい様の友達が忽然と姿を消して、村人たちが大捜索を行った時は、きっと自分も神隠しに会うんじゃないかと震えておった。
そんな時でも父様は「ワシがおるから大丈夫」と言ってじい様に聞かせていた。
しばらく経ち、ある日の夜のことじゃった。
父様と母様がもの凄いけんかをしていたそうで、じい様が恐る恐る障子向うの2人の様子を見てみると、母様が血を流して倒れているのがみえた。
母様は「お逃げっ!」と叫び、じい様は訳も分からず泣きながら逃げたした。
暗い夜道を泣きながら走っていると、どこからか声がしたんだと。
それはじい様の友人だったそうな。
「ここだ。ここだよ」ってな。
じい様は一瞬、逃げ出しそうな気持になったが、懐かしい友人の声にひかれてフラフラと林の中にある廃屋へと向かった。
友達に会えると駆けだしたじい様は、次の瞬間、首根っこを抑えられ、地べたへ引きずり倒された。
「どこに行くっ!ここに何しに来たっ!」
その声は父様、あの優しかった声ではなく、低く怒りに満ちた恐ろしい声だったそうな。
じい様は訳が分からないままも、とにかく謝らないといけないと思い、
「ごめんなさい。ごめんなさいっ!」
と叫び続けた。
優しい父様はそこにはいなくてな。
「お前っ!さては知っていたんだな。そうだろ!あいつも知ってしまった。お前もか!」
じい様は、信じられない力で父様・・・男に首を絞められたんだと。
意識が薄れ始めた時、皆の声がした。
・・・皆というのは神隠しにあった子どもたちの声だったそうな・・・。
すると男は半狂乱となり、
「来るな、来るなっ!」
と、喚き散らしながら消えて行った。
翌日、警官に助けられたじい様が目を覚ました。
父である男は沢で溺れ死んだそうな。
そして、その廃屋には・・・言わんでも分かるじゃろ。
これが、ワシがじい様から聞いた話じゃ。
真実は・・・。