旅は道ずれ世は情け
すみません直ぐ直したんですけど、(万が一)もし読んでしまった方がすみません。2話投稿せずに、3話投稿しました。こっちが正しい2話です。
人気のない街道を歩く者がいた。
半袖の白いワンピースに柔らかい布の室内履きを履いた明らかに外に居るには不自然な格好の十代半ばの少女。
春とはいえまだ朝は寒いので、少女は色の白い腕を擦る様にしながら進んでいた。
「……寒い」
今までずっと暖かい場所でゆったり生活してきたツケなのだろうか。かなり温暖の差に弱くなっていることに気付かされる。
早くどこかの町に行って、落ち着けるところを見つけたかった。
(でも、町ってどこにあるの………)
もう一時間弱この街道を歩いているが、それらしきものは見えてこない。それどころか、人っ子一人会うことはなかった。
勿論時間帯の問題も有るだろう。しかし、早朝からずっと歩き続けている。あまり足が良くないので、正直早く町に行きたかった。
―――そういうわけで、とにかく歩き続けるのだった。
○
それからさらに一時間歩き続けると、道が少し大きくなって来たことに気付いた。
(町が近いって事?)
確信は無いが、少しでもその兆候が見られたことが嬉しかった。
街道の周辺の景色は、本当に綺麗だった。街道の赤レンガに、桜と湖と色とりどりの花々と若葉が映えるのだ。けれど、今の自分にはそれがどうしても悲しく見えた。
疲れきった足を叱咤して歩みを速めようとしていると、自分の来た方向から馬車がやって来た。
(もしかして………)
馬車は予想通り、自分の隣で止まった。けれど、予想とはまた違った理由だった。
「お嬢さん、どっから来たの? こんな春初めに……もしかして、家出?」
馬車に乗っていたのは、二人組みの商人だった。荷台には、たくさん売り物が乗せられている。たぶん親子だろう。二人とも癖の強い赤毛をしていて、瞳の色も同じ独特な森の色をしている。
そして、御者をしていた息子が声を掛けてきた。
(家出………)
あながち間違いではない、と思った。
それに、十代の少女が朝からそんな薄着で一人街道を歩く理由は、たぶんそれくらいしかないだろう。
「……すみません、町に行きたいんです。この先に町はありますか?」
問いに答えなかったことから、訳有りと察したのだろう。何も尋ねてこなかった。
「町なら、もう少し向こうにあるよ。ただ、君の足じゃ、後三時間はかかるぜ」
「それでも、いいんです。教えてくださってありがとうございました」
丁寧に頭を下げると、ごつんという痛そうな音と「うぎゃあ」という悲鳴とが聴こえて、顔を上げると、赤毛の親子の息子の顔までが真っ赤に染まっていた。
「―――ぶぁっかもんっっ! 若いお嬢さんがこんな状況なのに、こんなに丁寧に頭を下げているのに時間を教える奴がおるか! それがわかっておるなら、さっさと『馬車に乗って下さい』ぐらい言えんのか! 儂ぁ、息子がそんな腑抜けだったとは知らんかったわ!」
今度は中年の父親の方が、顔まで真っ赤に染め上げて怒鳴り散らしていた。
勿論、殴られた青年の方は納得がいかず、父の理不尽(?)な暴力に応戦する。
「親父! 誰も乗せねぇとは言ってねぇだろうが! しっかしなぁ、いきなり『乗りませんか』とか誘っても怪しさ満点だろう? 男二人組みの商人の馬車だぞ! 向こうだって、不安におぼえるからこーやって婉曲に………」
「あぁ、そうか! お前頭いいな!」
「だろー。親父ももっと頭使えよ………って! そんなことより、こんな馬車でよかったら乗っていかねぇか? 男二人のむさい馬車でよければ。紳士じゃないけど、ちゃんと町まで送り届けることは保障するから」
そう言う彼は、十分紳士だった。
二人の言い合いがあまりに面白かったので、くすっと軽い笑みを浮かべてしまった。
「はい。よろしければ」
すると、途端二人に笑みが浮かんだ。
本当に人の良さそうな笑みである。特に、父親の方は顔が丸いので、その時の印象は、お月様のようだった。
「旅は道ずれ、余は情け、ってな。さぁ、お嬢ちゃん、乗って乗って」
「失礼します」
「どーぞー、って親父それ古いよ」
「え………」
こうして、一人の少女と商人の親子を乗せた馬車は、直ぐ側の町まで進みだした。