バズのささやかな計画
これが例の……間違えて先に投稿してしまった3話です。
まことにもうしわけありませんでした。
2話ないと話意味不明ですし……
「俺、バズ。こっちが、親父の―――」
馬車が走り始めて直ぐ、赤毛親子の息子の方が口を開いて自己紹介をした。そして、それに父親が「ドッシュ」と続けて自己紹介をした。
「俺ら、親子で商人やってんだ。少し離れたところで村まるごとで小麦作って、それを俺らが売りに行くって感じで………」
そう言って、彼らは自分の事を簡単に喋ってくれた。
きっと少しでも自分を安心させてくれようとしているのだと気付き、その優しさがとても嬉しかった。
「―――ところで、町まで後三十分くらいで着くけど、着いたらどうするんだ? ええと……」
急に何か言いにくそうにしているバズに、首をかしげてからハッとする。
気付けば、自分のことは何一つ言っていない。名前すらも。
だから、彼がどう呼びかけて良いのか悩んでいるということに気付いた。
「あ……すみません、自己紹介まだでしたね。カナって呼んでください、バズさん」
「わかった。んじゃ、俺もバズさんじゃなくて、バズな」
若い二人のほほえましい光景にドッシュの方は、「儂も、ドッシュと呼んでくれんかなー?」とふざけて言った。
すると、顔を真っ赤にしたバズが偉い剣幕で言い返した。
「っま、親父なんかはほって置いて。それより、本当にどうする気? アテでもあんの?」
着の身着のままの状態で歩いていたカナを見れば、一目でそれまでの経緯があまり良い状況でもないことがわかった。足も引き摺っているようだったから、もしかすると……という考えもある。正直、アテがないとあまり良い結果にはならない気がした。
(もし無いなら、親父なんとか説得して、村に連れて帰っても……)
バズはそう考えるようにもなっていた。
出会ってまだほんの少しだが、バズはカナに惹かれつつあった。
何しろ、カナはそれだけ綺麗なのだ。少し青みを帯びている変わった色身の金髪は長く、まだ若いからか髪を結わずに垂らしている。肌の色はとても白く、日の光を浴びたことが無いかのようだった。目は空色で、ずっと澄んでいて、ぷっくりとした唇だけが紅を塗っているわけでもないのに真っ赤だった。
そして、何より繊細で儚げで、守ってあげたくさせるのだ。ただの美少女というわけではなく、決して誰もが振り返るような目映い美人ではないものの、誰の心にも優しく降りてきそうな、そんな美少女だった。
(正直、初めて見たとき天使かと思ったし………)
父親の手前、絶対に口には出さないが、正直カナの第一印象はそれだった。
例え彼女じゃなくても、例えばくしゃくしゃのおばあさんだったとしても馬車は止めただろうが、今回は止めた相手が彼女でよかったと本気で思うバズだった。
だから、カナの返答には気になった。
「アテは無いんですけど……ただ、町で何か職を見つけようと思います。お針子とか給仕とか……」
(やった!)
バズは彼女の言葉に内心喜んだ。勿論、顔にも口にもおくびも出さない。あくまで大変そうだ、という表情を見せた。
「それって、大変じゃないか? 最近は紹介状のない子なんて雇ってもらえねぇしな。なんなら―――」
そこで、バズの言葉は父親によってかき消されてしまった。
しかも、バズの作戦(本人に悪意はないので、まぁ善としておこう)を潰す一言で。
「―――なんなら、儂が知り合いのバーのマスターに紹介しちゃろう。60過ぎのジジイじゃがな、あいつの淹れるコーヒーは上手いんで、まーまー繁盛してんぞ。カナちゃんなら、雇うてくれるはずじゃな」
無理なら、儂が押し通してやる、などと勇ましい格好をして(でっぷりとした腹がさらに出て、間抜けなだけだが)、誇らしげにガハハと笑って見せた。
(そんなヤツの誘いなんて、断っちまえ。ってか、断ってくれ)
そう願わずにはいられなかったバズだが、そんな願いは勿論叶うはずもなく―――
「まぁ、本当ですか! とっても助かります。本当に良いんですか、ドッシュさん?」
「勿論勿論! 困ったら、なんでも儂に言うんじゃぞ。あいつがいらんことして来たら、助けちゃるからなぁ」
再びガハハと笑う父親と嬉しそうに微笑みつつも、そんな彼に尊敬の眼差しを送るカナ。そんな二人の図を見て、そこで見られているはずであった自分の図が無残に崩れ去るのを確信したバズだった。
同時に、その光景を一刻も早く終らせたくて、馬車馬に鞭を打ち、町へ急いぐのだった。