壊れた鳥籠と“カナリア”の過去
今回は、カナリア自身が語る形になっています。
プラスいつもより短めです。
六年前。
私は都に居ました。どこともわからない都の下街の片隅に。
あの時も春先だった、と思います。
否、まだ冬だったかもしれないません。
石造りの床は、とても冷たかったから………。
その日は、とても疲れていたんです。物取りに追われた日だったから、袋小路に隠れて眠っていたんです。
だから、気付きませんでした。
眠っていた私は、ゼクルス―――ええと、あの人買いに簡単に捕まってしまったんです。
前置き長いですかね?―――え、そんなことない?
けど、もう直ぐです。
私が彼に会ったのは、人買いに捕まった時です。
初めて会ったとき、正直びっくりしました。
だって、目の前にすごく綺麗な人が立っていたのですから。
―――いや、外見のことを言っているわけじゃないんです。まぁ、外見も綺麗な人ですけど、私の言いたいのはそんなことじゃなくて………
衣装のことです。私、下街の牢屋に入れられていたんで、とても汚くて。だから、驚いたんです。
って、話が反れましたね。
会ってからのことでしたね。
私、本来ならどこかのお屋敷に売られる予定だったらしいんです。
けど、その寸前で彼が現れて、私を救ってくれた。
彼は、人買いを捕まえるために来た人だったようらしいです。
同じ様に攫われて来た人たちは、家に帰されたようです。私のように家のない人でも、私以外は皆成人していたので、そのまま他に職を斡旋してもらったりして難をしのいだそうです。
ただ、私は当時13歳で、帰る場所もなかったので、ここへ。
たぶん、彼の温情でしたのでしょう。
これが、私と彼の出会いです。
いざ言ってしまえば、大そうなことでもないでしょう?
それから、私は彼の下で暮らし始めました。
場所は、ハインディック伯爵邸です。
―――え? あぁ、それは私が屋敷ではなくて、温室にいたからです。屋敷のずっと奥にあった上、私はそれから一度もそこを出ていませんから会わなかったのでしょうね。
生活の方は………順調と言えば、順調でした。
衣服を初めとする生活用品は彼が用意してくれましたので、私を悩ませることと言えば、彼が夜行性の人間だったことです。
―――トリシャさんはわかってくれますよね? 夜、眠いんです。おかげで、生活のリズムが狂いました。って、また話が反れますね。気をつけます。
とにかく私達は、お互い干渉せず、その場にあるだけ、といった関係を取り持ちました。
おかげで、私は彼の名前を知ることもなく、彼が私の名前を知ることもなく、そのまま六年が過ぎたのです。
今、私がここに居ることが出来るのは、彼のおかげです。
六年前、私を人買いから救ってくれたことで、私は今ここに居ることが出来るんです。
本来なら、出て行こうと考えるだけでも彼に対して私は失礼なことをしているんでしょう。けれど、もう限界なんです。
私達は、もう今までのようには居られない。
優しい鳥籠は、壊れてしまったから―――……